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SUPER GT 第7戦:篠原拓朗(No.21 Audi Team Hitotsuyama)「チェッカーを受けたあと、チームに『本当に勝ったんですか!?』と確認した」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子川端選手と抱き合う篠原選手
第7戦を迎えた今シーズンの戦いでは、搭載するサクセスウェイトも半減。各車の勢力図にも動きがあるなかで、GT300クラスでシーズン初優勝を達成したのがNo.21 Audi Team Hitotsuyamaだった。絶妙な戦略を味方に、自身もSUPER GT初勝利を果たした篠原拓朗選手はどのような気持ちで戦っていたのか、話を訊いた。
──自身初優勝のレースから3日(※1)が経ちました。心境に変化はありますか?
篠原:やっと実感が湧いてきたかなというのと、3日経ってもまだたくさんの方から祝福のことばをいただけてすごくうれしい気持ちです。(11月20日が自身の誕生日だが、この勝利によって)ちょっといい出だしになりそうな気がします。
※1:11月10日、インタビューを実施。
──今回、予選結果がシーズンベストである5位でした。これが優勝への流れを作ったと言えるのではないですか?
篠原:まず、金曜日にチームミーティングがあったのですが、そのときに先輩(でありパートナー)の川端(伸太朗)選手がいろいろセットアップのことを提案してくださって、チームとしてもトライしてみようという流れになりました。その結果、トライしたセットアップがものすごく良くて。土曜日の公式練習の走り出しからすごくいい感じで、それが予選でも好調を維持できた要因だと思います。
(Q1担当の川端が6番手でQ2へとつないだが)今回は、チーム代表の一ツ山(亮次)さんから「川端選手のタイムをしっかり抜いてくるように!」という指示があって、ちょっとプレッシャーを感じながらも川端選手がQ1を通ってくれたので、がんばるしかないなという気持ちでアタックした結果、タイムが出たのでホッとしましたね(笑)。(2014年、スーパーFJのもてぎチャンピオンだが)もてぎが得意かはわからないんですけど(苦笑)、相性はそんなに悪くはなさそうです。ここまでずーっと不甲斐ない予選が続いてしまったのですが、自分で納得できる予選ができたと思います。
──緊張とプレッシャーの中で挑んだ決勝だと思います。
篠原:予選が終わってからのタイヤの状態を見たのですが、非常にいいものでした。ロング(決勝でのタイヤの持ち)はいいんじゃないかというチームとしての予想もありながら、今年の過去6レースはノーポイントで来てしまっていたので、どこか僕の気持ちの中ではちょっと不安な部分がありまして……。5位スタートだったので順位を下げてしまう心配もありながら、表彰台にも乗りたいという気持ちもありながら……という感じでしたが、チームでは、決勝前に『決勝が獲れたら、すごくいい終わり方ができるよね』という話をしていたんです。結果的に優勝できたので、ものすご~くいい流れでレースを終えることができました。
21号車 Hitotsuyama Audi R8 LMS 篠原拓朗選手
──ところで。お話しする様子からはレーシングドライバーらしくない穏やかな雰囲気が伝わってきます。レース中も同じ感じですか?
篠原:どうなんでしょう(笑)。あまり意識したことはないですが、余裕があるときというか普段とレース中では、そんなに変わらないと言われますが……。ただ、たまに余裕がなくなると無線でしゃべったあとに自分でも(違いに)気がつくことはあります(苦笑)。チームからは『(無線の声が)聞き取りやすい』とは言われますが……日本語がヘタで、ちゃんと伝わっていればいいなという部分も不安なポイントなんです……。もてぎの優勝会見のとき、端から僕、川端選手、(GT500勝者の)野尻(智紀)選手、福住(仁嶺)選手って並んでいたんですが、お世話になっている方から『おまえは他の3人と比べて、しゃべるとだいぶ残念だ』という話があったりして(笑)。『レース、できるの!?』と聞かれることもたまにありますしね。レース自体はカート時代から合わせて20年やってるので、ちょっと悲しいです(苦笑)。
──そうなると、レースを始めたきっかけが気になります。どういう経緯があったのですか?
篠原:もともとちっちゃい頃から”ビビリ”で。何事も挑戦したがらなかったんです。両親が、家族仲良くみんなでなにかをやりたいと思っていたとき、ポケバイ(を介して)で家族が仲良くしているのをテレビで観たらしいんですね。両親はクルマが好きだったので、『じゃぁカートに乗せてみよう』という話になったのですが、僕は3、4ヶ所(カートができる施設に)連れ回されてもずーっと『イヤだ!』って泣いてたんです(笑)。で、最後にたまたま(遊園地の)よみうりランドに行ったとき、そこに風で回っている三角くじ(エア抽選機)があって、『あれ、やりたい!』って言ったら、『1回、電動キッズカートに乗ったら(くじ引きを)やっていいよ』って(ことになった)。で、しぶしぶ(カートに)乗ったら、ものすごく楽しくて。そこからハマりました(笑)。両親にも感謝ですが、風で回っている三角くじがなければ今の自分はないと思うので(笑)。それがきっかけでした。
──さて、話を決勝レースに戻します。序盤、まずNo.88 JLOC ランボルギーニ GT3を追う展開となりました。近づくルーティンで採った戦略の内容、その後のご自身の走りを振り返ってください。
篠原:(スタートドライバーの)川端選手が、ちょっとずつ61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)と81号車に対して差を詰めていて、またピットが空いていたこともあってそのタイミングでピットに入ったこと、そこでリヤ2輪交換を作戦として採りました。もちろん4輪交換も考えてはいたのですが、走っているときの川端選手のフィーリングを教えてもらい、結果として2輪交換を決めました。
21号車 Hitotsuyama Audi R8 LMS
作戦としてもちろん賛成だったし、(前戦の)オートポリスでもその作戦を採っていたので、手順だったりそういうところは問題がないだろうと思っていたし、落ち着いてできたかなと思います。ピットアウトして、チームから『実質2番だよ』と教えてもらったんですが、僕としてはアンダーカットがうまく行ったとは言え、僕が(コース上で)抜いたわけではなかったので、2位になった感覚がなかったんですね(笑)。ただ、前にクルマがいる以上はがんばって追いついて抜かなきゃいけないですし、しっかり(後続を)引き離し、ミスなくまとめ切り、またタイヤも使いすぎずに最後までしっかりマネージメントをして走りました。
──その中で、クラストップのNo.55 ARTA NSX GT3が目前に迫りました。抜きどころは考えていましたか?
篠原:今、『マネージメントしながら…』とかしゃべってますが、走っているときは、結構いっぱいいっぱいなのでとにかく前を追いかけて……。少しずつ近づいてくるとよりヤル気も出てくるので、そこがうまくオーバーテイクしたタイミングとも噛み合ったのかなと思います。(34周目に逆転したが)そうでしたっけ!?(笑)。正直、どこでオーバーテイクしようかいろいろ考えていたんですが、結果的には(その時点で)見つかってなくて。たまたま2コーナーを立ち上がったところで、川端選手が『抜くなら5コーナーだよ』とアドバイスをもらって、そのとおりに組み立てていったら、うまく行きました。ホント川端選手は……予言者なのかなって思いました(笑)。
──クラストップに立ったあと、頭の中では何を考えて走っていたのですか?
篠原:何を考えていたかと言われると……ちょっと難しいんですが、前のクルマに追いついたってことは、ペースも良かったということなので、とにかく(後続を)引き離せるように……ただ引き離すためにもちろんがんばらなきゃいけないんですけど、そこでへんなミスをしないようにとにかく集中して走りました。ここ6戦、決勝中にペースを落とすタイミングで(GT500に)抜かせてしまったり、いろいろ難しいことがありましたが、今回はその辺も含めていつもよりだいぶ良かったと思います。自分でも驚くくらい悪いことが起きなかったというか、すべてがいい方向に働いたという感じがします。
トップチェッカーを受ける21号車
──トップをキープしたまま迎えたファイナルラップ。気持ちはうまくマネージメントできたのでしょうか?
篠原:ずーっと緊張はしてました。特に残り5ラップくらいからは、よりその辺で気を使う部分が増えました。ただ、逆にある程度ギャップがあったので、そのおかげで最終ラップは落ち着いて走ることができたかなと思います。勝てたんだな、と思ったのはチェッカーをくぐってコース1周まわったあと、チームスタッフや川端選手の顔を見て喜んだときです。実感が湧いてきました。(チェッカー受けた瞬間は)うれしかったんですけど、ちょっと実感が湧いてこなくて……。チェッカーを受けたあともチームに『本当に勝ったんですか!?』って(無線で)確認しちゃいました。うれしいけれどちょっと半信半疑というか、不思議な感覚で1周をまわって……みんなの顔を見たときに、『あぁ、ほんとに勝てたんだな』という気持ちになりました。
──優勝会見後、ピットに戻る間、他チームの関係者からもたくさん祝福の声をかけられてしました。感極まったのではないですか?
篠原:(パドックには)SUPER GTでは違うチームであっても、スーパー耐久や他のカテゴリーでお世話になったいろんな方がおられたので、そういう方に喜んでいただけたのもうれしかったですね。(初優勝の涙はなかったようだが!?)ほんとは、チェッカーを受けて川端選手の姿を見たら(涙が出て)……という感じだと思うんですが、まだ半信半疑の気持ちが大きかったもので……(苦笑)涙が出てこなくて、不思議な気持ちっていうのが一番正しい言い方なのかなと思います。
──2018年、チームのCドライバーとしてSUPER GTにスポット参戦した経験があります。同じチームでの優勝は大きな喜びですね。
篠原:2018年にチームに加入をさせていただいて、決勝を走ることはなかったのですが、2019年、20年とTCR ジャパン参戦のチャンスをいただいて。20年にそこでチャンピオンを獲ることができたので、今年は(SUPER GTでの)フル参戦の機会をいただき、そこで勝てたっていうのは、ほんとに僕としては非常にうれしいことですし、チームへは恩返しのひとつになったらうれしいなと思っています。最終戦の富士はチームの地元でもあるので、今回のもてぎのような走り出しからいいパフォーマンスを示して、いい結果で一年の締めくくりたいです。チームはじめスポンサーさん、ファンの皆さんと笑顔でシーズンを終えられるようなレースにしたいですね。
──最後に、この企画恒例の今日あった”ちょっとした幸せ”を教えてください。
篠原:今、食べるご飯がいつも以上にうれしいです。心のゆとりじゃないですが、今すごくハッピーなので。たとえば、ちょっと時間がなくてコンビニのご飯もすごくいつもより美味しいかもしれないと思ったりとか、ちょっと睡眠時間が短くても、起きたら眠さよりも『まぁ一日がんばろう』とちょっといつもよりポジティブになれている気がします。今日だけでなく、(優勝の喜びで)今はつねに幸せみたいな気がしています。もちろん、このインタビューも! 今回こういう結果にならなければこのインタビューもなかったことですし、そういうことも含めて今すべてのことがうれしいです!
【SUPER GT あの瞬間】
SUPER GT 第7戦:篠原拓朗(No.21 Audi Team Hitotsuyama)
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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