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SUPER GT 第5戦:平峰一貴(No.12 カルソニック IMPUL GT-R)「勝手に涙が出てきて、すごい不思議な気分だった」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子12号車 カルソニック IMPUL GT-Rのドライバー2人と星野監督
「SUPER GT あの瞬間」と題して、レース内容をドライバー自身に振り返ってもらう本企画。一部映像化し本コラムの最終ページで視聴可能である一方、本コラムでは余すことなく全文を紹介する。
先の鈴鹿戦で気を吐いた日産勢。トップ3独占という大活躍の一方で、唯一表彰台に上がれず人一倍悔しい思いを味わったのがNo.12 カルソニック IMPUL GT-Rだった。その思いを払拭すべく望んだSUGO戦では、予選3位から攻防戦を制して念願の優勝を達成! 闘将・星野一義監督も男泣きした。今回は、チームとして5年ぶりの勝利に貢献した、平峰一貴選手に話を訊く。
──SUGO戦では、自身初のGT500クラス優勝となりました。
平峰:3日間くらいずっと携帯(電話)が鳴り止まなくて。すごかったですね。ほんと皆さんには感謝です。電話やLINE、あとSNSとか……連絡先を知らない人もいるので、SNSを使って連絡をくれたり、ほんとありがたかったですね。お世話になった人たちがたくさんいるので、電話も報告も終わってようやく落ち着きました。ホッとしている感じです。
──ウィニングランを終えて戻ってきたとき、クルマから下りて雄叫びを上げていましたよね!?
平峰:嬉しかったんです。ファンのみんなも(勝利を)待ってくれてたと思いますし、僕がお世話になってるスポンサーの皆さんも、チームのみんなもそうですし。あと、監督が”ほんとに早く勝ちたい!”っていうのがあったと思います。僕は(チームに)来て2年目ですが、監督は5年以上優勝できていなかったというのがあるので、みんな待ち望んでいたんだな、と終わって改めて実感しています。
──チームの大駅俊臣エンジニアもうれしそうでした。
平峰:僕、大駅さんにはすごくお世話になっていて……大駅さんは、これまで(エンジニアとして)GT500のチャンピオンも獲ってますし、色んなスゴいドライバー(の面倒を)を見てきているので、最近、僕は大駅さんの“手の上に乗る(手の上で転がされる)”っていうのを意識してやっているんです。大駅さんはスゴいドライバーをいっぱい見てきているから、僕のいいところ、悪いところがすぐに分かると思うんです。なので、大駅さんに(手のひらを回す仕草をしながら)”こうやって”やってもらっている感じです(笑)。
ここ数戦……いつからだったかなぁ……今までは自分で考えて、“こうやって、ああやって…”ってやってたんですけど、うまく歯車が合わないときに、『平峰、そういう時はこうするんだよ』って、現場で大駅さんに教えてもらっていたんです。今までもちゃんと大駅さんと話し合って、うまくやってきたつもりだったんですけど、もてぎから鈴鹿あたりで大駅さんが言うことをもっと聞くようにして……。『こうするんだぞ、ああするんだぞ。あいつはこうだったんだぞ』とか、いろいろ教えてもらいながらやってると、なんかうまく行くようにもなってきて。だから最近は、結構大駅さんの言うことをいつも聞いているんです。
12号車 カルソニック IMPUL GT-R
──公式練習、予選の結果を見ても、鈴鹿から“上り調子”で、チーム全員が同じ方向を見て戦っていたように感じました。
平峰:鈴鹿では、他の日産勢に比べて僕らは散々だったので、あそこが監督もホント悔しかったでしょうし、第2スティントを走っていた僕も、一時は2位まで走っていたんですけどそこからどんどん(ポジションが)下がっていっちゃったんで。僕も一生懸命走っているし、(コンビを組む)松下(信治)もそうですし、大駅さんも一生懸命クルマをいつもドライバーとコミュニケーション取りながらやってくれてるのに、うまく行かなかったのでみんな悔しかったと思うんです。
そこであのあとすぐにチームミーティングをしました。ドライバーもエンジニアもみんな集まって。高橋(紳一郎)工場長も、監督も来てミーティングをしたんですけど、そういう苦しいときにみんなで集まってミーティングして、自分たちが思っていることを話し合って、いいクルマ作りといいチーム作り(をして)、悪いところからぐっと上がってくるときっていうのは、またチームがぐっと強くなるんですよ。僕らが言うことを聞いてうまく走ってくれないから、大駅さんも大変だったと思うんですけど(苦笑)……。
──スタートドライバーの松下選手の様子を、ピットで星野監督と並んで見ていたそうですが、監督がかなり興奮していたと聞きました。
平峰:松下が一回抜かれちゃったんですよね。17号車(Astemo NSX-GT)に抜かれたときに、僕は(星野監督の)隣に座ってて。去年は……(モニターを見ているときに)肩をうわぁーって叩かれたんですよ(笑)。たしかこっちの肩(左肩)だったと思うんですね。(星野監督の手が)重いから、じ~んときていた(肩に響いた)んです。『気合いが入ったぜ!』って思ってたんですけどね。
今回は、たぶん監督がそのときのことを(覚えていたのか)……、このあと僕も走るし……監督は『わーっ』って言いながら(腕を挙げて、平峰の頭を)“トン”!(拳でコツン)みたいな……(笑)。そのくらいで済ませてもらいました。だから、今回の監督はなんかいい意味で優しいなと思って。その思いがある“トン”みたいな。いつもだったら“ドーン”なんですけど、“トン”って(笑)。『めちゃ気を遣ってくれてる』と思って。
──33周終わりでルーティンのピットイン。アウトラップでは17号車と壮絶なバトルがありました。
平峰:松下もすごいがんばってくれて、一度抜かれたアステモ(17号車)を抜き返してくれて。それに16号車(Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT)は、(タイヤが)タレてくるのが松下もわかってたみたいで。僕らもモニターで見ていて(16号車のタイヤが)『タレてきてるなぁ、これだったら抜けるだろう』と。どこかでスキができるから抜けるだろうなと思ってましたし、その思い通り、松下が抜いてくれました。
17号車とのバトル
僕のスティントに代わって、アウトラップで『タイヤが全然温まらないなぁ、でもがんばろう』って思ってたら、アステモが後ろからきて、そのときは『絶対意地でも押さえる』って思ってました。どうしても抜かれてしまうときは仕方ないですけど、しっかり自分のベストを尽くして押さえ切れればいいなと思ってたんで。で、(結果として)押さえ切れたから良かったなって。
あのとき、『計測1周くらい押さえられれば、なんとかなるだろう』って思っていましたが、ちょっと無理すると吹っ飛んでいきそうだったんで。ギリギリではあったんですけど、なんとか(押さえられて)良かったです。あとは気合いで乗り切りました。『なんとかせぇやぁ!』っていうのが、みんなから聞こえてきたんで……(苦笑)。あのとき、無線では静かにしてくれてたんですが、『おい、平峰。なんとかせぇ』って……いつもそんな感じなんで。なんとかできて良かったなって思います。あ、正直、無線で言われたかどうかは覚えてないんです。もう、行くしかなかったんで。たぶんね、(無線で)言ってくれていても聞いてないですね(苦笑)。(耳に)入ってきてないです。うしろをチラっと見て、(17号車が)『あっ、来たな』と思ったときに、『おい、なんとかせぇや』って(心の中で)なんとなく感じてたんで……。で、それができて良かったですね。
──46周目にはセーフティカーが導入され、リスタート後に再び17号車が背後に迫りました。このときは?
平峰:作ったギャップがまた縮まったっていうのがありましたが、ただSUGOなので、正直『(レース中に)なんかあるかもしれない』っていう覚悟はしてました。もしギャップが詰まっても、1ミリでも前に出られなければ押さえればいい、と思っていたので。
だから、たとえばこっちがすごいプッシュしていてタイヤを使ってしまって、セーフティカーで(差が)詰まって、後ろ(のクルマ)がどんどん来ちゃうっていうパターンもありますけど、それはもう正直、蓋を開けてみるまでわからないですし。なので、とりあえず、近づかれてもそのときのベストをしっかりと尽くして戦ってみようというのがありました。だからチェッカーを受けるまで、正直何が起こるかわからないと思っていました。
──一方、トップの8号車にペナルティが課せられました。これを機に、トップに立ったことへのプレッシャーは?
平峰:大駅さんから、8号車(ARTA NSX-GT)がもしかするとペナルティを受けるかもしれないとは(無線で)聞いてました。セーフティカーが入って……入る前だったかな? そのときに『8号車、ドライブスルー(ペナルティを受けること)になったから、(自分たちが)トップに立つからね。ただいつ(8号車がピットに)入るかわからないから、チャンスがあったらちゃんと抜くように』っていうのは言われてたと思うんです。で、セーフティカー中に8号車が入っちゃったんですよね。
平峰一貴選手
トップに立ったので、「レースペースを自分でコントロールできるな」と(考えて)冷静にいくことができました。(プレッシャーは)あまりなかったですね。8号車が(ピットに)入って、後ろから17号車とか1号車(STANLEY NSX-GT)が来てるって聞いてたので、(彼らが)来たらしっかりバトルして押さえたいなというのはありましたが、あまり焦ることはなかったですね。
──焦る気持ちがなかったのなら、レース終盤には、もう勝てるなという気持ちがありましたか?
平峰:いやぁ、なんかね……なんて表現していいのかな。『もしかしたら、これ、行けるのかな』っていうのが、確かに最後の10何ラップで……『トップにいるし、うしろとのギャップも作ってるから、冷静に行って何事もなければいける(優勝できる)かもな』っていうのはありました。ただ、SUGOっていうのもありますし、最後まで何が起こるかわからないっていうのもあったので、ほんとチェッカー受けるまで安心してなかったですね。ファイナルラップでも同じでした。(無線で)『ファイナルラップだよ』と言われても、『ちゃんと帰ってこないと!』と思ってましたね。
トップでチェッカーを通過した12号車
──チェッカーを通過したとき、その瞬間は?
平峰:うれしかったですね。不思議だったんですけど、勝手に涙が出てくるんです。びっくりして、『あぁ、うれしいってこういうことなんだな』と思いました。泣くつもりもないのに(勝手に涙が出て)すごい不思議な気分でした。もちろんうれしくて、『やったー!』って涙することもあるんですけど、あのチェッカー受けた瞬間だけは勝手にぷわーっと涙が出てきて。『うわぁ、なんだ!?』と思ったんですけど、うれしいっていうのもあるし、ああいう感覚は初めてでしたね。
あと、『ありがたいなぁ』って思ったのは、ウィニングラップしているときに、周りのクルマ……(1号車)山本(尚貴)さんも(36号車)au(坪井翔)もそうだし、(24号車)高星(明誠)もだし、いろんな人たちが“グー”って(親指を立てるジェスチャーを)してくれたんですよ。なんかありがたかったですね。すごいドライバーたちと一緒に戦って、ライバルの人に優勝を祝ってもらえる、リスペクトしてもらえるってありがたいなと思いました。
──クルマを下りたら、星野監督、松下選手が待ってました。
平峰:正直、(勝利の喜びを3人で)分かちすぎて覚えてないんですけど、ひとつ覚えてるのは、監督から『よくやったぞ』って言われて……あのときにホッとしましたね。星野さんの手はデカかった。色んなすごい経験をしてきている人は、分厚いし重いんですよね。頭を“トントン”ってやってくれたときは、“うっ”ってなるくらい重たかったんですけど(笑)。それくらい色んな思いが詰まった手でした。限りあるドライバーの中でこういう経験ができるって、ありがたいですね。
──次戦のオートポリスでは、どのようなパフォーマンスを披露したいですか?
平峰:まずは自分の目標であったGT500で1勝できたので、このあと、さらに優勝を積み重ねて結果を出せるように、というのと、毎戦毎戦自分自身も成長できるように努力していかないといけないし、チームのみんなとももっと力を合わせてやっていけるようにがんばりたいです。
──最後に、この企画恒例の今日あった“ちょとした幸せ”を教えてください。
平峰:ここ最近、優勝できて色んな人たちに『おめでとう』と言ってもらえるのは、本当にありがたいなと思いました。優勝すると色んなことが変わるんだなというのもありますけど、あとは、祝福してもらってファン、スポンサーもそうだし、チームのみんなも、ニスモのみんなもそうだし。今まで何年もお世話になってきている人たちに、ちょっとした形であるかもしれないけど、優勝で恩返しできたことは良かったなと思います。
──プライベートでの“ちょっとした幸せ”は?
平峰:僕、お肉が大好きなんです。(優勝して)色んな人からお肉を送ってもらって……お肉屋さんができるくらい、皆さんからいっぱいいただきました。お肉はいくらあっても、食べられるんですよ。パワーがつくし、筋トレしたあとも、筋力がつきやすいし。皆さんにお肉を送ってもらって、バクバクお家で食べさせていただいています。それがすごくうれしいです。昨日も焼いたし、一昨日も焼いたし。肉三昧ですね。お肉を送っていただいた皆さんにも、『次、また優勝したら、お肉お願いします!』って言ってます(笑)。
文:島村元子
【SUPER GT あの瞬間】
第5戦:平峰一貴選手(No.12 カルソニック IMPUL GT-R)
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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