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約2ヶ月振りの開催となるスーパーフォーミュラ。
4月初旬に開幕した2021全日本スーパーフォーミュラ選手権。10月26日~27日に開催される第6戦より後半戦に突入する。前戦の第5戦ツインリンクもてぎ(8月28日~29日)から約2ヶ月空いての開催となるため、改めてこの第5戦を振り返りたいと思う。
今シーズンは開幕戦から野尻智紀(TEAM MUGEN)が絶好調で、開幕戦富士でポール・トゥ・ウィンを果たすと第2戦鈴鹿でも2番グリッドから優勝を果たした。雨と霧で波乱の展開となった第3戦オートポリスでも、スタート直後の混乱で11番手までポジションを落とすも、そこから怒涛の追い上げをみせ5位入賞。ライバルたちも半ば“お手上げ”というパフォーマンスをみせた。
前半戦、圧倒的な強さをみせた野尻智紀(TEAM MUGEN)
しかし、第4戦SUGOではウエットコンディションとなった予選でQ2敗退。ここまで調子よくきていたチームのムードが一変し、その日は野尻も遅くまでエンジニアとミーティングを重ね、オンボード映像を念入りにチェックしていた。翌日の決勝では挽回をみせ6位入賞を果たしたものの「今までの調子の良いクルマは、もう僕たちにはないと思ってやっていった方が良いのかなと……そう感じるくらい。何かしら対策を打たないとこのままだと負けちゃいますね」と、野尻は危機感を募らせていた。
そのSUGO大会から約2ヶ月。第5戦の舞台はツインリンクもてぎだ。ここはホンダのホームコースとして知られているが、実は過去のデータを振り返ると、トヨタエンジン勢の勝率が非常に高いのだ。
さらに今年はスケジュールが急きょ変更され、第5戦だけでなく第6戦もツインリンクもてぎで開催されることになった。つまり、チャンピオン争いを制するためにも、もてぎでの2連戦でどれだけポイントを稼げるかが重要になる。
野尻自身としては、スーパーフォーミュラで臨むもてぎ大会は7回目となるのだが、最上位は2015年の6位。決して相性が良いと言えるサーキットではなく、TEAM MUGENとしても2017年にピエール・ガスリーが優勝を飾ったが、それ以外は苦戦を強いられることが多かった。
しかし、チャンピオン獲得のためには、もてぎでライバルを突き放す速さを発揮する必要がある。2ヶ月というインターバルを使い、野尻と一瀬俊浩エンジニア、そしてチームが一丸となって、徹底的にマシンのセットアップを見直してきたのだ。
「工場でセットアップをしている段階の微妙なコーナーウエイトの違いとか、その取り方の違いとかまで、徹底的に調べました。僕は細かいことでも一度気になったらすごく気にしちゃうタイプなので(苦笑)」
「普段ドライバーが気にしないところまで情報をいただきながら、自分なりに考えたり、疑問に思ったところは、すぐに一瀬エンジニアと何度も連絡をとって、話し合いをしました。それこそ、本当に細かいところまで指定して『ここをみてほしい』みたいな感じで、とことん突き詰めました」
実際に田中洋克監督も「普段は見ないところにも注目して、細かく計測・分析をやってきました」と、普段よりもさらに細かな作業をしてきたと語っていた。
その緻密な作業が、土曜日の公式予選で生きる。Q1からいきなりライバルを圧倒する1分31秒台を記録し、最終のQ3ではコースレコードを更新する1分31秒073をマーク。今季2度目のポールポジションを勝ち取った。
野尻はコースレコードでPPを獲得した
まさに狙ったものが見事的中した快進撃だったが、野尻は手応えを感じつつも気を抜くことはなかった。
「ここで流れを取り戻すためにやってきました。これでひとつきっかけが出来るのと思うので、日曜日のレースも集中して、最後まで最後まで走り切りたいなと思います」(野尻)
この時点では、野尻に隙はなく、何事もなくレースが進めば、彼のポール・トゥ・ウィンは確実だっただろう。しかし、そうなってしまうと今季のチャンピオンは彼のものとなってしまう……。
“そう簡単には勝たせない”と、野尻に立ちはだかったのが、carenex TEAM IMPULの関口雄飛と平川亮だった。
2番手スタートの関口は序盤からオーバーテイクシステムを積極的に使い、とにかく野尻に近づくことを試みたが、逆転は叶わず。その中でも可能性を探って早めにピットストップを行う“アンダーカット”の作戦に出たが、野尻を食い止めることはできなかった。
「スタートと1周目で(逆転を)狙っていたんですが、うまくいかなくて……。コース上でオーバーテイクというのは難しいとはわかっていたのですが、やはり予想通りの結果となりました」(関口)
「今回は関口選手が真後ろにいたので、タイヤを換えられていいペースで走られる可能性もありました。ここ最近、僕たちはピットストップを引っ張って失敗することもあったので、今回は純粋に真後ろにいるドライバーをフォローして、作戦を選ぶということを事前に決めていました」(野尻)
こうして、野尻は関口の作戦を阻止する形で11周目にタイヤ交換を完了。逆転されることなくコースへ復帰したのだが、今度は新たなライバルが出現した。5番手スタートからレース後半まで第1スティントを引っ張る作戦にでた平川だ。
「このまま勝たせるわけにはいかないと思っていたので、とにかくトップに行けるチャレンジをしたくて……10周目に(ピットに)入るよりも、後半まで引っ張って自分のペースが良ければオーバーカットできるなと思ったので、そのチャレンジをしました」(平川)
そうして平川は、他車がピットストップを行なっている間にトップに浮上すると、1分34秒台の好ペースで周回を重ね、26周目にピットイン。計算上では2番手で復帰できる予定だったが、タイヤ交換に時間がかかってしまい、4番手で復帰となった。
目論見は外れてしまうこととなったが、それでも平川はトップ浮上を諦めず、3番手の松下信治(B-Max Racing Team)に果敢に迫っていった。結果的に逆転はできなかったが、存在感溢れる走りをみせた。
逆転はならなかったが平川(carenex TEAM IMPUL)は圧巻の走りをみせた。
「(松下選手とのバトルでは)正直、コーナーは見ていなかったです。抜くことしか考えていませんでした。結果的にもてぎが抜きづらいということを痛感しましたし、予選の順位が大事なんだなと思いました」
一方の野尻も、仮に平川との直接対決になった時のための準備に怠りはなかった。
「レース後半、平川選手がいいペースで走っているという情報はありました。ピットストップを終えて、もし僕と関口選手の間に入ろうものなら、僕は絶対にやられてしまうという考えもありました。そこで、自分のタイヤもある程度温存しつつ、平川選手とのバトルに備えていました」
こうして、第5戦もてぎは野尻が勝利し、今季3勝目。終わってみれば、彼の速さと強さが存分に光ったレースだったのだが、TEAM IMPUL勢の追い上げもあり、まさに“頂上決戦”ともいうべき内容の濃いバトルだった。
これでポイントランキング的には野尻が俄然有利となったのだが、まだタイトルが決定したわけではない。関口、平川のみならず、他のドライバーたちも第6戦もてぎでのリベンジを狙っている。それに対し、ポイントリーダーの野尻はどう対処していくのか……。今年のスーパーフォーミュラ王座決戦も、いよいよ佳境を迎えている。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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