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坪井との激戦を制し、ポディウムで笑顔が弾けた山下(右)
ついに2021シーズンの開幕を迎えたSUPER GTシリーズ。4月10日〜11日に岡山国際サーキットで行われた第1戦は、コロナ禍で観客の入場などに制限がかかったものの、2年ぶりの岡山開催を楽しみにしていた熱心なファンが集まった。感染防止対策のため大きな歓声を聞くことはなかったが、それでもレースを楽しみにしているという熱気が観客席からひしひしと伝わってきた。
多くのSUPER GTファンの応援に後押しされるかのように、今季の開幕戦はGT500・GT300クラスともに、いつも以上にバトルの多いレースとなったが、その中でも力強い走りをみせていたのが、No.14 ENEOS X PRIME GR Supraの山下健太だった。
この大会では、トヨタ勢がライバルを圧倒する速さをみせ、予選ではトップ5を独占。そんな中、2番グリッドでスタートした14号車は、大嶋和也が担当した前半スティントから積極的にトップを追い詰めていく走りを披露した。
ここでの逆転はならなかったが、レース中盤のピットストップでメカニックたちが迅速な作業で14号車を送り出して、トップに浮上。あとは山下がゴールまでポジションを守りきれば、開幕戦から勝利を飾ることができるのだが、そこに“待った!”をかけるライバルが現れた。No.36 au TOM’S GR Supraの坪井翔だ。
前半スティントは調子の良かった14号車だが、後半になると状況は一変し、山下もペースを上げられず苦戦を強いられた。そこにGT500初優勝を狙う坪井が接近し、山下に対して何度もオーバーテイクを仕掛けた。
山下と坪井の激しくもクリーンなバトルは、開幕戦からファンを熱くさせた。
「正直、どうやって押さえようかと考える余裕もないくらい、ペースが違っている状況でした。ミスをしたら絶対に前に行かれると思っていましたが、そうでなくても仕掛けてくるくらい相手が速くて……。あの後半スティントはめちゃめちゃ長く感じましたね」
坪井とのバトルで、何度も窮地に追い込まれた山下だったが、絶対に彼を前に出すことはなかった。思うような動きをしてくれないマシンと格闘しながらも、時にはヘアピンでのブレーキングでタイヤスモークをあげるなど、限界を超えるようなドライビングを見せた。
シチュエーションは違えど、まるで2019年の最終戦もてぎで関口雄飛を攻略した時のような“アグレッシブさ”があった。あの時と共通して山下の中にあったのが「絶対に負けないんだ!」という強い気持ちだ。
「絶対に抜かれて帰ってくるわけにはいかないなと思っていました。(バトルで)少し飛び込みすぎたり、締めてしまう部分があるなど、強引なところがあったのは申し訳なかったなと思いますが……勝てて良かったです」
坪井とのバトルに競り勝ち、国内トップカテゴリーでは2019年のスーパーフォーミュラ第6戦岡山以来の勝利を飾った山下。パルクフェルメでマシンを降りると満面の笑みでガッツポーズを見せていたのが、何より印象的だった。
山下健太(No.14 ENEOS X PRIME GR Supra)
2019年にSUPER GTで王座を獲得した山下は、昨年は世界耐久選手権(WEC)のLMP2クラスからエントリーするなど、世界の舞台に挑戦した。しかし、コロナ禍でスケジュールが大幅に崩れてしまい、“絶対にチャンピオンを獲る”と意気込んで臨んだスーパーフォーミュラでも、欠場を余儀なくされるなど、影響が出てしまった。昨年途中から苦戦を強いられ、このSUPER GT開幕戦の前週に行われたスーパーフォーミュラの開幕戦富士では、予選最後尾。パドックであっても、いつもの笑顔が見られないどころか、今までのような速さを見せられないことに対する苛立ちから、少し自暴自棄になっている姿も見られた。
“スーパーフォーミュラでうまくいっていない分、SUPER GTでは絶対に勝つ!”
その強い思いが、坪井とのバトルで競り勝てた大きな要因なのかもしれない。
「スーパーフォーミュラで結果が出ていなくて、この前の開幕戦富士でも大嶋先輩と2人で最後列からのスタートでテールエンダーになっていました(苦笑)正直ずっとイライラしていたので……(SUPER GTでの勝利で)鬱憤を晴らせたというか、スッキリしました」
2019年の関口とのバトルの時もそうだったが、普段は穏やかな雰囲気でパドックを歩いていることが多い山下だが、いざレーシングカーに乗ると、誰よりも速く走らないと気が済まない“超負けず嫌い”のキャラクターであるということを、この岡山大会で改めて感じた。
自身2度目となるSUPER GTチャンピオンに向けて幸先の良いスタートを切った山下。第2戦富士ではサクセスウェイト40kgを背負うことになるが「(サクセスウェイトの影響で)厳しくなると思いますが、その中でもしぶとく戦って、できる限りポイントを獲っていくのがチャンピオンに向けて必要なことだと思っています。もう1度優勝するくらいの勢いで行きたいです」と、早くも次の勝利に飢えている様子だった。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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