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開幕戦を制した野尻智紀(TEAM MUGEN)
今年も日本最速の座をかけて、激闘が展開されようとしている全日本スーパーフォーミュラ選手権。例年は4月下旬に鈴鹿サーキットで開幕戦を迎えるのだが、今年は東京オリンピックが予定されており、富士スピードウェイが自転車競技の会場として使われることから、いつもは夏場に開催される富士大会が4月の開幕戦に移動することになった。
そんな中で始まった今季最初の日本最速をかけたバトル。注目のルーキードライバーのフル参戦決定や、若手ドライバーの台頭など、開幕戦から混戦模様が予感されていたが、最終的に予選・決勝ともに他を圧倒する速さをみせた野尻智紀(TEAM MUGEN)が2021シーズン最初の勝者となった。
今シーズン、野尻が乗る16号車にはコロナ禍で懸命に働く医療従事者へ感謝の思いを込めたメッセージを車体に大きく描いており、観客席からでも「医療従事者の皆様 ありがとうございます!」というメッセージがハッキリと確認できる。
医療従事者への想いを込めたカラーリングが注目を集めた16号車
「このコロナ禍で、また状況が少し不安定になりつつありますが、本当に医療従事者の皆さんや医療に携わり、ご尽力いただいている皆さんに感謝申し上げたいです。いつもありがとうございます。そして、次も良いレースを見せられるように頑張りたいと思います」
開幕戦でポール・トゥ・ウィンを達成し、感謝の思いを結果でも示すような活躍を見せた野尻。優勝後のパルクフェルメでは、何度も力のこもったガッツポーズを見せていたが、彼にとっては富士で勝つというのは大きな意味を持っていた。
昨年12月の最終戦。予選で1分19秒972のコースレコードを叩き出してポールポジションを獲得。決勝で優勝しライバルの順位次第では大逆転でチャンピオン獲得という可能性もあったが、結果的にスタートで出遅れてしまい、終盤にトラブルでリタイアを余儀なくされた。
「タイトルを獲りたかったというのが本音です……。またみんなで頑張っていきます」
最終戦が始まる頃はチャンピオン獲得については、あまり意識をしている様子だった野尻だったが、レースが終わると、その表情から悔しい気持ちが溢れ出ていた。
そこから、シーズンオフの間に様々なことを見直し、改善に努めてきた野尻。まずは予選でポールポジションを獲得した。
「オフシーズンの間に、なぜ2020年の前半戦はうまくいかなかったのか、逆になぜ後半戦はうまく行っていたのかを、深く考え、勉強もすごくしました。オフの間でしっかりと準備してきてきましたが、シーズンオフテストもこなしていくなかで、新たな考え方が深まっていきました。
「今回は走り始めから、ものすごく調子が良くて、ひとつ頭が抜けている状態で予選に臨むのが個人的には初めてでした。この中でどうやって自分をコントロールしてまとめ上げるかというところで、自分の中では難しさを感じました。それでも、きちんとこの場(ポールポジション)にいられたというのは、さらに自信を深めることができたと思います。決勝も強く・賢く戦いたいなと思います」
そう語る野尻の表情は、昨年とは少し違い、“勝つために攻めていくんだ!”という積極的な気持ちが垣間見えた。
予選終了後PP獲得で力強いガッツポーズを見せた野尻。積極的な気持ちをみせた開幕戦だった
その攻めの姿勢は、決勝で存分に発揮される。スタートでは大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)の先行を許し、2番手に下がるものの、しっかりと大湯に食らいついていき10周目にオーバーテイクに成功。トップを奪い返すと、徐々に後続との差を広げていき、最後までその座を死守して今季初優勝を飾った。
これで野尻はスーパーフォーミュラで通算4勝目となるが、今回は初めてコース上での直接バトルでトップを奪い返して優勝を勝ち取った。
「大湯選手も非常に速かったんですけど、5~6周してから、こっちに部があるなというのが分かって、ちょうど(ピットストップを)早めに入るか終盤まで引っ張ろうかと悩んでいた中で、ミニマム(ピットウインドウが開く10周目)で入ろうと決めた時にすごく大きなチャンスがやってきて、大湯選手をかわすことができました。そこでステイアウトの選択をとって、最後まで引っ張りきりました」
「今回はいつ雨が降ってくるのかという部分で、非常に難しい場面も多々ありましたが、その中でも落ち着いて走っていられました。チームとホンダに素晴らしいパッケージを用意していただきました。今日は僕の力というよりかは、皆さんに勝たせてもらったという感じでした。
そう語った野尻だが、まだまだ攻め切れていない部分もあったと、記者会見では自分自身に対して厳しい評価をする場面もあった。そこまでシビアになるのも、今度こそチャンピオンを獲得したいという決意が、きっかけにもなっているようだ。
「ようやく個人的にも明確に『タイトルを獲る!』と言えるだけの、手応えを感じています。そこを目指す上では、非常に良いスタートが切れたのかなと思います」
「今回は最後まで集中力を切らさず、やれることをやったというだけですが、次はもっともっと思い切って最後までプッシュし続けたいなと思います。今日は少し置きにいってしまったところがあったので、その辺を改善していきたいなと思います」
医療従事者への感謝の思いを伝えながらも、その胸に秘めた自分自身の目標に向かって……。野尻智紀の日本一の座をかけた挑戦が、再び始まった。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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