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モーター スポーツ コラム 2021年4月2日

2021SF第1戦プレビュー:“王者”山本尚貴、正念場のシーズン開幕へ

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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昨季スーパーフォーミュラ王者の山本尚貴

東京オリンピック開催の兼ね合いもあり、例年よりも3週間早く開幕を迎える2021年の全日本スーパーフォーミュラ選手権。3月の公式テストでは、若手ドライバーの台頭が目立ったが、その一方で話題となったのが、2020年王者で現役最強との呼び声も高い山本尚貴の苦戦だ。

昨年は、最終戦で平川亮との直接対決を制し、3度目のスーパーフォーミュラチャンピオンを獲得したとともに、史上初となる2度目の国内二冠を達成した。

今季は彼がデビューイヤーを過ごしたTCS NAKAJIMA RACINGに移籍し、4度目のシリーズチャンピオンを狙うことになる。移籍に先立ち、昨年末に富士スピードウェイで行われたルーキー・合同テストでは、常に上位につける速さをみせ、ライバルたちも警戒を強めていた。

2010年のデビューイヤー時の在籍チームがTCS NAKAJIMA RACINGだった。

しかし、3月の鈴鹿公式テストが始まると、流れは一変。原因不明の不調に陥ってしまった。その状況はかなり深刻な様子で、実際にセッション中も、これまで見たことのないような険しい表情をしていた。特に鈴鹿テストの1日目午後のセッションでは最下位のタイムとなった。

いつもなら淡々とテストメニューをこなし、落ち着いた様子でシーズンに向けて準備をしていく姿が見られた山本。ここまでテストで苦戦するのは珍しく「山本は、一体どうしたんだ?」と不思議がる声も他チームの関係者から聞こえてきた。

鈴鹿テストから約2週間後に行われた富士テストでも、調子は今ひとつの山本。さらに初日にはチームメイトの大湯都史樹がトップタイムを記録した。

開幕戦に向けて着実に手応えをつかみ、笑顔も垣間見える大湯に対し、山本は完全に悩みこんでしまっていた。

「本調子ではないですね。パフォーマンスを出し切れていないという点では、自分でも納得がいっていないですし、余計にチームメイトの大湯選手が、あれだけ速いところをみると、チームの状態が決して悪いわけではないです。基本的に抱えている問題は直っていなくて、大湯選手との差は、鈴鹿から変わっていません。現状では厳しいですね」

「やり場のない思いは正直あるし、あまりモノのせいにもしたくないので、自分でも、何かもう少しできないかなと思っていますが……ちょっと、情けないですね」

通常ならばシーズン中のトップ争いで競り勝っていくための“レベル上げ”のテストをしていく予定だったというが、マシンのベースの部分で良くない症状が出ている様子。2日間の鈴鹿テスト、そして富士テストの1日目も“本来のパフォーマンスを取り戻すため”のテストになっていたという。

「残念ながら、今はレベルを上げていくというよりは、本来のパフォーマンスを引き出すための時間の使い方になってしまっています。富士テストでも残念ながらプラン通りには全くいっていません。とにかく、ひとつひとつ原因を潰していくしかないし、潰していった先に何かが見つかればなと思っています。それを見つける作業は簡単じゃないですし、忍耐力も必要です」

苦悩が続く山本尚貴

しかし、ここで簡単に諦めることなく、困難な状況に立ち向かっていくのが山本尚貴というドライバーだ。富士テストの1日目も夜遅くまで加藤エンジニアとともに原因究明にあたった。またメカニックも、山本に本来のパフォーマンスを取り戻してもらうべく、日付が変わるまで作業を続け、徹底的にマシンに不具合がないかチェックしていた。

今年は鈴鹿テストから、その地道な作業の繰り返しとなっているが、テスト最終日になって、ようやく1つの光明がみえてきた。最後のセッションは、他のカテゴリーのテストもあったほか、気温や路面温度、風向きの変化もあり、大半のマシンがタイムを伸ばすことができず苦戦気味だった。

そこで山本はセッション序盤から上位につけ、最後のタイムアタックでもタイムを伸ばし、トップから0.242秒差の5番手につけた。最速タイムではなかったものの、開幕直前にきて、確実に前進をみせ、テスト終了後の取材では、少しだけ笑顔も垣間見えた。

富士テストでは復調の兆しがみえてきた

「まだまだやれること、やりたいことはあるものの、ちょっとずつ調子は上げられてきているかなと思います。根本的な部分は改善していないというか、(症状が)残ってしまっていますが、それが良くなればタイムを伸ばせられると思います」

「本当ならレベルを上げていく作業をしたかったんですけど、それよりも全然手前の部分で機能していない部分がありました。それがなぜ機能しないのかが、分からなかったんですが……最後にちょっと機能し始めてきました。何とかギリギリのところでスタートラインに立てたかな、という印象です」

「ベストな準備はできていないですけど……やるしかないですね。でも、勝つ気持ちは常に持っていますし、開幕戦から勝ちたいと思っています」

「そして、こんなに熱心にやってくれるエンジニアさんをはじめ、チームの皆さんと一緒にやれるというのが、嬉しいですし、やりがいを感じています」

「前日も日付が変わるまでメカニックの皆さんも残ってくれて、僕の言葉を信じて、何か不具合がないかというのを時間かけてやってくれました。それには、本当に救われています」

「こんなに恵まれた環境はないですし、だからこそ結果で返したいし、結果を残すためにここに呼ばれています。例年とは違ったプレッシャーが自分にかかるのかなと思うと、モチベーションはかなり上がります。絶対にこのチームで勝ちたいです」

そう語った山本。“どんな状況であっても、やるしかない、結果を出すしかない”と、覚悟を決めた表情をしていた。

現役ドライバーの中ではスーパーフォーミュラのタイトルを一番多く獲得し“日本一速い男”と言っても過言ではない山本。そんな彼が、テストで見舞われた不調から、どう立ち直り、どうやってトップの座を掴み取りにいくのか……。その一挙手一投足から、一瞬たりとも目が離せない。

文・写真:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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