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タチアナ・カルデロン(Threebond Drago CORSE)
2020年の全日本スーパーフォーミュラ選手権で、ただひとりの女性ドライバーとして参戦したタチアナ・カルデロン。新型コロナウイル感染拡大に伴う影響もあり、満足な状態でレースに臨むことができないシーズンだったが、それでも周囲が驚くほどの進化と2021シーズンへの可能性をみせてくれた1年となった。
コロンビア出身で現在27歳のカルデロンは、主に欧米のレースを中心に参戦し、ここ数年はFIA-F3やFIA-F2などF1直下のフォーミュラカーレースに挑戦。さらにF1のアルファロメオ・レーシングの開発ドライバーも務め、今F1に最も近い女性ドライバーのひとりと言われている。
彼女のスーパーフォーミュラ参戦が明らかになったのは2020年1月の東京オートサロン。道上龍監督率いるThreeBond Drago CORSEからのレギュラー参戦が発表されたのだ。契約に向けた話し合いが始まったのは2019年のクリスマスを過ぎてからということもあり、ほとんどのモータースポーツメディアが事前に情報をキャッチしていなかった。それだけに、発表された瞬間の関係者やファンの反響のすごいものがあった。
ただ、現実としてみると日本のトップフォーミュラに女性ドライバーが参戦するのは23年ぶりのこと。カルデロン自身もヨーロッパで参戦した各シリーズでチャンピオン争いに加わるほどの走りは見せていなかっただけに、開幕前のパドックでの評判は微妙なところがあった。
開幕戦で見せた山本尚貴とのバトルはファンを驚かせた。
しかし、その印象をガラリと変えたのが、ツインリンクもてぎでの開幕戦だった。ヨコハマタイヤの扱いに苦労していたカルデロンは予選でライバルに大きく離されて最後尾からのスタートとなってしまうが、決勝レースでは特に後半の数周で前を行くライバルとほぼ変わらないペースで周回を重ねた。そして、最終ラップでは途中アクシデントで後退していた山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に背後に迫られ、90度コーナーでインに飛び込まれてしまう。普通のドライバーなら、ここで引いてしまいポジションを落とすのだが、彼女はそうではなかった。しっかりと自分のラインを主張し山本のオーバーテイクを阻止。そのまま彼の前でチェッカーを受けた。
レース後、パドックを回ると、あちこちで関係者がカルデロンの走りを高く評価している声が聞かれた。それと同時に、今後マシンとタイヤ、そしてスーパーフォーミュラというレースに慣れてくれば、周囲を驚かせるようなパフォーマンスを見せるかもしれないと、期待を寄せる声も少なからずあった。
カルデロンも実際に実戦を経験したことで、何を準備しなければいけないか、どんな情報を集めておくことが必要なのかを理解した様子。次戦に向けた宿題を自分に課して、別のレース参戦のために自宅のあるスペインに一旦戻った。
スーパーフォーミュラに対してのモチベーションがかなり上がってきている中ではあったが、彼女にいきなり試練が訪れる……。
新型コロナウイルスによる水際対策のため入国後14日間の自主待機が政府から要請され、第2戦岡山と第3戦SUGOを欠場せざるを得なくなったのだ。
コロナ禍の影響で仕方がないとはいえ、参戦できないと分かった時はカルデロンも落胆したという。それでも、第4戦以降の復帰を見据えて、自宅に設置してあるシミュレーターでオートポリスや鈴鹿サーキット、富士スピードウェイを走り込むなどして、練習に励んだ。
入国時の規制が一部緩和されて、第4戦オートポリスからついに復帰を果たす。走行前の金曜日からチームのピットを訪れ、2ヶ月半ぶりに再会するスーパーフォーミュラのマシンを嬉しそうに眺めていたのが印象的だった。
さらにチームは、カルデロンが欠場を余儀なくされた2戦で塚越広大を代役ドライバーとして起用。国内トップフォーミュラの参戦歴は10年以上で、現行車両のSF19でのレースも経験している。チームとしてもSF19の経験がない分、塚越が加入したことでマシンのセットアップが進み、カルデロンが復帰する頃には戦闘力が上がった状態となっていた。これも、後半戦の彼女の快進撃の手助けとなった。
カルデロンが復帰後の第4戦以降は本人、チームとしても力を上げた。
そこからの彼女の進化は目を見張るものがあった。ポイント圏内でフィニッシュできないものの、ライバルに簡単に引き離されないようなレースを披露。第6戦鈴鹿では度重なるセーフティカー導入で接近戦のバトルが続いたが、そこでもしっかりポジションをキープして12位を獲得した。
そして、最終戦の富士。決勝ではスタート時にクラッチトラブルが出てしまい、序盤から周回遅れとなる苦しい展開となってしまったが、カルデロンは諦めることなく周回を重ね、17周目には全体で5番目に速い1分22秒472のベストラップを記録した。トラブルで出遅れた影響は大きく、結果こそ最下位とはなってしまったが、次への可能性を感じさせた最終戦だった。
最終戦から2日後、同じ富士スピードウェイで翌シーズンに向けた合同テストとルーキーテストが開催されたが、そこで2020年の進化の集大成とも言うべき走りを彼女は披露する。
このテストにもThreeBond Drago CORSEから参加したカルデロンは、1日目の午後のセッションに1分20秒935をマーク。トップから0.448秒差の6番手につけたのだ。これにはサーキットにいたほとんどの関係者が驚いていたのと同時に、もし2021年も彼女が参戦することになれば、手強い存在になるかもしれないという声も聞こえてきた。
「最終戦の段階から自信を持って走ることができていましたが、そこからチームがすごく良い仕事をしてくれて、乗りやすいものになっていました。もっと細かいところを改善していく必要はあるけれど、1分20秒台が出たときもすごく良かったです」
合同テストでは初日総合7番手と快走をみせた。
そう語るカルデロンの表情は、これまでにない大きな手応えを掴んだ様子だった。さらに富士スピードウェイは、シーズン前の公式テストで走行した経験があったことも、ライバルを凌ぐパフォーマンスを発揮できた要因として挙げていた。つまり、2021年は鈴鹿、もてぎ、オートポリスと経験済みのコースが増えるため、さらに期待が持てるというのだ。
「コースを経験しているということも、私にとっては大きな助けになりました。事前に走り込んだことのあるコースでレースを迎えられたのは、今回の富士が初めてでした。それまでのレースと比べるとすごく楽に感じました」
「やっぱりSFのマシンでそのコースを走っているかいないかの違いはすごく大きかったです。そういう意味では、今年は初体験のコースばかりで、なかなかパフォーマンスを出すことができませんでしたが、その中でもひとつずつ積み重ねて、ペースを掴んでいくことができました」
「もし2021年もこのシリーズに参戦できれば、今年以上に良い走りができると思うし、簡単に感じることができるところも増えると思います。それでも、2020年にSUGOと岡山を経験できなかったのは残念ですけどね」
2021年もカルデロンは、ThreeBond Drago CORSEからのレギュラー参戦を果たす。彼女も語る通り、途中の欠場はあったにせよスーパーフォーミュラをしっかりと経験した上で臨む2年目のシーズン。この進化が続いていけば、開幕戦からライバルを脅かす存在にもなり得るかもしれない。昨年以上に、彼女の走りから目が離せないシーズンとなりそうだ。
タチアナ・カルデロンの挑戦を1年追いかけたドキュメンタリー番組を1/24(日)OA!
彼女の挑戦によって拓こうとしている、モータースポーツ界の未来についても迫る!
ドキュメンタリー 〜The REAL〜
スーパーフォーミュラ初の女性ドライバーが拓く未来
1月24日(日) 午後 10時 00分~午後 11時 00分 J SPORTS 3
【詳しい放送予定はこちら】
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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