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今シーズン、日本モータースポーツ界の主役は間違いなくこの二人だったであろう。
新型コロナウイルスの影響で過去に前例がないほど変則的なスケジュールで行なわれた2020年の全日本スーパーフォーミュラ選手権。様々な制限がつく中ではあったが、ようやく富士スピードウェイを舞台にシリーズ最終戦を迎えた。
ちょうど1ヶ月前、同地で行なわれたSUPER GT最終戦は歴史に残るような王座争いが展開されたことが記憶に新しいが、今回のスーパーフォーミュラも多くのファンの記憶に残るような激闘が繰り広げられた。
第6戦鈴鹿を終えて、平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)と山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が同じ55ポイントで並び、チャンピオン獲得の最有力候補と思われていたが、週末の走り出しから速さをみせたのが、ランキング3番手につける野尻智紀(TEAM MUGEN)だった。
逆転タイトル獲得に向け、驚速タイムで予選 PPを獲得した 野尻 智紀だったが…
土曜日のフリー走行でトップタイムを記録すると、その勢いのまま日曜日朝の公式予選でも驚速の走りを披露。従来のコースレコードを2秒以上も上回る1分19秒972を叩き出し、今季2度目のポールポジションを獲得した。これで予選ポイントの3点を獲得し、一気に野尻が逆転チャンピオンの可能性を高めた。しかし決勝ではスタートで出遅れてしまうと、レース後半にホイールトラブルでコントロール不能に陥ってしまい、リタイア。逆転チャンピオンの夢は絶たれてしまった。
さらにランキング4番手から逆転チャンピオンを狙ったニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)は予選Q1で走路外走行があり最後尾からのスタート。それでも、1周目で8つポジションを上げると、ライバルがピットストップをしている間にトップに浮上。1分22秒台を連発する驚異的なペースで自身のピットストップタイムを稼いでいった。タイヤ交換後も最終ラップまで攻め続ける走りをみせたが、逆転条件となる優勝に手が届かず4位となった。
来シーズンからフォーミュラEに参戦するニック・キャシディ。2年連続のチャンピオン獲得はならなかったが、最後尾スタートから4位と快心の走りをみせた。
様々なライバルが出現したチャンピオン争いだったが、最終的に王座を争ったのは山本と平川の同点対決だった。
スタートでポジションを落としてしまった山本の背後に平川が接近。特にレース前半にピットストップを終えた2台は、激しいポジション争いを繰り広げた。平川がオーバーテイクボタンを駆使して前に出たかと思えば、すぐに山本も反撃し逆転。それでも平川は諦めずに少しでもスペースがあればノーズをねじ込もうと攻め込んでいった。
前でチェッカーを受けた方がチャンピオン。ゆえに必ず前に出なければいけない……。
フォーミュラカーのレースにおいて、ここまで激しいオーバーテイク合戦を見たのは筆者も初めてだった。なんとしてもチャンピオンを自らの手で獲得するのだという、2人の思いが交錯し、ぶつかりあった瞬間だった。
スーパーフォーミュラ最終戦でも王者の座を掛け、激戦を繰り広げた山本尚貴と平川亮。
しかし、最終的に“一枚上手”だったのは、山本だった。目の前の状況を冷静に分析し、確実に勝てる策を練りながらバトルしていたのだ。
「あそこが今日の一番のハイライトだったと思います。(平川選手に)前に出られたら、正直抜き返せないと思っていました。彼もそれが分かっていたから、前に出て何とか抑えたいと考えていたと思います」
そう語った山本は16周目と17周目の平川の攻防戦をこう振り返った。
「僕が(17周目の)1コーナーで平川選手をオーバーテイクした時は、彼はOTSが使えない状態でした。その前の300Rとかでバトルになった時に僕はあえて使わず温存していました。彼が使っていたのは分かっていたんで、最終コーナーでちゃんと後ろについていれば、OTSを使って抜けると思っていました。そこは予定通りでしたね」
こうして平川の前を死守した山本だが、レース終盤にはキャシディと直接ポジションを争うことになった。もちろんドライバーとして負けたくないという思いがありながら、山本はその気持ちを抑えて冷静な判断を下していた。
「大型ビジョンがずっとニックが映っていたので、おそらく彼がピットを遅らせて、単独で走ってペースがいいからカメラに抜かれているんだろうなと思っていました。そこからターゲットはニックになるんだろうなというのは感じていました。ただ彼は勝たないとチャンピオンになれないということは分かっていたので、彼に前に出られても平川選手を抑えることができればチャンピオンを獲れると分かっていました。ちょっと長かったですけど、冷静に40周を走れたかなと思います」
最終的に平川のひとつ前である5番手をキープしチェッカーフラッグを受けた山本。スーパーフォーミュラでは3度目の戴冠、そして史上初めて2度目の国内トップカテゴリーでの二冠を成し遂げた。
2年前のスーパーフォーミュラ、SUPER GTでのチャンピオン獲得の際はプレッシャーから解放されて大粒の涙を流した山本。だが、今回はどちらのレースでもパルクフェルメで満面の笑みを見せていたのが印象的だった。
そして、今年もレース後のパルクフェルメでは王座をかけて争って2人が握手し、お互いの健闘を讃えあっていた。
「平川選手の素晴らしいところは、ものすごくフェアに戦ってくれたことです。ストレート上でのウィービングだったり進路の変更だったり、細かいところを言えばきりがないですけど……だけど彼も絶対にタイトルを獲りたいと思っていたからこそのあの動きだったと思いますが、絶対に一車身分を残してフェアに戦ってくれていました」(山本)
「(山本選手とのバトルでは)僕もすごくウィービングしたり幅寄せしたりして、フェアだったかどうかは微妙ですけど……でも最終的には接触せずにバトルできたし、お互いの信頼関係もありましたからね、あのバトルは良かったと思います。今年はタイヤ交換がうまくいかないレースもありましたが、最後はチームのみんなもバシッと決めてくれましたし、持てる力は発揮できたと思います。こうしてライバルがいるから自分たちも頑張って速くなれるので、そういう(競い合える)人たちがいてくれて感謝しています」(平川)
スーパーフォーミュラでも僅差でタイトルを逃した平川。しかし、持てる力は発揮したので悔いはないと語った。
わずか4ヶ月で7戦をこなしていくという超タイトスケジュールで進んだ2020年だったが、こうしてスーパーフォーミュラの歴史に、新たな“名勝負”が刻まれる1戦だった。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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