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2020SUPER GT第6戦レビュー
2020年のSUPER GTシリーズ第6戦鈴鹿。今回も新型コロナウイルス感染防止対策をしっかりと講じた上で、観客を動員してのイベントとなった。鈴鹿サーキットはコロナ禍の影響でF1日本GPや鈴鹿8耐などの開催中止が相次ぎ、このSUPER GTが2020年に行なわれる最初の有観客でのビックイベントとなった。それもあってか、日曜日には1万9000人が来場し、第5戦の富士に負けないくらいの熱気に包まれた。
ファンの声援もスポーツの重要な要素だ。
そんな中で行なわれた第6戦の決勝レース。GT500クラスを制したのはNo.23 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)だった。同地で行なわれた8月の第3戦でも勝利を飾ったのだが、その時は2年ぶりの優勝ということもあり、パルクフェルメではドライバー2人が感極まるシーンも見られたが、今回は打って変わってパルクフェルメでは鈴木豊監督も交えて満面の笑みを見せていたのが印象的だった。
それもそのはず。この24時間前である土曜日の公式予選で、彼らは“どん底”を経験し、そこから這い上がってきての勝利だったのだ。
第5戦を終了した時点でランキング8位につけていた23号車。上位陣はウエイトハンデが100kg近くに達し燃料リストリクター制限を受ける車両もあったが、23号車はウエイトハンデが50kgで燃料リストリクター制限がない状態で第6戦を迎えた。さらに舞台となるのは第3戦で優勝を飾った鈴鹿サーキットということもあり、ここで今季2勝目を挙げればチャンピオン争いの渦中に加われる。それだけに、陣営もかなり気合いが入っていた。
しかし、その気合いが予選では裏目となって出てしまう。Q1を担当した松田はセクター1で好タイムを叩き出すなど果敢に攻めていく走りをしていたが、それが限界を超えてしまいダンロップコーナーでコースオフ。そのままスポンジバリアにクラッシュしてしまった。
鈴木監督によると、エンジンより前の部分は全て交換。さらにグラベルゾーンでジャンプをしたたため、フロア周りにもダメージが及んでいたほか、リヤウイングも損傷していたという。
「マシンはかなりのダメージを負っていましたが、今のクルマはパーツをすぐに交換できるように、作業性のことも考えられています。なので徹夜することもなく日付が変わる前に作業を終えてサーキットを出ました」
無事に決勝のグリッドに着くことができた23号車
そう鈴木監督も語るように、マシンは綺麗に修復され、何の問題もない状態でGT500クラスの15番グリッドについた。しかし、オーバーテイクが難しい鈴鹿サーキットということを考えると、最後尾スタートから上位に進出できる可能性はかなり低かった。実際に鈴木監督も「我々よりウエイトの重い車両を逆転して、なんとか中団あたりまでいければ……」と、優勝できることは思っていなかったという。そんな23号車に千載一遇のチャンスが訪れたのは22周目のことだった。
クインタレッリが担当した前半スティントを少し引っ張る戦略に出ていた23号車は、他車がピットストップを終えた関係でトップに浮上していた。そこにGT300クラスのNo.52 埼玉トヨペット GB GR SupraがS字でコースオフする映像が飛び込んできた。その瞬間に鈴木監督は瞬時に決断を下した。
「本当は、もうしばらくは(ピットに入らずに)行こうかなと思っていましたが、52号車のクラッシュ映像がモニターに映ったのを見て『これは!』と思ってピットに入れることを決めました。(その時23号車が)確かセクター3のどこか……スプーンを抜けたところを走っていたと思います。モニターに映ってから2~3秒の間に『ピットに入って!』と無線を入れました。本当に全てがうまくいったというか、タイミングも含めて我々に追い風が吹いてくれたという状況でしたね」(鈴木監督)
23号車はセーフティカー導入など、突発的な事態にも対応できるようにと事前にピットストップの準備を整えていたほか、ドライバーとも突然の作戦変更の可能性があることを話し合っていた。
「このところ毎戦のように、レース中にセーフティカー(SC)が出ていますから、どんな展開になっても対処できるようにチームとはコミュニケーションを重ねてきました。130Rを走っているときに無線が入ってきたのですが、あそこでは上手く繋がらないんです。だからシケインで僕の方から『どうしたの?』って聞いたら『SCが入りそうだからピットインしてください』と言われました。ピットロード入り口の信号が変わらないようにと祈りながらピットインしました」(クインタレッリ)
ちょうど23号車がピット作業を始めたタイミングでセーフティカー導入宣言が出された。これにより全区間追い越し禁止となり、同時に各車スローダウン。この間に23号車はピット作業を済ませ、トップのままでコースに復帰することに成功した。
作戦が見事にはまって首位に浮上した23号車。その瞬間は放送席も状況を理解できないほど前代未聞の出来事だった。
いくらタイミングがうまくいったとはいえ、トップを死守できるとは誰も予想していなかったこと。23号車陣営のピットは歓喜に包まれた一方、前代未聞の逆転劇にサーキット全体が一時状況を把握できず騒然となった。
喜ぶのも束の間、レースはこれで終わったわけではない。セーフティカーが解除されると、今季初優勝を狙うNo.12 カルソニック IMPUL GT-R(平峰一貴)が迫ってきたのだ。彼らの方がウエイトハンデが軽く、特にGT300との混走でペースが落ちた隙をついて、平峰も攻め込みにきたが、ここで踏ん張りを見せたのが前日の予選でクラッシュしてしまった松田だった。
「この鈴鹿はクルマの調子が良くて“久々に行ける”と実感していました。ただ、予選では自信があり過ぎたせいもあって……チームとロニーさんには申し訳なかったです。だから決勝では何とか結果でみんなに感謝を伝えたかったです。GT300との混走になるとピックアップに悩まされてペースも落ちてしまいます。それで平峰選手に迫られたところもありましたが、目の前がクリアになったところでペースを上げていくとピックアップを取ることができたので、後は心配せずに走れました」(松田)
その松田の落ち着いた走りに、ピットにいた鈴木監督も心配はしていなかったという。
「トップに立ってから、次生がしっかりとポジションを譲ることなく、がんばってくれました。『これなら大丈夫だな』と、見ていても安心できる状況でした。そういった意味では、“棚ぼた”ではあるんですけど、勝利に値する速さも持っていたのかなと思っています」(鈴木監督)
ニッサンファンが待ちに待ったタイトル奪還。残すは2戦、負けられない戦いが続く。
これで、GT500クラスの最後尾から優勝を飾るという前代未聞の逆転劇を披露した23号車は、ポイントランキングもトップから2ポイント差の3位に浮上した。
まさに、予選後の彼らからは全く想像がつかなかった結果……おそらく“予想外の勝利だった”ということは松田、クインタレッリ、そして鈴木監督も同じだったのかもしれない。それが、パルクフェルメでの“あの笑顔”の理由だったのではないだろうか。
この逆転劇が残り2戦となった今季チャンピオン争いの流れにどう影響するのか。色々な意味で、今回の鈴鹿大会はターニングポイントとなりそうだ。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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