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トヨタの勝利、その影には・・・
1983年フランス。
シャルル・ド・ゴール空港のレンタカー屋でもらった簡単な地図一枚を手にして向かった先は、映画で見た田舎町。高速道路を降り、右も左も分からず、クルマを進める。すると道路がやや下り坂になった。左側に高い木が等間隔で並んでいた。その瞬間自分が映画で見た場面に入り込んでいた。クルマはユーノディエールを走っていた。
あれから37年。
こんなことになるとは・・・。
コロナ禍が全てを変えてしまった。しかし、強かった。ルマンは、新型コロナウイルスなどには負けなかった。無観客といえども開催にこぎつけた。ガランとしたグランドスタンドにはひとっこ一人居ない。空撮のスタートシーンは、初めて見た光景。観客が楽しめる遊園地のアトラクションも無い。
しかし、コース上ではレーシングマシンがいつものルマンと同じに疾走。激走。
そして、ドラマがいくつも展開された。喜びのドラマ、悲しみのドラマ。勝利の座は一つだけ。またしてもルマンは「酷なレース」だった。悲願の優勝に突き進んでいたカーナンバー7の小林可夢偉選手。自身がドライブ中に排気系のトラブルに見舞われて約30分をロスした。このワントラブルで掴みかけていた勝利がスルリと手元から抜けて行ってしまった。ピット内にクルマが戻された瞬間にオンボードの映像が流れた。項垂れる可夢偉選手の表情をとらえた。今年こそはと、背水の陣で望んだルマン24時間レースだった。事前に行われたZOOM記者会見で監督の村田久武氏が「可夢偉は、本当に勝りへ向けてすごい集中している。マシンのセッティングに関してとことんエンジニアと議論して、それはまるでケンカしているようにも見えた。それだけ今年は絶対に勝ちたいという気持ちが漲っている」と語っていた。24時間をノントラブルで走り切ることなど不可能だと思う。しかし、3年連続トラブルやハプニングに見舞われてしまって勝利を逃してしまった可夢偉選手。ルマンの勝利の女神は本当に「酷な」神様だ。
自身3度目となるポールポジションを獲得した小林可夢偉だが、ル・マン初勝利は今年も果たすことが出来なかった。
そして、優勝したカーナンバー8が選手権ポイントで首位に立った。その差7ポイント。チャンピオン争いは、最終戦のバーレーンに持ち越された。そして、その結果によっては同ポイントの可能性が出てきた。そうなると可夢偉選手の頭上にチャンピオンの栄冠が輝くことになる。しかし、ルマンで勝つことに彼はこだわるのではないだろうか。来シーズンから新たなハイパーカーでWECが行われる。可夢偉選手がルマンの表彰台で歓喜の涙を見せることを願う。
文:高橋 二朗
高橋 二朗
日本モータースポーツ記者会。 Autosport誌(英)日本特約ライターでもあり、国内外で精力的に取材活動をするモータースポーツジャーナリストの第一人者。1983年からルマン24時間レースを取材。1989年にはインディー500マイルレースで東洋人としては初めてピットリポートを現地から衛星生中継した。J SPORTSで放送のSUPER GTのピットレポーターおよび、GTトークバラエティ「GTV」のメインMCをつとめる。
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