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スープラ圧勝に終わった開幕戦、テストで好調だったホンダ勢と何が違ったのか?
GT500クラス、GT300クラスともに最後まで目が離せない手に汗を握る激闘が帰ってきた。新型コロナウイルスの影響で開幕が大幅にずれ込んでいた2020年のSUPER GTがついに開幕したのだ。
7月19日に富士スピードウェイで行なわれた第1戦では、新型コロナウイルス感染防止対策として無観客で開催。さらにサーキットでは1,700人以上の関係者が集まるため、その滞在時間を少なくするために予選と決勝を1日で行なうという異例のスケジュールが取られた。
そんな中、GT500クラスは今季からドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)との共通規則「Class1」を導入した車両に変更にされ、トヨタGRスープラ、日産GT-R、そして規定準拠のために FR化されたホンダNSX-GTが登場した。
開幕前までのテストでは日産勢にトラブルが多発し少し出遅れているという印象。6月末の富士公式テストでもホンダとトヨタが上位を占める展開となったが、そのなかでもホンダNSX-GT勢が有利なように見えた。
富士テストでは好調だったNSX陣営。その仕上がりの高さに注目が集まっていた。
しかし、いざ開幕戦のセッションが始まる勢力図が一変した。GRスープラ勢は予選Q2になると、それまで隠していた手の内を披露するかのように見違えるようなパフォーマンスを披露したのだ。平川亮/ニック・キャシディ組のNo.37 KeePer TOM’S GR Supraがポールポジションを獲得。トップ6のうち4台がGRスープラ勢で固められるグリッドとなった。
決勝になると、GRスープラの“強さ”がさらに際立った。37号車はスタートから後続を圧倒し一時は24秒もの大量リードを築く独走劇を披露した。さらにレースが進むに連れてGRスープラ勢が徐々に上位を占めていく展開に。終わってみればトップ5を独占するという圧倒的なレースをみせた。またGT300クラスに参戦している吉田広樹/川合孝汰組のNo.52 埼玉トヨペットGB GR Supraも優勝を飾り、国内のモータースポーツシーンに15年ぶりに帰ってきたスープラが、その初陣でダブル優勝を果たすというこれ以上にない最高なデビューを飾った。
圧巻のデビューウィンを飾ったスープラ。トムス勢(36号車、37号車)は1-2フィニッシュと最高の結果に終わった。
これにはトヨタの豊田章男社長もプレスリリースでコメントを発表。「スープラという車名のサーキット復帰を最高の形で果たしてくれました。ドライバーのみんな、チームのみんな、スポンサーの皆さま、応援してくださったファンの皆さま、本当にありがとうございました!」と喜びの心境を語った。
テストの時とは打って変わり、なぜここまで2社の間に差がついたのか。優勝した37号車のふたりは「選んだタイヤがキーポイントだった」と語った。またコロナ禍で来日が出来なかったヘイキ・コバライネンに代わってNo.39 DENSO KOBELCO SARD GR Supraをドライブした山下健太は「コカ・コーラーコーナーや100Rのような高速コーナーではNSX-GTの方が速かったですが、「ストレートはこっちの方が速いなという印象でした。最終コーナーを同じくらいの速度で立ち上がって後ろにつくことができれば、1コーナー(のブレーキング)までに抜き切れるくらいの感じでした」とレースを振り返った。実際に他のドライバーたちの声を聞いてもストレートスピードという部分ではGRスープラ勢の方がアドバンテージを持っているようだ。
また決勝での天気も結果を大きく左右した要因だったようだ。開幕戦の週末は梅雨前線の影響もあり不安定な天候となり、初日の公式練習や予選Q1では気温20℃ほどだったのが、予選Q2以降で急激にコンディションが変化。決勝レース中には気温32℃を記録する場面もあり、路面温度では公式練習の時と比べて15℃以上も変わってしまった。
37号車をはじめとするトヨタ勢は、気温30℃を超える夏場のコンディションを想定したタイヤ選択。それもあってQ2以降で一気にパフォーマンスを見せることができたようだ。
一方、この暑さが“誤算”となってしまったのがホンダ勢。タイヤ選択という部分もそうなのだが、暑いコンディションになった時にマシンのパフォーマンス面でライバルに劣ってしまう部分があったようだ。
「今まででは気温が低い状況下でテストをすることが多かったです。そうするとダウンフォース量が上がったり、タイヤもそんなに辛い状況にならないので、すごくグリップしていました。でも、今振り返るとセパンテストでは(ライバルと比べて)劣勢だったかなと思うことがありました。少し気温が上がってきたときの対応がもう少し必要なのかなと思います」
そう語るのはNo.8 ARTA NSX-GTの野尻智紀。予選2番手からスタートするも、決勝は苦しい展開となり8位でフィニッシュ。「想像以上に厳しかったです。決勝での彼ら(スープラ勢)のポテンシャルの高さには、かなり衝撃を受けました」と、落胆しているのと同時に悔しさを噛みしめている様子だった。
さらに野尻はこう続けた。
「昨年のLC500もそうでしたが、レースになると強いという印象でした。今回のスープラも同じでクルマの姿勢の乱れも極力少なくなっていました。それに対してNSX-GTはピーキーさを感じるところがありました。乗っていてもそうでしたし、実際に映像を見直してもそうでした。でもレースで感じたピーキーさが予選では逆に良い方向に機能しているのかもしれません。実際に回頭性が出てコーナリング面でスープラよりも速く走れているという感触はありますが、レースではうまく機能しないような要因にもなっているのかなと思います。そうの辺は、もう少し“マイルドさ”みたいなものを高めていかないと、こういう夏場のレースで苦労してしまうなという印象でした」
タイヤのセッティングに悩まされた8号車(ARTA NSX-GT)。フロントローからのスタートだったが、結果は悔しい8位。
実は予選一発の速さではホンダ勢がポールポジションを奪う勢いをみせるが、決勝になるとトヨタ(昨年までのレクサス)勢が安定感で逆転してくる。さらに春や秋など気温が低いコンディションではホンダ勢が強さを発揮するが、夏場はトヨタ勢の強さが際立つ……これは過去数年のレースを振り返っても、同じようなことが起きており、規定変更により新しい車両になった今シーズンも、マシンの大まかな特徴という部分では変わりがないようだ。
それが今年は新型コロナウイルスの影響で夏に開幕するという変則スケジュールになったこともあり、今回のようなワンサイドゲームになった可能性はありそうだ。
ただ、ホンダのスーパーGTプロジェクトリーダーを務める佐伯昌浩氏は「今年のクルマは開発期間も短かったし、コロナの影響でテストも数回中止になった。その影響もあって、この前の富士テストでようやく2020モデルが完成したという印象なんです。ここからはテストがないので、レースを戦いながらセットアップを煮詰めていくという進め方になっていくと思います。我々にとって厳しいスタートになっていることは間違いありません」と開幕直前にコメントした。
つまり今季のNSX-GTはまだ熟成仕切っておらず、これから伸び代を残しているとなると、シーズン中盤から後半にかけてはスープラの勢いを止める存在になってきそうだ。
実際に今回優勝したキャシディもホンダ勢の速さにはかなり警戒していた。
「NSX-GTはすごく強いクルマだと思っているし(彼らを攻略するのは)チャレンジングなことだと思っている。ただ、今日に関してはトヨタがタイヤ選択の部分で素晴らしい仕事をし、それが勝利につながった。もちろん、今日のこともしっかり振り返る必要があるけど、僕たちとNSX-GT勢とのバトルはこれからも続くと思うし、僕たちももっと頑張らなければいけないと思っている」
もちろん、開幕戦ではなかなか上位に食い込めなかった日産勢も第2戦以降の巻き返しに注目。今回の結果だけを見るとライバルから遅れをとっているようだが、テストで頻発した駆動系のトラブルは一切確認されなかった。こちらもトラブルで遅れた分が解消されていけば手強い存在になってくるのは間違いなさそうだ。
ニッサン勢の最高位は3号車(CRAFTSPORTS MOTUL GT-R)の7位。今後の巻き返しに期待したい。
GRスープラが鮮烈デビューを飾ったが、シリーズチャンピオン争いという点で見ると、まだ7レースも残っている。特にライバル陣営は今回の惨敗ぶりをかなり悔しがっており、次戦以降でのリベンジに燃えている。8月の第2戦はより激しい戦いが待っているかもしれない。
厳戒態勢のなかで行なわれた開幕戦、そこで垣間見えたGTAの徹底したコロナ対策の対応
表彰式も全員がマスク着用、プレゼンテーターもいないという徹底したコロナ対策が取られた。
ついに開幕を迎えた2020年のスーパーGTだが、その裏では関係者による徹底した新型コロナウイルス感染防止対策が講じられていた。
この開幕戦では来場するドライバーやチーム関係者に加えサーキットの従業員にオフィシャル、さらに取材するメディア関係者にいたるまで、全員が14日前から健康チェックを行ない、毎日GTAヘの提出が義務付けられていた。提出されたものはGTAの山口孝治メディカルデリゲートが全員分チェックしデータ化。その作業は1日分をまとめるだけでも半日はかかるという。
そんな中、現場での取材許可が出ていた筆者も毎日健康チェックを出していたのだが、開幕1週間のタイミングで39℃を超える発熱症状が確認された。すぐに保健所等の指示に従い、まずは近くの医院で診察。この時点では、いわゆる“味覚障害”などもなかったため、自宅で数日間経過観察をするように言われた。
幸いにも1日で解熱し、程なくして仕事(リモートワーク)に復帰したが、GTAはたとえ1日で熱が下がり、当日の体調に問題がないとしても“念のため”一定期間は様子を見たいという結論になり、筆者は『入場禁止措置』を通達されることになった。
現場に行けなかったのは残念ではあるが、逆にこの体験を通してGTAが徹底的にコロナ感染対策の防止に尽力しており、その姿勢が少しも崩されていないということが分かった。“これなら大丈夫だろう”と緩い判断をするのではなく、“少しでも可能性がありそうなものは疑ってかかり、かなり用心して対応する”という姿勢が貫かれている何よりの証明になった。今回は私自身の体験を通して得られた情報・感じたことも紹介していこうと思う。
この経験を機に、電話取材という形で山口メディカルデリゲートに話を聞いた。そうすると、いかに“万が一”を起こさないために細心の注意を払って毎日全員の健康チェックに当たっていることが伺い知れた。
「(全員の健康チェックデータは)基本的にExcel等で一覧にして見られるようにしていますが、その中で1回でも異常が確認された人は“その後も毎日チェックをして行きます。例えば調査開始日に37℃の熱があった人は翌日以降36℃に下がったとしても、レースの日まで毎日注意深くチェックをしていきます」
さらにレースウィーク当日には入場ゲートにサーモグラフィや非接触型の体温計を完備し、少しでも異変が確認された者に対しては、山口メディカルデリゲートがその場で診察を行なう。再検温や血中酸素濃度の測定を実施し、場合によってはそこで『入場禁止』の判断が下されることもあるという。
プロ野球やJリーグなどでは開幕前に全員に対してPCR検査を行なっているが、山口メディカルデリゲートはPCR検査も100%の再現性があるわけではなく絶対的なエビデンス(証明)にはならないという考えており、“PCR検査をすればOK”ではなく、こうして14日前から徹底した健康チェックを行ない、少しでも異変がある者が見つかれば各チームや組織で決められている健康管理者に連絡しリアルタイムで詳細状況の把握や対応を行なえる体制を構築する。
山口メディカルデリゲートは、こうした徹底的な防御の姿勢を確立することが大事だと語っていた。
「僕は感染対策というのは“防御こそ攻撃”だと思っています。万が一(集団の中)感染している人が混ざっていたとしても、その人が飛沫を起こさない、さらに周りの人がしっかりとプロテクト(防護)をする。それが徹底されていれば、基本的に誰も問題にならないわけです。まずはウイルスの恐さを知って、きちんと感染防御に努めるというのが僕は一番重要だと思っています」
「だからこそ、こうして二重にも三重にも網を張って『ひとつ目、ふたつ目がクリアできても、みっつ目で引っかかったらダメだよ』というふうに徹底する。これこそが感染防護の水際対策において初歩だし基本です」
山口メディカルデリゲートも語る“しっかりとした防御”というのは、レースウィーク中でも垣間見えるシーンがたくさんあった。サーキット内では全関係者に対しマスクの着用が徹底され、レース後のパルクフェルメでもマスクの着用。表彰式も通常ならプレゼンターがトロフィーを手渡しするが、今回は予め各順位の台にトロフィーが置かれており、手渡しによる接触も回避していた。
そして記者会見では通常開催時よりも広い部屋が用意され、記者席も20名限定としてソーシャルディスタンスをとった座席配置となった。中に入れなかった記者や今回現場で取材できなかったメディア向けに限定してYouTubeで会見の様子をライブ配信するなどの対応もとられた。
参加するドライバーに対しても徹底した対策が取られた。通常GT500とGT300の優勝者(予選後の場合はポールポジション)が横一列に座るのだが、今回は前後2列で2人ずつ座る形に変更された。隣同士で座るドライバーの間にはアクリル板も設置され質疑応答の際はマスクを着用することも徹底された。
レース関係者のみならず、報道陣に対しても徹底したコロナ対策が求められた。
現在も日本国内での新型コロナウイルス感染者数は増え続けており、まだまだ油断ができない状態が続いている。そんな中でモータースポーツ界から感染者を出さないように、そして感染を拡大させてしまわないようにと、この開幕戦の裏ではGTAをはじめ多くの関係者が努力し、感染防止に努めているということが、リモート取材でも感じ取ることができた。
GTAの坂東代表は「こうして関係者の健康管理をちゃんとコンロールできるかどうかをひとつひとつ確認していって、第5戦以降は観客を迎え入れられるようにしたい」とコメント。そのための土台づくりを今も着々と行なっているようだ。
彼らが講じている感染防止対策は、まさに気の遠くなる業務と言えるかもしれない。それでも“コロナ禍の中でもみんなが安心してレースを楽しめる”という環境を実現するために、日々奮闘しているGTAの姿を、この開幕戦で垣間見ることができた。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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