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「光陰矢の如し」とはよく言ったもので、もう2019年のSUPER GTは幕を閉じることとなる。ここまで7戦を終えて、中には「でき過ぎだ」と思っているチームもあるかもしれないが、大半は思いどおりにいかなかったと悔やんでいることだろう。ともあれ、最後は悔いのない戦いをしてもらいたいもの。
というわけで、最終戦の舞台は今年もツインリンクもてぎ。通常より50km短い250kmでの戦いとなる。GT500、GT300ともにチャンピオン候補はグッと絞られ、それぞれがマークし合って走ることとなるだろう。もちろん、チャンピオン獲得権利がないチームであっても、最後に一矢報いたい、気持ちよくシーズンを終えたいと、全力でレースに臨むはずだ。
GT500には3チームにチャンピオン獲得の権利あり
最終戦といえば、なんといっても全車ノーハンデの戦いとなることが、最大の特徴でもある。ウエイトハンデが積み重なったことで本来の実力を発揮できなかったり、逆に苦戦続きがゆえに、ウエイトハンデをたっぷり背負ったライバルを尻目に大逆襲ができたり……というのが、ここまでの展開でもあったが、ことGT500に関しては、そういった泣き言も恩恵も一切通用しなくなる。開幕戦以来となる、本当に強く、速いのは、どのチームなのか明かされるというわけだ。
ただ、このレースで最も注目されるのは、タイトルの行方である。ランキングのトップは、WAKO’S 4CR LC500の大嶋和也/山下健太組で、これを7ポイント差でKeePer TOM’S LC500の平川亮/ニック・キャシディ組が、20.5ポイント差でMOTUL AUTECH GT-Rの松田次生/ロニー・クインタレッリ組を追いかける。
松田とクインタレッリは、ポールポジションを獲得できなかった時点で権利は消失。また、ポール・トゥ・ウィンを飾っても、大嶋と山下がノーポイントで、平川とキャシディが5位以下でないと大逆転とはならないが、なによりチャンピオンの獲り方を心得ているふたりである。
一方、大嶋と山下は誰の優勝を許そうとも2位で決定。だから、平川とキャシディは自分たちが勝った上で、大嶋と山下が3位以下でなくてはならず、いずれにせよ、お互いのポジションを睨みつつレースをしていくはずだ。同じレクサス勢だからといって、オーダーが出ることは絶対にあるまい。「当てるな、当たるな」ぐらいの指示は出ているかもしれないが。
ムードとしてはタイトル獲得の権利を残す3チームのうち、いずれかが勝った上で生まれるドラマを期待してしまいがちだが、権利を残さないチームの方がより必勝態勢で臨む可能性がある。例えばホンダ勢。お膝元での最終戦ながら、候補を残せなかった悔しさは想像に余りあるだけに、「せめて勝って一矢報いよ!」というのが至上命令でありそう。もてぎとNSX-GTの相性は良く、昨年は予選でトップ3を独占し、ARTA NSX-GTの野尻智紀/伊沢拓也組がポール・トゥ・ウィンを達成。ホンダ勢が、タイトル争いのカギを握りそうな気配すらある。
GT300のチャンピオン候補は4チームでも、事実上の一騎討ち?
GT300は全チームがノーハンデではない。というのも、全戦に出場していなくては恩恵が受けられないからで、タイでの第4戦を欠場したチームのうち、その他のレースで入賞経験のあるチームは、獲得したポイントそのままのウエイトを積んで走る。その対象となるのが、ADVICSマッハ車検MC86マッハ号の坂口夏月/平木湧也組、McLaren 720Sの荒聖治/アレックス・パロウ組だ。この2チームに限らず、チームランキングの中位にいるチームは来季のシード権を得られるか、得られないかの瀬戸際にいるだけに1ポイントでも欲しいところ。そういったせめぎ合いにも注目すると、よりレースを深く見られるはずだ。
だが、やっぱり最も注目されるのはタイトルの行方。ランキングトップとして最終戦に望むのは、ARTA NSX GT3の高木真一/福住仁嶺組。そして14.5ポイント差で追いかけるのが、K-tunes RC F GT3の新田守男/阪口晴南組で、20ポイント差がグッドスマイル初音ミクAMGの谷口信輝/片岡龍也組、そして20.5ポイント差がリアライズ日産自動車大学校GT-Rの平峰一貴/サッシャ・フェネストラズ組となっている。
このうち谷口と片岡、平峰とフェネストラズはポール・トゥ・ウィンが大逆転の必須条件であり、なおかつ上位2チームの結果次第となるから、現実はかなり厳しいと言えそうだ。土壇場のどんでん返しも期待したいところだが、ここは事実上の一騎討ちという前提で……。
もし新田と阪口のポール・トゥ・ウィンを許したとしても、高木と福住は4位にさえ入ればいい。これは精神的にも、かなり有利なはずだ。しかしながら、高木にはトラウマがある。昨年、12ポイントのリードを奪って挑んだにも関わらず、予選でのつまずきが響いて戴冠に失敗しているのだ。
ただ、高木はもちろんのこと、チームが同じ轍を踏むとは思えず、また失敗からの経験で最終戦に望んでいるのは間違いない。少なくても今年、ホンダNSXに替えたのは、昨年までのBMW M6があまりにコースを選び、もてぎとの相性が最悪だったことも配慮されたからなのだろう。いずれにせよ、高木と福住が予選で上位につけられれば、かなり可能性は高くなることになる。
一方、新田と阪口にしてみれば、勝った上で間に3台は最低でもかましておかねばならない。チャンピオン候補の谷口と片岡のドライブするメルセデスAMG、平峰とフェネストラズのドライブするニッサンGT-Rは、もてぎとの相性は悪くない。むしろ、レクサスRC Fの方が良くないぐらいなのだが、そういったライバルを先に行かせては、逆転できないのが悩ましいところ。また、昨年ポールを奪っている、ランボルギーニ ウラカンも来そうな予感がある。
どうあれ、高木と新田、最多勝を争い合うドライバーで、なおかつかつてのチームメイトが、それぞれ若手のルーキーとともに一騎討ちというのは、ドラマを生む最高のシチュエーションといえまいか? どちらに栄冠が輝こうが、エンディングに涙はなく笑いが、それもお互いが賞賛し合っている様子が容易に想像できる。ただ、結末だけは分からない。
文:秦 直之
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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