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モーター スポーツ コラム 2019年6月18日

TOYOTA GAZOO Racingの連覇の裏にみえた課題と、みせたジェントルマンの活躍ぶり

モータースポーツコラム by 平野 隆治
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■TOYOTA GAZOO Racingの連覇も、課題を感じさせる結果に
「ル・マンは嫌いです」

長い戦いを終えた6月16日のル・マン24時間決勝レース後の記者会見場で、7号車トヨタTS050ハイブリッドの小林可夢偉は、英語でこう切り出した。気持ちは痛いほど良く分かった。2018年に初めてル・マンで優勝を飾ることができたTOYOTA GAZOO Racingにとって、今季タイトル争いをリードする8号車は2位に入ってワールドチャンピオンを獲れればOK。一方、可夢偉たちが乗る7号車は、昨年獲り逃したル・マン24時間ウイナーという称号を獲りたかった。それは、レース前に中嶋一貴、そして可夢偉と話したときも明確に感じ取れた。


もちろんレースは自由競争で、7号車と8号車は激しくトップを争ったが、中盤以降、マシンのドア部分にわずかに空気が入り、空力面でわずかにペースが遅くなった8号車に対し、決勝日にセットアップ変更を行った7号車がペースを握った。8号車のすべてのドライバーが「今日は7号車のレースだった」と語っていたとおり、23時間までは、誰もが7号車の優勝と日本人ドライバーの4人目のウイナー誕生かと思われていた。

しかし、ル・マンの神様というのは残酷だ。7号車はタイヤのパンクチャーを感じ取り、詳細はまだ正式な発表こそないものの、センサーに起因するとされるピットインを余計に一度行ったことで、8号車にトップを譲ってしまったのだ。2年連続のワン・ツーフィニッシュ、中嶋一貴の日本人初のサーキットレースでのワールドチャンピオンと嬉しい結果となったが、少し喜びきれない結果となった。


レースの過酷さを物語る象徴となってしまった可夢偉組のレースだったが、逆に言えば、TOYOTA GAZOO Racingはまだ、かつてライバルメーカーが見せつけたような“強さ”をみせるにはまだ足りなかったということだ。村田久武チーム代表も「気持ちは複雑です。近日中に今回起きたことの真の要因を突き止め再発防止を図ります」と述べている。8号車のわずかなロスについても、原因を突き止めるまでに時間がかかった。

そして2年連続優勝という成果は残したものの、2020年のハイパーカー規定導入に向けて、TOYOTA GAZOO Racingにはまだまだル・マンに受け入れられるためにやらなければならないことがある。

2018年からはチームにフェルナンド・アロンソが加わったことにより、現地でもTOYOTA GAZOO Racingのウェアやグッズを身につけるファンが増えた。しかし、真にトヨタのファンになった……という人たちをまだまだ増やさなければいけない。それは強さを身につけること以外にも、やることは満載だ。来年以降も、ぜひ取り組みを続けていただきたい。いま、プロモーションの観点でのル・マン24時間の王者はポルシェ。彼らを上回る存在感を見せられるだろうか


■ジェントルマンこそル・マンに欠かせぬもの
そんなTOYOTA GAZOO Racingの連覇で幕を閉じた今年のル・マン24時間だが、盛り上がりは当初減るのではないかと思っていたが、現地で観ていた分にはまったくそんなことはなかった。観客動員数は、主催者から発表された数字は微減。ただ見た目は「ちょっと減ったかな?」という程度だった。

やはりこのレースは、誰が出ていても、ワークスチームが多かろうと少なかろうと、唯一無二のクルマの祭典なのだ。そして、スポーツカーレースの根源には、やはりジェントルマンドライバーの存在が欠かせない。メーカーワークスとジェントルマンの華麗なる競演。それこそがル・マン24時間だ。

今年、改めてそれを気付かせてくれたのは、日本から挑んだCarGuy Racingだった。木村武史が中心となって立ち上げられたスーパーカーエンターテインメント集団は、2015年の結成からわずか4年でル・マン24時間完走までこぎつけた。

レース後、筆者はチームのピットの前でフィニッシュを待ち受けたが、チェッカー直前にピットに姿をみせた木村の目には涙が浮かんでいた。彼は会社を急成長させる社長であり、話してみると分かるが、その考え方はいつも合理的で論理的。楽しいことは大好きだが、そこに涙の“感情”が入り込むような人とは思っていなかっただけに、わずか2年のつきあいながら、思わずもらい泣きしてしまったのはここだけの話だ。

木村にレース後、涙の理由を聞くと「感動というより、開放されたという感じですね」と語っていた。ル・マン24時間という夢に挑戦するためには、ドライブする以外にも多くのプレッシャーがかかる。このプレッシャーから開放されたのが涙に繋がったのだとか。

そういった点では、同じくジェントルマンドライバーとして挑んだ星野敏にも、完走してほしかったところだが、予選までは脚光を浴びていた分、不運が降りかかってしまったようだった。このふたりは1年以上取材させていただいたが、ジェントルマンドライバーというのはその考え方やアプローチが非常に面白い。そんなジェントルマンたちを受け入れ、それぞれにドラマを生み出すのもまた、ル・マン24時間なのだ。

自動車メーカーが牽引し、未来へ向けて変わっていくのもル・マン24時間。伝統が受け継がれていくのもル・マン24時間。今年はなんだか、その両方を感じた。

文:平野隆治

平野 隆治

平野 隆治

1976年横浜市出身。モータースポーツ専門誌、サイトの編集部員を経て、2015年からモータースポーツを中心にした“自称なんでも屋”に転身。SUPER GTは10年以上ほぼ全戦現地で取材をこなしてきた。

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