5つの名前を持つ男

アンドリュー・ギルバート・スコットというイギリス人ドライバーがかつて日本で活躍していました。彼の先祖は、モーガン家。そう、オープンスポーティカーの代名詞とも言えるモーガンを創っていたメーカーですね。その血を継ぐ。彼のファンの方も居るかも知れませんね。

昔々、日本のモータースポーツを統括する団体が、競技結果のデータベース化を進めていた。多額の資金を投じて某大企業の経済研究所統計部門に依頼して、手元にあった結果資料をデジタルインプット。さすが大企業の人海戦術で短期間のうちに作業を終えることができた…のだが。

統括団体の担当者が、出来たてホヤホヤのそのデータベースをちょっとだけチェックしてみた。そして、「あれ？」と思ったのでした。

そこには、A.G.S。A.G.スコット。A.ギルバート・スコット。アンドリュ・G・スコット。アンドリュー・ギルバート・スコットという人物が別人として名前の検索画面に登場したのです。担当者は、某統計部門を信頼していたので、まさかインプット間違えなどあり得ない、けれど、そこにあった名前の5人はどうみても同じ人物ではないかと思えてしょうがなかったのです。ある日、知り合いから担当者が困っているので電話して良いかと連絡があったので、快諾。

後日、その担当者から連絡があり、即答。
「はい、同一人物ですよ」
「他にも問題があるかも知れないのでチェックしなくてはならないのですが、データベースの開設時期が迫っているので、ご協力いただけませんか。勿論作業料はお支払いします」
「開設時期が迫っているとのことですが、全てを調べ上げるのは時間がかかります」
「それでは、開設時に公表する部分を限定しますので、即、作業をお願いします」

チェックし始めると、長谷 昌弘、長谷川 昌弘、長谷見 昌弘とインプットされたものもありました。ご存知、長谷見　昌弘さんが正解です。他にも、特に外国人ドライバーの名前は何通りものインプトが検出されました。それを表記の統一化を図ってひとつずつシラミ潰しに訂正していった。問題は、インプットした作業員のミスではなくて、各サーキット、競技会から提出された結果表に記載された名前が同一人物なのに記載間違いや統一性がなく、それに基づいてインプットしたために起こったことが判明したのです。

データーベース＝統計は、大元のデータが間違っていると全く意味を持たないし、使い物にならない無用の長物になります。データを正確に集めて、規則を設けてインプット。それを分析する場合にある意図を反映してアウトプットされたとなったら、そんなの嘘っぱち！になる。

わが国の厚生労働省で毎月勤労統計に不正問題が騒がれている…。担当の官僚が言うに事欠いて「私は統計の専門家ではありませんので…」
困ったものです。

わが国のモータースポーツ統括団体の結果データベース開設時担当者は、官僚に比べたら偉かったと評価できますね。チャンチャン。