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タイのチャンサーキット、これが実に走りたくなるサーキット
全8戦で争われるSUPER GTは、今回が第4戦ということもあって、シリーズ前半戦をここで終えることになる。このレースはまた、特別な一戦だ。ここまでのレースは国内で、しかも事前に公式テストを行なった上で挑んでいたものの、今回は海を渡ってタイで開催され、しかも公式テストなく挑まなくてはならない。過去4年間のレースでそれなりにデータは蓄積されているとはいえ、それなりに未知の要素は今でも多い。また、これまでは第7戦としてシリーズ後半戦に行われていたから、気象的な条件が異なる可能性も……。もっとも、暑いということには、少しも変わりはないだろう。
舞台となるタイのブリーラム県にある、チャン・インターナショナルサーキットは実に走りがいのある、また観客にとっても観戦しやすいサーキットである。アップダウンはほとんどなく、コース幅が広いため、随所でドライバーは仕掛けやすく、実際オーバーテイクポイントも少なくない。また、抜けないセクションであっても、ドライバーの頑張りがしっかりタイムに反映されるからでもある。観客の立場からしても、グランドスタンドにいればコースのほぼ全貌が見渡せ、特にドラマの起こりやすい5~6コーナーが、ストレートを挟んで目の前に位置するだけにレース中は興奮のしどおしなのではないか? ただし、ここに行くまでが大変。タイの首都、バンコクから主に陸路を4~5時間要して、移動しなくてはならないからだ。
GT500は、レクサス勢がW本命になる!?
さて、これまでタイでのレースは多くが第7戦として開催され、獲得したポイント×1kgのウエイト搭載で済んだため、その点でのドラマはほとんどなかったと言ってもいい。しかし、前述のとおり今年は第4戦としての開催で、ランキング上位陣には程よくウエイトが積まれ、そうでないチームはウエイトに苦しまずにいる。過去3戦は、公式テストの状況から予想を立ててきたが、今回はそれができない以上、過去のデータを照らし合わせた上で、ウエイトに苦しんでいないチームが有利だと予想するしかない。
まず過去のデータで言えば、GT500ではホンダ勢が一度も勝っていない。2014年に中嶋一貴/ジェームズ・ロシター組のPETRONAS TOM'S RC Fが勝ったのを皮切りに、16年に関口雄飛/国本雄資組のWedsSport ADVAN RC Fが、そして17年に平川亮/ニック・キャシディ組のKeePer TOM'S LC500が制していて、圧倒的にレクサス勢に相性のいいサーキットだということが分かる。残る1勝の15年には本山哲/柳田真孝組のSRoad MOLA GT-Rが、優勝を飾っている。
今回もホンダ勢は、苦戦を強いられるのではないか。そういう見立てであるのは、NSX-GTが明らかにコーナリングマシンであるからだ。そのことは前回の鈴鹿、特に予選で明らかになっている。また、第2戦の富士を苦手としたことも拍車をかける。このサーキットはパッと見の印象以上にアベレージが高く、富士と遜色ないからだ。特に絶対の人気を誇るジェンソン・バトンが山本尚貴とともに駆る、RAYBRIG NSX-GTの初優勝を心待ちにしているファンも多いだろうが、64kgものウエイトを積んでいては至難の技。もはや後半戦に期待するしかなさそうだ。同じことが62kgを積む第2戦のウィナー、松田次生/ロニー・クインタレッリ組のMOTUL AUTECH GT-Rにも当てはまり、この2チームは1ポイントでも多く稼ぐことに専念することになる。
ウエイトに苦しんでおらず、しかも過去の相性がいいとなれば、レクサス勢ではまず中嶋一貴/関口組のau TOM'S LC500を挙げねばなるまい。ここまで積んだウエイトは28kgで、TOM'Sには過去4戦中2勝という実績もある。何より中嶋一貴は先に行われたル・マン24時間で優勝を飾って勢い十分。間にレースを挟まず、リフレッシュもできているだろう。凱旋レースでの激走に期待がかかる。また、昨年2位だったWAKO'S 4CR LC500の大嶋和也/フェリックス・ローゼンクヴィスト組も同じ28kgとあって、この2チームをW本命としよう。
対抗馬となるのは、未勝利のニッサン勢。揃って上位の可能性も!
しかし、レクサス勢にはもう1台見逃せない存在がある。それが言うまでもなく、国本/山下健太組のWedsSport ADVAN LC500だ。16年にタイで勝っているチームでもあり、積んでいるウェイトもわずか4kg。またアジアでのレースに強いのは、履いているヨコハマタイヤの特徴でもある。ここをダークホースにするならば……。W本命に対する対抗馬は、ニッサン勢となりそうだ。正直、ここまでの3戦で結果を残せているのはMOTUL AUTECH GT-Rだけで、他の3チームはどうにも展開に恵まれていない。ウエイト的には、いずれも勝つチャンスはあるだけに、それぞれ異なるタイヤのマッチング次第ということになるのだろう。
ブリヂストンがマッチすれば、佐々木大樹/ヤン・マーデンボロー組のカルソニックIMPUL GT-Rが、ミシュランがマッチすれば、本山/千代勝正組のCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが、そしてヨコハマがマッチすれば、J.P.デ・オリベイラ/高星明誠組のフォーラムエンジニアリングADVAN GT-Rが来る、というざっくりした予想なのはご容赦いただきたい。ただし、富士での印象からすれば、そろって上位につける可能性すらありそうではある。
GT300ではGT-Rがカギを握ること必至!
GT300では、かつてタイのレースに絶対の相性を誇った車両があった。それがニッサンGT-RニスモGT-Rで、星野一樹をエースとするB-MAX NDDP GT-Rは14年から2連勝、16年にも2位となっている。ところが、昨年は一転して8位に。最後まで苦しめられたBoPの影響といえばそれまでだが、まったく太刀打ちすることが許されなかった。今回もBoP次第とはいえ、GT-Rそのものが18年仕様として、著しく進化しているだけに逆襲を果たせるか、それとも再び苦戦を強いられるのか、大いに気になるところである。
うまくパズルのピースがはまっている状態なら、平中克幸/安田裕信組のGAINER TANAX GT-R、星野/吉田広樹組のGAINER TANAX triple a GT-Rとも、優勝争いを繰り広げる可能性は十分にありそうだ。あとはそれぞれ異なるタイヤを履くことから、そのマッチング次第ということにもなるのでは?
一方、昨年優勝を飾ったのは中山雄一/坪井翔組のJMS P.MU LMcorsa RC F GT3。今年は中山雄一とベテラン新田守男のコンビに改まり、前回の優勝によってK-tune's RC F GT3が積むウエイト42kgは、やや微妙なところ。また、ランキングトップに立つ、高木真一/ショーン・ウォーキンショー組のARTA BMW M6 GT3にとって、コース的な相性は極めて良さそうだが、52kgのウエイトではやはり微妙なところだろう。だが、同じウエイト量であっても、そう感じさせないしぶとさを持つのが、松井孝允/坪井組のHOPPY 86 MCであり、また2kg差で続く中山友貴/小林崇志組のUPGARAGE 86 MCだ。この2台は予選では確実に上位につけそうだ。
ただマザーシャシーは、どうしてもストレートでハンデを追うため、決勝は……と言わざるを得ない。しかし、スタートから続く3本のストレートをうまくしのげたならば、状況は一転する。5コーナーからのテクニカル区間で差を広げることもできるからだ。逆にウエイトに苦しんでいない存在として、注目したいのは昨年の優勝でクルマの相性は実証済である、吉本大樹/宮田莉朋組のSYNTIUM LMcorsa RC F GT3か。スーパールーキー宮田もSUPER GT4戦目で、かなり慣れてきたはず。吉本の久しく恵まれていない優勝への渇望感も著しいだけに、このチームもマークしておきたい一台になりそうだ。
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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