人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
“ノーパワー”を払しょくしたトヨタ
6月16日(土)~17日(日)、仏サルト・サーキットでは、第86回ル・マン24時間レースが行われた。結果は皆さんご存じの通り、トヨタ8号車が優勝、7号車が2位。公式的には20回目の挑戦にして、初勝利を物にした。ただ、トヨタの“ワークスとして”のル・マン参戦は、1992~1993年のTS010からだと思っているので、それに続くTS020の1998年~1999年、そして、2012年から2018年までのTS030以降としてカウントしたいし、11回目の挑戦にしての初勝利という印象だろうか。私の中では、トムスや童夢、サードの挑戦は、“チームとして”の参加としてカウントしているからだ。
今年の優勝に関しては、まずは“おめでとう”。そして、中嶋一貴選手とセバスチャン・ブエミ選手を祝福したい。特に、中嶋一貴選手は、これまで“悲劇のヒーロー”だったので、ようやく肩の荷が下りたことだろう。本人は、「去年、セブがトップを走っている時にトラブルが起きたので、僕だけがそういう巡り合わせではないと思って安心しました(笑)」と言っていたが、一昨年の“ノーパワー”は、ル・マンの歴史の中でも決して忘れられない出来事。だからこそ、それを払拭できたのは良かったと思う。
違和感ありのアロンソ祭り
一方、フェルナンド・アロンソ選手に関してだが、確かに走りは凄かった。特に、決勝中の夜間走行は、さすがの一言。ただ、これまで約30年間に渡って、ずっとル・マンを取材してきた私にとっては、ACOやチームのアロンソ選手に対する異様とも言える扱い方はむず痒かった。本人が望んで、そうなったのかどうかは全く分からないのだが、その扱われ方は、ル・マンのスピリットとは全くかけ離れたものだったからだ。長らくル・マンを取材しているヨーロッパの記者からも、同じ感想は幾度となく聞いているので、あながち私だけが間違っているというのではないと思う。
まず、公開車検の時だが、トヨタというかアロンソ選手が登場すると、“誰の物か分からないカバンが発見された”というマユツバな理由で、私たちプレスは全員、“ガタイのいい”セキュリティーにブロックされ、取材エリアから一旦退場させられた。もちろん、こんなことは初体験。仏で大スター(日本では考えられないほどのパニックが起きた)のパトリック・デンプシー選手(当時)が初めて車検場を訪れた時でさえこんなブロックはなかったのだから、こちらとしては大ショックというか、“ありえない”という気分。別にアロンソ選手のことだけを取材したいわけではなく、日本のメディアとして中嶋一貴選手や小林可夢偉選手を取材したい立場としては、本当に“???”だった。同じ元F1チャンピオンのジェンソン・バトン選手や元F1ドライバーのファン・パブロ・モントーヤ選手、これまでにル・マンを制しているアンドレ・ロッテラー選手やニール・ジャニ選手、ロイック・デュバル選手なんかは、他のドライバーと全く同じ扱いをされているし、馴染みのジャーナリストと普通に会話していたのに…。
また、トヨタのメディアセッションでも、他のドライバーとは違い、アロンソ選手だけは別室で、しかも招待されたメディアだけがインタビューできるという方式。私は幸い招待された中の1人だったが、このメディアセッションでも、誰も彼もがアロンソ選手に話を聞きたいわけではないのだから、一緒に扱えばいいのにと強く思った。過去を振り返ると、ル・マンで9勝しているトム・クリステンセン選手にしても、F1からポルシェに華々しく移ってきたマーク・ウェバー選手にしても、他のドライバーと全く扱いは同じ。アウディもポルシェも彼らに対して特別な配慮は全くせず、その姿勢は清々しかった。参加するドライバー180人全員が、それぞれの背景や思いを背負ってきているル・マンだからこそ、皆を平等に扱うのが正しいし、アウディやポルシェの姿勢を支持したい。私にとっては、アロンソ選手もル・マンルーキーのうちの1人であって、特別ではなかった。取材したい内容がない時でも、格別に会って話をしたいという存在ではないのだから、そういう日に招待されても困る。多くのル・マンメディアにとって、それは同じだったと思う。それなのに、ACOやWEC、トヨタGAZOOレーシングが“アロンソ祭り”になっていたことには、強い違和感を憶えた。
トヨタ優勝で問われる、LMP1ノンハイブリッドの存在意義
まぁ今のWECやル・マンの状況を考えると、そうなるのも分からなくはない。メーカーワークスとしてシリーズに残ったのはトヨタのみ。予算やリソースに限りあるプライベーターがトヨタと戦うのは、たとえ同じ速さを持っていたとしても、そもそも不可能だ。しかも、誰が疑心暗鬼になったのか、プライベーターにはトヨタより速く走れないよう、レース中の上位20%のラップタイム(イエローなしの場合)がル・マンではコンマ5秒以上遅くなければならないとか、1スティントで許される周回数が1周少ないとか様々な規制が設けられ、最初から勝てない条件の数々が突きつけられていた。トヨタのエンジニアは、「ル・マンではプライベーターの方が速いはず」と、計算上のラップタイムを強調していたが、プライベーターは完全に手も足も出ないようにされていたのだ。そうなると、観客の目を惹きつける何かが必要になる。それがアロンソ選手だったのだろう。
結果としては、主催者の目論見通り、トヨタは独走での1-2を決めたわけだが、正直な話をするとプレスルームの中では、パラパラと拍手した記者が数人いただけで、ほとんどの記者はシーンとしていた。走る前から結果が分かっているレースほどワクワクしないものはないし、今年は他のクラスの争いも序盤からバラけてしまったため、余計に皆が白けてしまったのだろう。特にLMP1クラスでは本物の“レース”や“バトル”がなかったため、そういう雰囲気になったしまったと思う。トヨタ内ではロペス選手対アロンソ選手、一貴選手対可夢偉選手というバトルがあったのだが、長くル・マンを見ているプレスのみんなが見たかったのはコース上でのライバルチームとのバトルや駆け引き。そういう意味では、2003年に唯一のワークスであるベントレーが1-2フィニッシュした時と同じぐらいの白けっぷりだったと言っていい。そして、今回のル・マンを経て分かったのは、ノンハイブリッドクラスの無意味さ。トヨタは、同じカテゴリーに分類されているLMP1ノンハイブリッドに対して、あからさまな“警戒”を隠さなかったが、今年のWEC開幕戦・スパ、第2戦・ル・マンを見る限り、LMP1ノンハイブリッドの存在意義はない。つまり今後、全エントラントが撤退する可能性が大きい。今の状況であれば、どのプライベーターも、LMP2で他のチームと戦って勝った方がメディア的にもPR的にもより価値があるからだ。そもそも優勝できないカテゴリーに大金を投じるプライベーターは皆無と言っていいだろう。そうなると、トヨタも撤退に向けてのシナリオを書かなければならなくなる。アロンソ選手はル・マンの優勝ドライバーとなり、WECのチャンピオンも獲得すれば、間違いなくシリーズを離れて今度はインディに移るはず。そうなった場合、ライバルのいないクラスを維持しながら、シリーズを盛り上げることは不可能だ。そういう意味で、今年のル・マンは、スポーツカーレースの将来に大きな疑問を投げかける1戦となったと言っても過言ではない。
(著者:貝島 由美子)
J SPORTS 編集部
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
WRC世界ラリー選手権 2024 Round13 フォーラムエイト・ラリージャパン2024 オープニングセレモニー/SSS1 豊田スタジアムSSS
11月21日 午後5:00〜
-
WRC世界ラリー選手権 2024 Round13 フォーラムエイト・ラリージャパン2024 シェイクダウン
11月21日 午前8:50〜
-
WRC世界ラリー選手権 2024 Round13 フォーラムエイト・ラリージャパン2024 SS2-4/サービスパーク/SS5-9
11月22日 午前7:30〜
-
WRC世界ラリー選手権 2024 フォーラムエイト・ラリー・ジャパン ナビ
10月28日 午後8:30〜
-
SUPER GT 2024 第8戦 モビリティリゾートもてぎ 決勝
11月3日 午後12:00〜
-
【先行】スーパーフォーミュラ 2024 第9戦(最終戦) 鈴鹿サーキット 決勝
11月10日 午後1:40〜
-
SUPER GT 2024【Team Radioプラス】 第7戦 オートポリス 決勝
11月15日 午後10:00〜
J SPORTSで
モーター スポーツを応援しよう!