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F1出身ドライバーのパイオニアとは?
全日本GT選手権(JGTC)の時代を含め、SUPER GTは長い歴史の中で、数多くの元F1ドライバーを走らせてきた。過去には鈴木亜久里や片山右京ら、現在も中嶋一貴や小林可夢偉ら日本人ドライバーの次なるステージとなっているが、外国人として元F1ドライバーのパイオニアとなったのは、エリック・コマスである。
1991年から4年間、リジェ、ラルースでF1を戦った後、95年からJGTCに出場したコマスは98、99年にニスモのスカイラインGT-Rをドライブして2連覇を達成。2006年までに通算6勝を挙げている。ただ、コマスはF1では成功したドライバーとは言い難く、所属していたチームがいずれも低迷期にあったこともあり、最上位は5位。日本のレースの水が、よほど合っていたのだろう。
その後もベルトラン・ガショーがさまざまなF1チームを渡り歩いた後、96年から2年間、スープラをドライブしたものの、こちらはF1同様、ネームバリューの割には目立った結果を残せていない。その一方で、97年から長らくGTを戦っていた、ラルフ・ファーマンはフォーミュラ・ニッポンを含む、日本のレースでの活躍が認められて03年に1年だけジョーダンでF1に参戦したものの、入賞は一度きり。その後、GTに復帰して元F1ドライバーの肩書きを得たが、これはまぁ例外と言ってもいいだろう。
コバライネンの苦心
F1でも成功した外国人ドライバーといえば、昨年まで唯一無二の存在だったのがヘイキ・コバライネンだ。07年から6年間、F1を戦い、2年目に所属したマクラーレンでは1勝を挙げて、表彰台にも3度。前年のルノーで得たランキング7位を2年連続で獲得した。ただし、その後は所属チームに恵まれず。2年目のマクラーレンも不振を極め、10年に移籍したロータス/ケーターハムは、到底優勝など望み得ないチームであったことから、2勝目を挙げることはついぞ許されなかった。ただし、一度は失ったシートを、ペイドライバーの不振から取り戻したり、キミ・ライコネンの代役としてスポット参戦もあったりしたことから、実績以上に評価が高かったのは間違いない。
16年に平手晃平とともにチャンピオンとなったコバライネンながら、参戦初年度の15年は苦労の連続だった。開幕から2戦連続で5位になるも、それがこの年のベストリザルトに。SUPER GT独特の戦い方、そして過去にフォーミュラ以外の車両をドライブした経験が皆無だったことが、その苦労の理由であった。そこで16年はコバライネン好みのセットに、平手が合わせることとし、何よりSUPER GTを1年間、苦労の中でも経験を重ねて、理解度を深めたのが大きいのではないか。第2戦から2戦連続で2位表彰台に上り、連戦となったラストのもてぎでは2位、そして優勝。一度もリタイアなく、全戦入賞も決め手となって、チャンピオンを獲得することとなった。
元F1チャンピオンの参戦
そんなコバライネンでさえ、表彰台に上がるまで、まる1年、勝つには2年近くを要したわけだが、だからこそジェンソン・バトンがフル参戦初年度の1戦目から、2位表情台に上がったのは、少なからぬ驚きではあった。元F1チャンピオンなのだから、「そのぐらい当たり前だろう」という声もあるだろうが、仮になかなか結果を出せなくても「今は長い目で見るべきだ、勝負は2年目から」という声も上がっていたことだろう。いずれにせよ、タイヤ無交換という今までやったことのない、逆にいえばやる必要もなかった作戦を成功させたことで、より驚きは増したものだ。
そもそも出ると決まっただけで「バトン効果」は、絶大だったと聞く。バトンが参戦することで海外でのSUPER GTへの注目、関心は著しく高まったとされ、今まで年に一度、F1だけを観戦していたファンが、「同じ費用でSUPER GTを2戦、3戦見られる」と歓迎しているという話も伝わってきた(バトンがもう、F1にはいないという背景もあるにせよ……)。新たなSUPER GTファンの開拓にもつながった一方で、開幕前のテストではバトンを一目でも、というファンの殺到でピット裏が渋滞し、シーズンが始まったらどうなることやら、と思ったもの。もっとも現在ではファンのマナー向上によって、過激な歓迎ムードは沈静化した印象もある。
バトン好調の要因
さて、SUPER GTにおけるバトンの速さは、誰もが予想していたとおりではなかったか。GTがF1より重く、バランスに違いはあったとしても、はるかに高い次元のスピードを体験しているのだから。ただ、それは一発の速さであって、決勝レースでのコンスタントラップには、疑問もあった。車両のセットも決めなくてはならないし、何より明らかな速度差のあるGT300をロスなく処理し続けていけるか、という。
そこで所属する「チーム国光」は、今シーズン最初の公式テストで荒技に討って出た。初日2セッション、4時間をすべてバトンに走らせたのだ。まずはバトンの好みのセットアップを進め、その上でGT300の処理をマスターしてもらおうと。幸いにも公式テストの地は、岡山国際サーキットというバトンにとって未知のサーキットであり、「かつて、ここでF1を開催したのか?」と当時を知らぬ者なら疑問を抱くほど、タイトなレイアウトで知られている。
結果としてアクシデントに遭遇することもなく、タイムもトップからコンマ4秒遅れの6番手。しかも、バトンの進めたセットで翌日走行を開始したパートナーの山本尚貴が、いきなり2番手につけるという、うれしい誤算も。これはドライバーふたりの好みも一致した、ということも意味している。だから、チームとしては周囲がどう思おうと、「今シーズンは戦える」という見解になっていたのではないか?
ここまで2戦終えて、開幕戦と第3戦で2位。NSX-GTが苦手とする富士でも、しっかり9位につけ、「RAYBRIG NSX-GT」と駆る山本とバトンは、現在ランキングのトップに立っている。ウエイトハンデが厳しくなってきたため、逆にバトンの初優勝は遠のいてしまう可能性も出てきたが、このままコンスタントにポイントを稼いでいけば、ウエイトが半減される第7戦、オートポリスやノーハンデとなる最終戦、もてぎでとびっきりの笑顔が見られそうだ。
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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