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このブログについて

2000年の番組開始から15年以上に渡り、良質かつ多彩な企画で人気を博してきた、J SPORTSオリジナルサッカー番組「Foot!」。
2011年8月から、週5日放送のデイリーサッカーニュースとしてリニューアルし、世界のサッカー情報を余す ことなく紹介する。

Ben’s Foot! notes 2016年08月18日

16/17 Ben's Foot! notes ~Week 1-後半~

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Week 1(後半): Brexit

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●自国や欧州だけではなく、世界中に衝撃を与えたイギリスの「EU離脱」。

●何という馬鹿なイギリス国民!というか国民投票で大切なことを決めるなんて恐ろしいことだわ。自分の立場を守る為に国の将来を賭けた、キャメロン前首相も馬鹿!
●イギリス在住でEU国籍を持つ外国人が多い。その中、インテリ系で「Brexit」を嘆く人が多い。

France Football紙にて「Brexit」を嘆く、Arsene Wenger監督

Link

●"But the shock, is that we discover that in England there are a majority of people who want to leave the European Union. It is even more flagrant when you live in London, the excellent example of cosmopolitan life.
「イギリス国民のうち、過半数がEU離脱を求めているという結果が大ショックだった。特に、ロンドンが代表的な国際都市なので、ここに住むと尚更驚くね。」

●"There are in fact two England's: one that voted to remain and another that voted to leave.
「イギリスが実は2つに分かれている。「残留」に投票したイギリスと、「離脱」に投票したイギリスがある。」

●"My impression is not that the English do not want Europe. In reality, they do not want Europe as it currently is. There is certainly a lot of confusion for a large number of people who voted to leave.
「私の印象では、イギリスの国民は本当にEUから離れたいと思っているわけではない。ただ、このままでのEUが嫌ということだ。だから、「離脱」に投票した人々の中、混乱している人が多い。」

●"Their message was more: 'I do not want Europe in its current form.' It is a feeling that is shared in a lot of countries.
「彼らは『EUがこのままでは嫌だよ』と言いたがっていた。この気持は、多くのEU加盟国に共通しているだろう。」

●"We thought that one day the best players from Real and Barca would say: "I also want to go to England because everyone is over there." All of that is now uncertain and Brexit is a spanner in the works.
「プレミアリーグとして、トップレベルな選手がどんどん多くやってきている中、レアル・マドリーやバルセロナのエースも今後、イングランドでプレーしたくなるようになると思っていた。しかし、『Brexit』のせいで全てが分からなくなる。全てが不明になった。」

さて、EU離脱によってフットボールにどのような影響が出るだろうか?

既に見られている影響:通貨ポンドの下落

●多くのEU加盟国は「ユーロ」という単一通貨を使っているが、イギリスは「ポンド」だ。
●国民投票の結果、ポンド(GBP)の価値が急落してきた。ユーロ(EUR)と比較すると:

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Source

●これはもちろん、移籍活動に大きな影響を与える。
●例えば、Pogba。ユベントスは売る側としてユーロで交渉するのが当然。結局、€1億500万という移籍金に決まるが、ユナイテッドにとってポンドに戻すと幾らになるのか?

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●何と国民投票の1日で£500万高くなった。移籍が成立するまで£1000万高くなった。
●なお、昨シーズンの『Foot!』で紹介したGareth Baleの移籍契約書では、移籍金が当時のレートでは「£8599万8197=€1億75万9417.80」となっていた。
●€1億500万というPogbaの移籍金は、ユーロ計算では既に世界新記録だったが、ポンド計算では、「Brexit」ショックが無ければ世界新記録にならなかった。


通貨ポンドの下落によって、フットボールに及ぶ影響

●ユーロをはじめ、他通貨との為替レートがすべての国際移籍の他、スポンサー契約やテレビ放映権契約などにも影響を及ぼす。

●移籍金がユーロで定まった場合、プレミア勢にとって実質値段が上がってしまう。過去の移籍の未払い分(分割払いの場合)にも影響が及ぶ。

●但し、一部のビッグクラブは外貨準備を持つ。全てのクラブではないし、全てのニーズをカバーできないかもしれないが、ある程度は力になる。

●また、スポンサー契約がユーロなど他通貨で定まった場合、ポンド安のおかげでプレミア勢がむしろ得することもある。(例えば、クラブがスポンサーから€1000万を支払われる場合、ポンドに戻すと予想されていた£700万ではなく、£800万になったりする。)

●EU国籍の外国人選手がポンドで報酬が定まった場合、不満を抱くだろう。又、これから加入する選手は、ポンドの価値が安い為、より高い報酬を求めるだろう。

●しかし、プレミアリーグでも、契約で報酬がユーロで定まった外国人選手もいる。その選手たちはポンド計算では昇給になるので、少なくとも短期的には喜ぶだろう。


イギリスはまだEUから離脱していないが、以上はすべて、既に起きている現象である。
さて、実際に離脱する場合、どのような影響が予想されるだろうか?


大話題になるのは「労働者の自由移動」

●ベンは日本に住んだり働いたりするには、就労ビザが必要である。現在は3年更新であり、詳細が「在留カード」に書いてある。


●しかし、ベンのパスポートには「EUROPEAN UNION」が書いてある。今のところでは、イギリス国籍を持つ人は、イギリスだけではなく、EU加盟国28ヶ国で自由に移動したり、仕事したりする権利がある。

●EU内では、就労ビザなど必要がない!

●実は、これはEUだけではなく、欧州経済領域(EEA)の全31ヶ国にも当てはまる。アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインの3ヶ国はEUに加盟していないが、欧州自由貿易連合には加盟している。

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●この制度により、EU国籍を持つ外国人選手がこれまで自由にイギリスでプレーすることができている。


●今のところでは、就労ビザやワークパーミットが必要ではない。

●しかし、イギリスがEUから離脱する場合、この自由が基本的になくなるだろう。

●つまり、フランスやベルギーなど、EU国籍の外国人選手にもワークパーミットが必要となってくる。


「ワークパーミット制度」をEU国籍の選手にも当てはめると...

●イングランドのFAが2015/16シーズンから、ワークパーミット制度を更新した。


●以前と同じく、代表チームの出場歴によってワークパーミットが下りるか下りない。具体的に、過去24ヶ月の出場率(パーセンテージ)によって決まる。

●しかし、その代表チームのFIFAランキングによって、下りる為の条件が変わるようになった。実は以前より厳しくなったわけだ。

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●なお、選手が21歳以下の場合、過去12ヶ月の期間で計算する。


●もしこのルールがEU国籍を持つ外国人選手にも当てはまった場合、2015/16に移籍したフランス人選手のAnthony Martial、Morgan Schneiderlin、Yohan Cabaye、N'Golo Kantéは代表戦出場数が不足するため、ワークパーミットが下りないという結果になったはずだ。

●だから、イギリスがEUを離脱した後、ワークパーミット制度が当てはまるようになる為、このようなクラスの選手を取ることが困難になるわけだ。

●なお、離脱する前からイギリスでプレーしていた選手にとっては、どうなるかが全く不明だ。

●厳しくすれば、あまり代表戦に出られていない選手は強制的に放出されてしまう可能性もあり、又、新たに「外国人枠」を設ける可能性もある。

●一方、「祖父条項」で離脱前から契約していた選手は対象外になる可能性もある。


●なお、海外でプレーするイギリス人選手は確かに少ないが、もちろんこのようなルールはそのイギリス人選手たちにも当てはまる。

●例えば、Gareth Baleはスペインでプレーするために就労ビザが必要となってくる。

●しかし、スペインでは「EU外国籍枠3人」があり、Baleは「EU外」になってしまう。現在、Danilo、Casemiro、James Rodriguezという3人が居るので、4人になってしまう。


「16歳・17歳の国際移籍」について例外的扱いがなくなる

●FIFAは基本的に18歳未満の選手について、国際移籍を禁止する。
●しかし、これはEUの「労働者の自由移動」に反する為、例外的扱いとして、EU内では16歳未満という年齢に設定している。
●つまり、EU内では、16歳と17歳の選手が海外クラブに移籍することができる。

プレミアリーグではこのような「青田買い」のケースが非常に多い
●Cesc Fabregas(Barcelona→Arsenal)、Nathan Ake(Feyenoord→Chelsea)、
Paul Pogba(Le Havre→Manchester United)、Timothy Fosu-Mensah(Ajax→Manchester United)は皆、16歳のときからイングランドにやってきた。
●実は昨シーズン、プレミアリーグクラブのU18チームでプレーした、EU国籍の外国人選手が全部で70人を超えた。

これはクラブにとって、「青田買い」が非常にローリスク・ハイリターンのことである。
●有望な16歳選手を海外クラブから取るには、非常に安いお金で済むわけだ。
●だから、たくさん取った中で、1人か2人しかトップチームに上がらなくても、簡単に元が取れる。
●また、トップチームに上がらなくても、まずローンで出して注目を集めて、最終的に数百万ポンドで他クラブに売ることで、大きな利益が期待できる。
(特に多くの選手をローンで出すチェルシーがこのようなビジネスモデルで利益を期待していると見られている。)
●しかし、18歳まで待つ必要があれば、安いお金で済まなくなる。
例えば、18歳のRenato Sanchesがまず€3500万、インセンティブを含めて最大€8000万でバイエルンに移籍した。
●今後、イギリスがEUを離脱した場合、例え16歳のときにRenato Sanchesのような選手を発見しても、18歳になるまでイギリスのクラブが取れなくなる。


この特別扱いを失った場合、二次的影響も予想できる

●クラブと、クラブを守るプレミアリーグ側にとっては、非常に頼もしくないことである。


●一方、代表チームを優先するFAにとっては、有り難いことになるかもしれない。

●16歳から外国人選手との競争が激しい為、イギリス人選手にとって出場機会が奪われているという。だから、18歳未満の海外移籍が不可能になれば、イギリス人選手にとって出場機会が増えるはずだ。

●しかし、そうなると「ホームグロウン枠」にも大きな影響が出る。各クラブは登録選手25人のうち、最低8人が「自国育ち=ホームグロウン」でないとダメだが、18歳未満で取ったEU国籍の外国人選手も「ホームグロウン」の条件を満たすことが多い。

●従って、16歳・17歳の外国人選手を取れなくなった場合、この「ホームグロウン枠」をEU国籍の外国人選手で埋めることもできなくなる。イギリス国籍の選手で埋めるしかない。

●その結果として、イギリス人選手について移籍金が更に高騰してしまう恐れがある。

France Football紙にて「Brexit」を嘆く、Arsene Wenger監督

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●"But, in my opinion, it is overwhelmingly in the long-term that there are questions to be answered. The way in which England will leave the European Union will dictate the future of the Premier League.
「私の意見では、主に長期的な問題に関して、まだ答えが得られていない質問が多い。イギリスがどのようにEUを離脱するかによって、プレミアリーグの将来が左右されるだろう。」

●"If the league becomes less attractive, the broadcasters will offer less money for the rights, club revenues will decrease and the Premier League will suffer the consequences. There lies the problem.
「リーグの魅力が落ちてしまうと、放映権料も落ち、クラブの収入も落ち、プレミアリーグのレベルも落ちるだろう。そこが心配だ。」


オチ:「どのように離脱するか」ってどういうことなの?

●これまで、一々「イギリスがEUを離脱した場合」という言い方をしてきたが、それは、国民投票があんな結果になったからといって、必ずしも離脱する必要があるわけではないからだ。


●この国民投票の結果で何かが正式に決まるわけではなく、又、何かを決める義務があるわけでもない。今回の国民投票はあくまでも「アドバイス」程度だった。イギリス政府はその結果を無視したければ、無視することもできる!

●これからどうなるかは、本当は、誰も分からないのだ!!

●イギリス政府は与野党ともに「残留派」が圧倒的に過半数で、離脱を求めていない。むしろ、離脱により景気悪化を恐れている。

●恐らく、3つの可能性がある。

可能性1:完全にEUを離脱する

●その場合、上記全ての「影響」が出る可能性が高い。
●しかし、政治家はそれを求めていないので、「完全離脱」という可能性が低いだろう。

可能性2:国民投票の結果を無視し、EUに残留する

●その場合、上記全ての「影響」が基本的に出なくなる。
●EU離脱の手続きを正式にはじめてから2年後、正式に離脱することになるが、正式に手続きをはじめるタイミングが全く決まっていないし、始める義務すらないので、皆が忘れてしまうまでずっと後回しにすることもできる。

●しかし、そうすると「離脱」に投票した有権者の52%は怒るだろう。

可能性3:どちらも離脱を求めないイギリス政府とEUが離脱を交渉し、EEA残留へ

●つまり、EUからは離脱するが、ノルウェーやアイスランドと同じようにEEAには残留し、EUと自由貿易協定を結ぶ。
●そうすると、「ちゃんと離脱したよ」と国民に言えるが、EUとの自由貿易が変わらない為、景気悪化を避けることが出来る。

●その結果として、EU加盟国ではなくなるので、EU法やEU方針を決める際、イギリスは何の影響も持たなくなる一方、EEA加盟国として、EUのルールに従う必要はある

●その一つは「労働者の自由移動」なので、移民の事情も一切変わらず、フットボールへの影響も殆どでなくなる。

●馬鹿な妥協にはなるが、ある意味では一番賢い妥協かもしれない...

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