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「第5キーパー」から「プレミア昇格キーパー」へ駆け上がった守護神の笑顔と涙。杉浦凛乃助が重ねてきた努力の価値 高円宮杯プレミアリーグプレーオフ決勝 RB大宮アルディージャU18×ジュビロ磐田U-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史3年ぶりのプレミア復帰を果たしたジュビロ磐田U-18の守護神、杉浦凛乃助
まったく試合に出ることが叶わなかった時期から、こんな大事な決戦でスタメンを任されるまでに駆け上がった立ち位置。諦めないで、良かった。頑張ってきて、良かった。みんなと一緒に喜んでいたら、スタンドにいる人たちの笑顔を見たら、いつの間にか次から次へと涙があふれてくる。
「自分は試合に出られない時期が長かったので、その悔しい時期を乗り越えて、腐らずやってこれて良かったなと思います。このみんなで、特に3年生と一緒に勝てたことが一番嬉しいですね。凄く幸せな気持ちでいっぱいです」
笑顔と涙の入り混じった表情から、そんな言葉が零れ落ちる。高円宮杯プレミアリーグプレーオフ決勝。RB大宮アルディージャU18を5-1で下し、3年ぶりのプレミア復帰を決めたジュビロ磐田U-18の守護神。杉浦凛乃助の脳裏には、ここまでたどってきたこの1年のさまざまな思い出が、ゆっくりとフラッシュバックしていた。
アカデミーラストイヤーとなった2025年。強い決意を携えてシーズンを迎えていた杉浦だったが、本人も「3年生の初めは試合に出れなくて、前期はベンチにも入れなかったですし、ツラい時期を過ごしていました」と振り返ったように、チームのGK陣の中での評価は、決して高いものではなかったという。
八田直樹GKコーチは、シーズン当初の杉浦についてこう言及する。「もう“第5キーパー”ぐらいで、スタメン争いの土台にも乗っていなかったですよ。チャンスは与えていたんですけど、同じミスを繰り返していたので、『それは偶然じゃなくて必然だ。もうないぞ』と(安間貴義)監督に言われたところからのスタートでした」
もちろんそんな状況に、心が折れそうになったことも一度や二度ではない。だが、改めて自分の現状を見つめ直しながら、周囲の仲間や家族の優しさに触れていくうちに、少しずつメンタルに変化の兆しが現れる。
「自分だけではなくて、他にも試合に出られていない人もいるわけで、それでも頑張っている仲間の存在も大きかったですし、あとはお父さんやお母さんが日ごろから心のケアというか、自分の想いを聞いてくれたりしたので、そういうところで支えてもらいましたし、やっぱり目指す場所に向けて腐っちゃいけないなと思いました」
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1つのきっかけになったのは、やはりチームメイトの後押しだった。6月22日。Jユースカップ1stラウンド第3節。アウェイで清水エスパルスユースと対峙する一戦に向けて、杉浦は当時の安間貴義監督に試合出場を直訴する。
「周りの選手から『安間さんに自分が出たいと言ったらいいんじゃない?』と言われて、そこで自分が安間さんに想いを伝えたら、その試合に出してもらって、そこで3失点してしまったんですけど、自分的にも手応えがあったんです。そこから試合にだんだん絡めるようになっていって、夏のクラブユースから本格的に試合に出られるようになりました」
八田コーチは起用の理由の一端を、こう教えてくれた。「地道に頑張っていた結果ですね。能力自体は他のキーパーの方が高い部分もありますけど、90分を通してチームに良い影響を与えるのが杉浦だったので、途中からチョイスを変えました」。持ち前の声とアグレッシブなプレーが評価され、夏過ぎから杉浦は正守護神の座を奪い取る。
プレーオフ初戦は大苦戦。一時は札幌大谷高校に2点をリードされたものの、石塚蓮歩と奥田悠真がゴールを重ね、終わってみれば4-3で逆転勝利。「3失点して、『ああ、終わった……』と思ったら、蓮歩や悠真が決めてくれて、もうロッカールームで涙が止まらなかったので、前の選手には感謝しかないですね」。次こそは自分が活躍して、プレミア復帰を勝ち獲ってみせる。背番号21は最後の1試合に向けて、並々ならぬ覚悟を定めていた。
とにかく大きな声を出し続けた。勝てば昇格が決まるプレーオフ決勝。RB大宮U18との試合が幕を開けると、ピッチ上に杉浦のコーチングや仲間を鼓舞する声が響き渡る。「もう高校3年間で、中学生から合わせたら6年間で、みんなとやれる最後の試合だったので、後悔なくやり切ろうと思っていました」。気合十分。絶対に失点は許さない。
2点をリードしていた34分には、ビッグプレーを披露する。磐田U-18は右サイドを崩され、エリア内への侵入を許した相手の左サイドバックにシュートを打たれたが、抜群のタイミングで飛び出した杉浦は、身体全体でボールを弾き返す。
「ああやって身体を張って守っていたのを見ると、ずっと言い続けて良かったなと思いますね。今日も『身体のどこでもいいから当たってくれ』という感じでやっていましたし、それはギャンブルではなくて、狙いを持ってプレーしているように見えました。ボールに行く時も後悔しないようにというか、その1回で勝負は決まりますし、今日はそういう試合だったので、『後悔せんようにプレーしてこい』と言ったら、ああいうプレーができたのも良かったなと思います」(八田コーチ)
「自分はもともと1対1があまり得意ではなかったんですけど、ハチさん(八田コーチ)には日ごろから、『間合いを合わせてしまうと、相手もシュートを打ちやすい』とか、『突っ込んだ方が相手にとっても怖い』とかいろいろ教えてもらってきたので、そのトレーニングを1年間してきたことが今日は出たかなと思います」(杉浦)。まさに守護神の仕事。ゴールにカギを掛け続ける。
84分。RB大宮U18のCK。至近距離から打ち込まれたヘディングに対しても、杉浦は凄まじい反応速度で掻き出すと、ボールはクロスバーの下を叩いて、ピッチ内へ。またもファインセーブでチームの危機を回避する。
ファイナルスコアは5-1。「DF陣と『ゼロで終えよう』と話していた中で、1失点はしてしまいましたけど、最後に勝てて良かったです。自分は試合に出られない時期も、出ている時期もあって、いろいろ思うことがありましたし、やっぱり出ていない人には出ていない人の気持ちがあるので、そういう人たちの想いも持ってプレーできたかなと思います」
「こっちに来ているキーパーは3人で、そこにはベンチとベンチ外の選手もいて、磐田に残っている選手からもLINEが来たりしていて、『絶対に守らないといけないな』『後輩たちをプレミアに行かせてあげたいな』という想いはありました。こうやって最後までピッチに立てて、みんなで勝てたことで、いろいろこみ上げてきて、ほぼこれまでは負けて泣いてばかりだったんですけど、今日は嬉し泣きで涙が止まらなかったです」
みんなと一緒に喜んでいたら、スタンドにいる人たちの笑顔を見たら、いつの間にか次から次へと涙があふれてくる。ただ、“プレミア昇格キーパー”となった杉浦も少しずつ周囲につられて、笑顔を取り戻す。3年ぶりとなるプレミア復帰を手繰り寄せた磐田U-18の選手たちに、最高の歓喜が弾けた。
八田コーチは優しい表情で“教え子”の今後へエールを送る。「僕自身も杉浦や吉岡(幹太)に学ばせてもらったことはたくさんあったので、さらにレベルアップしていきたいと思いますし、2人には次の舞台でも頑張ってほしいなと。でも、まだまだなところはいっぱいあるので(笑)、勘違いせずに次に羽ばたいていってほしいですね」
大学へと進学することになる杉浦は、ここからまた新たな環境で、自身と向き合う4年間を過ごすことになるが、ジュビロのアカデミーで過ごした時間が、必ず自分を支えてくれると確信している。
「大学では1年目から試合に絡めるように頑張って、2年生や3年生ではデンソーのメンバーに選ばれて、4年生になる前にプロを勝ち獲りたいです。もちろんプロになれるならどこでも嬉しいですけど、自分は地元も磐田なので、ジュビロに戻れるのならば戻ってきたいと思います」
シーズン開幕時の“第5キーパー”から、“プレミア昇格キーパー”へと駆け上がった守護神の笑顔と涙。杉浦凛乃助が懸命に続けてきた努力に、その先で掴み取った確かな成果に、最大限の敬意と拍手を。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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