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サッカー フットサル コラム 2025年12月9日

【ハイライト動画あり】いぶきの森に響き渡る神戸賛歌。情熱の指揮官と選手たちが“4度目の正直”で掴んだ笑顔と涙のWEST制覇 高円宮杯プレミアリーグWESTヴィッセル神戸U-18×サガン鳥栖U-18マッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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ヴィッセル神戸U-18は超劇的な逆転勝利でプレミアWEST制覇!

もう試合はほとんど終わりかけていた。優勝の懸かったホームゲームだったが、このまま負ければ首位を明け渡すことになる。だが、アディショナルタイムとして掲示された“10”という数字を見て、クリムゾンレッドの選手たちは再び気持ちを奮い立たせる。ここからはオレたちの時間だ。大丈夫。必ず引っ繰り返せる。

「逆転した時は『まさか』とは思いましたけど、『今年は何回かこういう形で、最後まで諦めずにやってきたよね』ということを、ハーフタイムに話したんです。『まずは1点だ』というところで、本当に選手たちがそこを信じて、やってくれたのかなと思います」(ヴィッセル神戸U-18・安部雄大監督)

プレミアリーグWESTの頂上対決。首位のヴィッセル神戸U-18と、2位のサガン鳥栖U-18が残り2節というタイミングで激突した『天下分け目の決戦』には、脚本家がそのシナリオを書いても却下されてしまうであろう、信じられないドラマが待っていた。

高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ 2025 WEST 第21節(12月7日)

【ハイライト動画】ヴィッセル神戸U-18 vs. サガン鳥栖U-18

神戸U-18は勝点43の首位。鳥栖U-18は勝点41の2位。前者が勝利すればリーグ制覇が決まり、後者が勝利すれば順位が入れ替わる、まさに大一番は「鳥栖さんも負けたら終わりという状況の中で、決して構えたわけでも、受けたわけでもないんですけど、相手の方が少し勢いがありましたね」と神戸U-18を率いる安部雄大監督が話したように、立ち上がりからアウェイチームが主導権を引き寄せる。

鳥栖U-18はこの一戦に、今季のリーグ戦では開幕戦の1試合しか出場していない“隠し玉”をスタメンで起用する。J2でも5得点を記録した背番号10。新川志音が最前線でアグレッシブに動き回り、チームの攻撃を牽引すると、唐突に千両役者の仕事を成し遂げる。

21分。真殿京佑からパスを引き出し、中盤で前を向いた新川は、そのまま強引に前へ運びながら躊躇なく右足一閃。ゴールまで30メートルはある位置から繰り出された軌道は、クロスバーを叩いて、そのままネットへと弾み込む。場内も一瞬静まり返るようなスーペルゴラッソ。これがJリーグでも結果を叩き出してきた18歳の真価か。思わずチームメイトも頭を抱えるような一撃で、鳥栖U-18が1点をリードする。

 

 

 

ビハインドを負った神戸U-18だったが、「1本凄いシュートを決められてしまいましたけど、ボールは持てていたと思います」と中盤アンカーの藤本陸玖が振り返ったように、30分過ぎからはよりポゼッションも高まり、相手陣内へ押し込むシーンも増加。濱崎健斗と瀬口大翔もチャンスメイクに関わり出し、決定機の1つ前までは作るものの、前半はそのまま1-0で推移した。

ハーフタイムに動いたのは安部監督。「やっぱり時間が経つと焦りも出てきますし、井内は前半でイエローカードをもらってしまったので、1人欠けると難しいなという狙いもあって、フレッシュな選手に交代しました」と大西湊太と井内亮太朗に代えて、川端彪英と上野颯太を投入し、改めてアクセルを踏み直す。

60分の決定機は鳥栖U-18。相手のパスをインターセプトした池田季礼は、そのまま左サイドを独走してラストパス。新川が枠へ収めたシュートは、神戸U-18のGK胡云皓がキャッチしたものの、2人で完結させるカウンターに忍ばせた追加点への脅威。

61分の決定機は神戸U-18。川端から短いパスを受けた濱崎は、細かいフェイクでマーカーをずらしながら、一瞬のスキを見逃さず左足でフィニッシュ。鋭い軌道は、しかしクロスバーに弾かれ、ゴールには至らず。さらに63分にも瀬口と濱崎の連携から、途中出場の渡辺隼斗が放ったシュートは、鳥栖U-18の守護神・エジケ唯吹ヴィンセントジュニアがビッグセーブ。どうしても1点が奪えない。

89分。瀬口の横パスから、川端が浮かせたボールを、濱崎がボレーで打ち切ったシュートも、わずかに枠の右へ外れていく。ただ、ここで折れるわけにはいかない。「自分はこの試合は結構チャンスがあって、それを外し続けていたんですけど、最後までチャンスはあると信じていました」(濱崎)

今季のチームを支えてきた寺岡佑真が、相手選手との接触で負傷退場した際に治療の時間を取ったため、アディショナルタイムは10分が掲示された。「いつものアディショナルタイムは4分とか5分が普通だと思うんですけど、10分あったので、とにかく1点返してくれることは信じていました」(安部監督)。そして、ここから『いぶきの森劇場』が幕を開ける。

90+5分。西岡鷹佑がヘディングで競り勝つと、瀬口は左サイドでなんと4人を切り裂き、中央へグラウンダークロス。こぼれ球を拾った濱崎は「最初はファーに蹴ろうとしたんですけど、ニアに蹴ったら股下が空くかなと思って」、右足でディフェンダーの股を通し、ボールをゴールへと滑り込ませる。1-1。同点。場内沸騰。だが、これだけで“劇場”は終わらなかった。

 

90+11分。川端が前向きにボールを奪い、左サイドへ展開。瀬口がダイレクトで流し込んだパスは、10番の足元へ届く。正確なトラップで収める。1つ左へ持ち出す。「シュートを打たないので、『おい!打てよ!打てよ!』と思いながら、もう健斗が打つ瞬間には身体が動いていましたね」(安部監督)。得意の左足で蹴り込んだボールは、ゴールネットへ到達する。

「最高でしたね。もう人生で1回あるかないかぐらいのゴールなので、本当に幸せです」(濱崎)。逆転弾が記録された直後。主審のタイムアップを告げるホイッスルが、いぶきの森の青空へ吸い込まれる。弾けるように飛び出したベンチメンバー。ピッチに崩れ落ちる選手たち。みんなが、笑っている。みんなが、泣いている。

 

 

 

 

「みんなと抱き合っていたら自然とこれまでの想いとか、先輩たちから引き継いだ想いも、全部がこみ上げてきて、涙が止まらなかったですね」(藤本)「サポーターの方や保護者の方の顔を見たら、もう感情がこみ上げてきました。今までの先輩方の想いも背負っていたので、本当に良かったです」(西川亜郁)「1年前からこの優勝を目標にやってきて、それが本当に叶うとは思っていなかったので、ホンマにこれ以上嬉しいことはないなと思います」(瀬口)

大願成就。3年続けてあと一歩で涙を飲んできた神戸U-18が、2017年以来となる8年ぶりのリーグ制覇を、超劇的な100分間の末に手繰り寄せる結果となった。

「4度目の正直で安部さんを優勝監督にさせられて本当に良かったです」と西川が話せば、「3年連続2位で、自分の中でもそれが凄く心残りでしたけど、安部さんが一番それは思っているはずなので、優勝できて嬉しいです」と口にしたのは瀬口。とりわけ3年生にとっては、U-18での3年間にわたって指導を仰いできた安部監督とタイトルを勝ち獲ったことに、大きな意味があったことは間違いない。

2022年に前任の野田知監督(現・サンフレッチェ広島F.Cユース監督)からバトンを引き継ぎ、毎年のように好チームを作り上げながら、就任初年度は得失点差で、2年目は勝点1差で優勝を逃し、昨季も2位でフィニッシュ。「長かったですね。4年ですか。今日がプレミアは87試合目でようやく、です。しんどかったですよ。しんどかったし、苦しかったですね」という言葉は偽りのない本心だろう。

高円宮杯プレミアリーグ特集サイト

瀬口も指揮官への感謝の想いを隠さない。「自分は1年生の時にAチームに絡めない悔しい時期もあって、そこから自分が成長したこともあるんですけど、安部さんが試合に使ってくれたことが大きかったです。2年生の時はボールを取られた後に歩いていることが多くて、『切り替えろ!』というような厳しい声も受けてきたんですけど、3年になってからはあまり言われていないので、そこは継続してやってこれた成果かなと思います」

今季も後半戦はなかなか結果が付いてこない時期もあり、第15節から第19節までは連敗も喫し、5試合でわずかに1勝。その間に鳥栖U-18へ首位を明け渡すこともあった。ただ、安部監督も迷いながら、揺れながら、それでもチームが貫いてきた軸はブラさない。

「自分たちは敵陣でボールを保持して、最後に崩し切るというところを目指してきたんですけど、シーズンの中でやってきたことを疑ったり、自分自身を疑うこともありましたし、この1年間でもいろいろな感情がありました。でも、やっぱり最後はそれがブレてはいけないというところで、相手を自陣に閉じ込めて、自分たちで崩すぞというところはしっかりできたのかなと思っています」

激闘の末に優勝を引き寄せた試合後。サポーターと保護者の前で、おなじみの『神戸賛歌』を歌う選手の列の中には、珍しく安部監督の姿があった。「初めて僕もサポーターの前で一緒に歌いました。ホーム最終戦ですし、サポーターや保護者の方々には感謝しかないので、本当に良かったです」。選手たちと肩を組むその笑顔が、メチャメチャ優しく見えた。

 

 

来週のプレミア最終節が終わると、もう1週間後には高校年代日本一を決めるプレミアリーグファイナルが待っている。神戸U-18は2度のWEST制覇こそ経験しているものの、どちらもファイナルでEAST王者に敗れているため、まだ“統一王座”に就いたことは一度もない。相手はクラブユース選手権、Jユースカップに続く三冠を目指している鹿島アントラーズユース。まさに最強の“ラスボス”との対峙で、雌雄を決することとなる。

「鹿島アントラーズにすべて獲られていては、僕たちもやっていけないので、絶対にファイナルでは勝ちたいです。鹿島はクラブユースもJユースカップも獲っているので、負けられない気持ちでいっぱいですね」(瀬口)

埼玉スタジアム2002を舞台にした最後の1試合でも、自分たちのやるべきことは変わらない。初のプレミア日本一へ。神戸U-18は高校年代最高峰のレベルを誇るこのリーグの頂上へ、堂々と、逞しく、駆け上がる。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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