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クラブ理念を体現する地元出身のサイドバック。ファジアーノ岡山・千田遼はチームの勝利のためにピッチを全速力で駆け抜ける 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史ファジアーノ岡山U-18・千田遼
地元出身の選手がこのクラブで活躍することの意味は、十分すぎるほどにわかっている。かつてはスタンドから憧れの目で見ていた、プロサッカー選手に自分がなるのであれば、今度はその使命をしっかりと背負い、子どもたちに夢を与えられるような存在に必ず成長してみせる。
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配信期間 : 2025年11月24日午前10:50 ~
「ファジアーノのクラブ理念は『子どもたちに夢を』というもので、自分も小さいころからスタジアムに行って見ていたプロの選手に憧れていたので、岡山の人たちを、岡山出身の自分のプレーで盛り上げられたらなと思っています」
ファジアーノ岡山U-18で攻守に躍動する、岡山で生まれ育った右サイドバック。千田遼はその背中を見つめるアカデミーの後輩たちの輝く希望になるべく、J1でも確かな存在感を放ち始めているチームとともに、とにかく行けるところまで、全速力で駆け抜ける。
今シーズンのファジアーノのトップチーム始動直後。あるリリースがクラブから発表された。それはU-18所属の千田と末宗寛士郎が2種登録されたというもの。それ自体は決して珍しいものではないが、そのリリースに添えられていた文言が一際目を引いた。
「両選手は、すでに1月9日の初練習からトップチームでの活動に参加しており、シーズン開始から常時トップチームの活動に参加するアカデミー選手は、クラブとして初めてとなります」
昨年末のJ1昇格プレーオフを逞しく勝ち抜き、初めて日本のトップディビジョンで戦う権利を手にした記念すべきシーズンに、実施された新たな試み。彼ら2人の実力が評価されたことは言うまでもない。ただ、これもクラブが新たなフェーズへと足を踏み入れることの、1つの証明のようなトピックスだと言えるだろう。
トップのトレーニングに参加して1か月ほど経ったタイミングで、千田は自身の手応えをこのように語っていた。「ユースとは強度と質も違いますし、プレーのスピードも速くて、最初はなかなか付いていけなかったんですけど、回数を重ねるごとに少しずつは自分のプレーは出せているので、そこはもっと日常のトレーニングからこだわって、常に試合をイメージしてやっていきたいなと思っています」
とりわけマッチアップしたストライカーには、大きな衝撃を受けたという。「ルカオ選手はフィジカルが凄かったですね。もう背負われたらボールも見えないぐらいで(笑)、経験したことのない感覚でした。でも、ああいう選手と対戦して、勝っていかないと先には行けないと思うので、トレーニングから一緒にできることを自分の成長に生かしたいなと思っています」。初々しさと頼もしさが共存するような言葉に、自身ののびしろに対する期待が滲んだことも強く記憶に残っている。
それから8か月近い時間が経過した。2月にはプロ契約も締結し、トップチーム昇格を勝ち獲った千田は、基本的にはトップでトレーニングを重ねながら、週末はプレミアリーグで実戦経験を積み上げていく中で、ピッチ上で新たに生まれた変化をはっきりと実感しているようだ。
「去年と比べて、今年は自分の中で勝負どころというか、時間帯的にも、スコア的にも、『ここはチャンスだな』と感じる部分が凄くありますね。『相手はちょっと疲れているな』とかも、去年と比べて感じられるようになってきましたし、そこを感じた時のスプリントという部分は、自分の中で去年より出せていると思います」
「でも、それをはっきりとした結果に繋げるのが一番だと思うので、クロスはもちろん、シュートもそうですし、もっと回数を増やして、もっとゴールやアシストをしていきたいなと。そこの意識の変化は去年とは違うかなと感じています」
試合の流れを読み、そのタイミングでの最適解を導き出し、チームにとって効果的なプレーを繰り出していく。周囲から見られるハードルが上がっていることは百も承知。そのうえで、より違いを発揮していくことが、プロ選手としての意地とプライドだ。
千田は岡山市の出身。トップチームがリーグ戦を戦うJFE晴れの国スタジアムには、幼いころから足を運んでいたそうだ。「ファジの試合は小学校低学年ぐらいからお父さんにスタジアムに連れて行ってもらって、見ていました。当時はイ・ヨンジェ選手がカッコ良かったのは覚えています」
ファジアーノにはジュニアユース年代に当たるU-15から在籍。今季もプレミアリーグの試合にアカデミーの後輩たちが応援に訪れることも少なくないが、その環境の中でU-18の選手としてプレーすることの意義も、明確に理解している。
「自分たちがジュニアユースの時に、ユースのカテゴリーはプリンスだったんですけど、試合を見に行った時には凄くカッコよかったですし、素直に憧れがあったので、今はプレミアリーグで戦っているのであれば、もっとカッコいい姿を自分たちが見せないといけないなと」
「ファジはアカデミー全体も強く繋がっていて、ジュニアの選手がジュニアユースの選手に憧れて、ジュニアユースの選手がユースの選手に憧れて、そこからトップへと繋がっていくと思うので、そういう意識は自分の心の中にもずっとあるのかなと思います」
もうU-18の仲間たちと一緒にプレーできる時間にも、終わりが見えてきた。だからこそ、今を大事にしたい。みんなで1つでも多く勝ちたい。残されたプレミアの試合に向けて、千田はこんな意気込みを語ってくれた。
「良い意味であまり順位は気にせずに、残り5試合でどれだけ自分たちが成長できるか、どれだけ結果を残せるかにこだわるしかないと思うので、1つ1つの試合をみんなで想いを共有しながら、勝利を掴みに行くことだけを考えたいと思います」
クラブが掲げる『子どもたちに夢を』という理念を体現する、ハイクオリティなエンジンを搭載した岡山育ちの確かな才能。千田遼はこのチームに自分がもたらせるものを強く意識しながら、勝利の歓喜を手繰り寄せるために、とにかく行けるところまで、全速力で駆け抜ける。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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