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真夏の悔恨は必ず大きな成長の糧になる。大津高校・福島京次が抱えるのは進化するブルー軍団の新たな歴史を切り拓く覚悟 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史大津高校・福島京次
福島の地で味わった真夏の悔恨は、必ず自分を一回りも、二回りも、大きくしてくれる糧になる。いや、糧にしなくてはならない。このチームを牽引する誇りを、このチームの腕章を巻く重みを、改めて噛み締めながら、残された高校生活はもう全部笑顔で彩ってやる。
「目標にしていた日本一は去年の先輩たちがプレミアで獲ってくれましたけど、自分たちもそこに向かってやっていかないといけないですし、トーナメントの日本一はまだ大津が獲っていないので、そこは自分たちが歴史を変えるんだという強い意識を持って取り組んでいきたいです」
冬の日本一を明確に見据えた、大津高校を束ねる背番号10のキャプテン。福島京次はあと一歩で届かなかった、全国の頂へとたどり着くための最後のピースを手繰り寄せるべく、再び目の前の日常を真摯に、全力で、積み重ねていく。
2年生だった昨シーズンは、セカンドチームが戦うプリンスリーグ九州が主戦場だったが、前期を終えた時点でわずかに2勝しか挙げられず、順位は最下位。「先輩方が大津の歴史を変えて、セカンドチームをプリンスに残してくれていた財産があったので、『ここで落としちゃいけないな』というプレッシャーもありましたね」と話した福島は、後期からチームのキャプテンに指名される。
任された大役。重圧がかからないはずもないが、そこで強力なサポートをしてくれたのが1つ上の先輩たちだ。「3年生のみなさんもいろいろな形で協力してくれて、自分がのびのびできるようにカバーしてくれたので、そこには本当に感謝しかないですね」。“後輩のキャプテン”を盛り上げるべく、陰になり日向になり、グループにポジティブな空気感をもたらしてくれる。
サッカー面で小さくないパワーを与えてくれたのも、1つ上の先輩たちだ。「練習の中の“青白戦”ではプレミアで戦っている選手たちを何とか止めようとやっていたので、それこそプリンスでも畑(拓海)さんや(嶋本)悠大さんとやるぐらいの労力は使わずにできますし、2人に付いていくことで、特に守備の部分は鍛えられたかなと思います」
大津は青いユニフォームで公式戦を戦うため、“青白戦”というのはほかのチームでいうところの“紅白戦”と同義。結果的にプレミアリーグWESTを制し、ファイナルにも勝って日本一まで駆け上がったAチームの中でも、圧倒的な実力を有していた畑拓海(大阪体育大)と嶋本悠大(清水エスパルス)のドイスボランチと練習からマッチアップを繰り返し、高い基準を突き付けられたことが、福島の成長をより促してくれたことは言うまでもない。
息を吹き返したセカンドチームは、後期のプリンスリーグで5勝1分け3敗と好結果を残し、きっちりと1部残留に成功。「夏以降は新しい選手も増えて、戦い方もどんどん変わっていきましたし、プレミアのメンバーと日々練習していく中でレベルアップしていけたのが良かったかなと思っていますね。本当にみんなのおかげです」(福島)。彼らは個人としても、グループとしても、かけがえのない経験値を積み上げる。
迎えた2025年。今度はAチームのキャプテンに就いた福島を中心に、プレミア連覇も含めた高校年代三冠を掲げた大津は、リーグ戦でも序盤こそ連敗を喫するなど、やや苦しい時間も過ごしながら、前半戦は5勝1分け5敗とイーブンの数字。尻上がりに総合力を高めながら、“一冠目”となるインターハイに向かっていく。
その勝ち上がり方は驚異的だった。初戦の丸岡高校戦に4-1で勝利を収めると、2回戦でも県予選で青森山田高校を倒し、注目を集めていた八戸学院野辺地西高校に3-0で完勝。さらに3回戦では前橋育英高校を撃破し、意気上がる高知中央高校を7-0というスコアで一蹴。福島も3試合で2得点1アシストと、確かな数字も残してみせる。
圧巻だったのは、プレミア勢同士の対決となった準々決勝の昌平高校戦だ。守備陣が高校年代でも屈指の攻撃力を誇る難敵を無失点に抑えれば、攻撃陣も山下虎太郎がハットトリックを達成し、大量5ゴールを浴びせてしまう。4試合を終えて19得点1失点という凄まじい数字を叩き出した大津は、堂々とベスト4へと進出する。
準決勝の相手は流通経済大柏高校。昨年の高校選手権3回戦で煮え湯を飲まされた因縁の相手であり、福島にとっては絶対にリベンジを果たしたい相手でもあった。「選手権の最後は自分に当たって、ラインの外にボールが出てしまって、それで負けたので、このチームが立ち上がった時に、自分の中でも流経へのリベンジは考えてきました」。強い覚悟を定めて、決戦のピッチへ向かう。
だが、試合が始まると思ったように身体が動かない。持ち前の流れるようなパスワークは鳴りを潜め、攻撃の形も作り切れず。福島はまだスコアレスの状況だった後半途中で交代を命じられ、残りの時間をベンチから見守ることになる。
「本当に『耐えてくれ』という感じでした。とにかく勝ちたいという想いだけだったので、とりあえず『耐えてくれ』としか思えなかったです」。チームは9人目までもつれ込んだPK戦で競り勝ち、決勝進出の権利を獲得。キャプテンは仲間たちが喜びに沸く中で、もう一度気持ちを引き締め直していた。
「個人としては、今日はチームに迷惑をかけたというか、チームのプラスになるようなプレーができていなかったので、明日の決勝では自分の長所をどんどん出していって、今度こそチームの勝利に貢献したいです」
神村学園高校と激突したファイナル。福島はアグレッシブなプレーを繰り返し、勝利への意欲を前面に打ち出していく。チームも49分に先制すると、丁寧に時計の針を進め、1点のリードを保ったままで後半のアディショナルタイムへ。ところが、土壇場も土壇場の70+6分に同点ゴールを献上。スコアを振り出しに引き戻されてしまう。
延長戦でもお互いに1点ずつを奪い合い、優勝旗の行方は準決勝に続いてPK戦へと委ねられることに。3-2と1点をリードした状況で、4人目のキッカーとして登場した福島のシュートは、相手GKのセーブに遭う。8人目も失敗した大津は、神村学園の歓喜を眺めることに。悲願のインターハイ制覇は、目前でするりとその手から零れ落ちた。
「今日はPKもそうですし、自分の力不足で終わってしまって、本当に悔しかったです。選手権でこの借りを返すためにも、しっかり全国大会に出て、もう一回、『強い大津』を見せたいです」
1人だけで戦っているわけでないことは百も承知。頼れるチームメイトたちの存在は力強く感じている。だが、この背番号を、このキャプテンという役割を託された時から、最終的な勝敗の責任は自分が負うと、もう決めている。
真夏の悔恨は、必ず自分を一回りも、二回りも、大きくしてくれる糧になる。いや、糧にしなくてはならない。進化するブルー軍団の絶対的なリーダー。福島京次は今度こそ日本一のカップを掲げるその瞬間を思い描き、ひたすらに努力を重ね、前へ、前へと突き進む。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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