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楽しみにしていたマッチアップの実現。佃颯太と山口豪太が繰り広げた親友でライバルの「10番対決」 高円宮杯プレミアリーグEAST 横浜FCユース×昌平高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史「10番対決」に臨んだ横浜FCユース・佃颯太と昌平高校・山口豪太
昨年10月のこと。年代別代表にも選出されている横浜FCユースの佃颯太に、意識する同世代の選手について聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
「ずっとライバル視しているのは昌平の山口豪太です。知り合ったのは中3か高1だったんですけど、そこからは連絡も取り合うようになって、代表では右サイドで一緒に組んだんですけど、凄くやりやすかったですね。結構仲は良いので、絶対アイツだけには負けたくないです(笑)。対戦する時はマッチアップすることが多いですし、あっちも『アイツだけには負けない』と思っているはずなので。そこはお互いに絶対やらせないよという気持ちでやっています」
2人が初めて代表で一緒になったのは、高校に進学する直前だった中学校3年生の春休み。フランスで開催された『モンテギュー国際大会』に参加するU-16日本代表に招集を受け、ともに日の丸の付いたユニフォームを纏って、海外のピッチに立つ経験を共有する。
以降は、たびたび同じタイミングで年代別代表の活動に参加することも多く、いつしかよく話す間柄に。高校1年時は横浜FCユースがプレミアリーグWESTに組み込まれていたため、直接対決の機会はなかったが、改めて両チームがEASTに顔を揃えた昨季は、2度にわたって対戦するなど、彼らはさまざまな形で切磋琢磨してきた。
今年4月のこと。プレミアEAST第3節・浦和レッズユース戦の試合後。山口にも佃について尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。
「マッチアップする相手が友だちということはよくあるんですけど、佃とは結構仲が良くて、連絡を取ったりしていますし、対戦する時はいつもバチバチなので、マッチアップするなら佃にだけは負けたくない想いはあります。でも、開幕戦で10番を付けていて、ちょっとビックリしました(笑)」
今季のスケジュールが発表された時から、この日をはっきりと意識してきた。6月21日。神奈川県立保土ケ谷公園サッカー場。横浜FCユースの10番を背負う佃と、昌平の10番を託された山口は、ピッチ上で再会を果たすことになる。
試合前から連絡を取り合っていたようだが、その内容は双方の言葉が過不足なく一致する。「主に食事のLINEしかしていなかったですね(笑)。『終わったらどこ行く?』みたいな話が中心で、あとは他愛もない話で盛り上がった感じでした」(佃)「1週間ぐらい前から連絡を取っていて、『終わったらゴハンに行こう』という話をしました(笑)」(山口)。どちらも「オレが勝って、気持ち良く食事に行ってやる」と意気込んでいたことは言うまでもない。
佃は左サイドバック。山口は右サイドハーフ。同じサイドに立つからには、マッチアップは避けられない。「佃とのマッチアップが一番楽しみで、アイツも攻撃が得意なのでやらせたくないですし、攻撃ではドリブルで抜いてやろうという想いはありました」(山口)「豪太とは試合になったらいつもバチバチですし、『絶対にアイツだけにはやらせたくない』という想いでした」(佃)。覚悟は決まった。主審のホイッスルが鳴り、『10番対決』の幕が上がる。
「いやあ、キレがエグいですね」。佃は相手の10番について、そう言及する。ボールが入ると、山口の選択肢の最優先はドリブル勝負。マーカーとの間合いを測り、縦にも持ち出せ、中にも切れ込める一瞬の切れ味は、間違いなくプレミア屈指、世代屈指の代物だ。
「佃は全部抜きたかったですけど、対峙した時は抜ける時もありましたし、止められる時もありましたね」。山口は相手の10番について、そう振り返る。攻撃力に特徴を持つ佃だが、もちろん守備の対応もプレミアレベル。そう簡単に突破を許すはずもない。
ふとプレーが止まった瞬間。山口が佃に声を掛ける。「『オマエ、アレはファウルだろ』みたいに言われたので、『いやいや、足引っかかってないよ』みたいな感じで言い返したら、ちょっとお互い言い合いみたいな感じになりました(笑)」と明かしたのは佃。このあたりにも2人の関係性が垣間見える。
横浜FCユースが1点をリードして迎えた最終盤の88分。佃もプレスに行った流れから、山口がピッチに倒れ、FKを獲得する。「一応自分のファウルではなくて、僕の後ろの選手がプッシングを取られたんですけど、『もうコイツだけにはやらせたくない』と思って、自分もブロックに入っていました」(佃)
同点に追い付く絶好のチャンス。短い助走から山口が左足を振り抜くも、軌道は枠の左へ逸れていく。「自分がもらったフリーキックだったので、決めたかったですね。シュートも今日は当たっていたので、ちょっと外から巻きたかったんですけど、ミスキックになってしまった感じでした」(山口)
ファイナルスコアは1-0。横浜FCユースが前半に挙げた1点を守り切る格好で、今季初の連勝を達成。実は昨シーズンの対戦も横浜FCユースの2戦2勝だったため、昌平にとっては悔しい同一カード3連敗となった。
試合には勝利を収めたものの、佃は個人のパフォーマンスという意味では、納得がいっていなかった。「豪太にはゴールを奪われていないですし、結果だけ見たら自分の勝ちみたいに思うかもしれないですけど、自分としては1対1でやられた部分も多かったので、改善して、この悔しい想いを後期にぶつけたいです」
一方の山口は、個人の出来とチームのパフォーマンスについて、次のように語っている。「佃にはバチバチに行って、突破できるシーンもあったんですけど、結果的に負けてしまったので、後期は絶対横浜FCを倒したいです」。やはり彼らにはバチバチの関係性が良く似合う。
2人にとって残されているプレミアでの対戦は、もうあとわずか1試合だけ。10月4日。昌平高校グラウンド。もっと成長した姿で再会するため、どちらもここからのさらなる成長を誓っていることは、想像に難くない。
「豪太は常にライバルだと思っていますし、昨日もいつものプレミアより緊張して眠れないぐらい自分も高まってしまって、そういう相手がいるのが自分の努力の根源になっているのかなというぐらい、良いライバル関係になっていますね。それをこれからも続けていきたいですし、もう豪太とプレミアでやれるのはあと1試合しかないので、必ず連勝できるように、潰しに行きたいなと思います」(佃)
横浜FCユースの10番と、昌平の10番。佃颯太と山口豪太がお互いに認め合い、競い合いながら、思い描いた未来へたどり着こうと、まっすぐ、堂々と突き進んでいく希望にあふれた冒険は、まだまだ始まったばっかりだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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