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勝利を希求する1週間の模索と充実。アビスパ福岡U-18が再び歩み始めた「楽しいいばらの道」 高円宮杯プレミアリーグWEST アビスパ福岡U-18×名古屋グランパスU-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
「もうそれこそ、その週の最初から全然モチベーションが違いますね。1試合に込める想いも強いですし、個人としてもどれぐらいやれるのかという楽しみがありますし、プレミアは自分が成長できる場だと思います」(樺島勇波)「プレミアでは自分より上手い選手とやった時の勝敗がハッキリするところがあって、自分も負けたら『もっと上手くならないとな』と思いますし、勝てたら『お、やれるな』と思えるので、相手の強度が高くなればなるほど、試合に向かうモチベーションも高くなっています」(藤川虎三)
6年ぶりに帰ってきたプレミアリーグは、やはり実に刺激的だ。このハイレベルなステージで、ハイレベルな相手と刃を交えていけば、個人もチームも絶対に成長できることは、十分に感じている。ゆえに、ここから求められるのは明確な結果。1週間の努力の成果を勝利に繋げ、みんなでその歓喜を分かち合えれば、それ以上に最高なことはない。12月まで続くいばらの道を、もうアビスパ福岡U-18の選手たちは一歩ずつ、前へと進み始めている。
「内容的に勝ってもおかしくないと言われればそうなんですけど、最低でも勝ち点1が獲れなくてはいけない試合だったかなと思います」。チームを率いる久永辰徳監督は、悔しげな表情で終わったばかりの90分間を振り返る。近年のプレミアでは常に上位争いに顔を出している名古屋グランパスU-18を相手に戦った、今季のホーム開幕戦。福岡U-18は必勝を期してゲームに入る。
立ち上がりは上々だった。8分。前田陽輝のFKから、最後はこぼれ球を中村環太がプッシュ。「練習から狙っていた形」と明かす3年生ボランチの先制点で、まずはホームチームが1点をリードしたものの、少しずつ相手にゲームリズムを握られると、24分にはFKの流れから同点弾を献上。前半のうちにリードを吐き出してしまう。
実は開幕節のヴィッセル神戸U-18戦も、開始7分で先制しながら、15分と27分の連続失点で逆転を許しており、さらに2点を追加されて1-4で敗戦。「2試合とも早い時間に先制しながら、そのあとのゲームの進め方は、まだプレミアに上がってきたばかりで慣れていないところもあると思います」とはキャプテンの樺島勇波。似たような展開が頭をよぎる中、この日は1-1のままで最初の45分間が終了する。
指揮官は丁寧に戦況を見極めていた。フォーメーションは福岡U-18の4-4-2に対し、名古屋U-18は3-4-2-1。事前の分析でミスマッチが起こることは承知しながら、それをチーム戦術の中で選手たちが解決することに期待していたが、やや個のクオリティに押されていた状況を受け、前半終了間際に少し形を変える対応を施したものの、ハーフタイムには改めてこのシステムでやり切る決意を示し、選手たちを後半のピッチへ送り出す。
だが、後半も相手のアタッカー陣を捕まえ切れない状況を受け、久永監督は決断。68分に2枚代えを敢行したタイミングで、システムを5-3-2にシフト。「スライドのスピードが間に合わなかったら、後手になってどんどんズレるのが遅れていったので、自分としても5枚にした方が後ろは安定するかなと思っていました」とセンターバックの藤川虎三も話したように、個々のマーカーをハッキリさせることで、「もう割り切って、人でハメて、勢いを出していく」(久永監督)という戦い方へ舵を切る。
この采配は概ね成功したと言っていいだろう。守備が整理されたことで、前に出ていくパワーも間違いなく増していった。それでも、プレミアには個人で違いを見せられるアタッカーが揃っている。83分。名古屋U-18のカウンター。後方に3バックは残っていたが、巧みにラインブレイクした大西利都に抜け出され、痛恨の2失点目。「一瞬で仕留められるストライカーがこのレベルにはいるということですね」と久永監督。結果は2試合続けての逆転負け。復帰後のプレミア初白星は次節以降へと持ち越されることになった。
「自分たちのペースでもやれていたところはあったので、負ける試合ではなかったと思います」という藤川の言葉は、決して強がりの類ではない。他の選手たちも大半が同じような感想を持っているはずだ。だからこそ必要なのは、『決め切ること』と『守り切ること』。ごくごくシンプルなことではあるが、やはりこのリーグで勝利を掴むには、その質をどれだけ高められるかが何より求められることも、彼らは痛感しているに違いない。
一方でこの2週間の180分を経て、早くも久永監督はプレミアで戦うことが、選手たちとチームにもたらすポジティブな影響を体感しているようだ。「後ろの選手はああいうフォワードを止められないとトップ昇格もないでしょうし、あのハイプレスの中で寄せられても前を向く度胸は、イコール取られないという技術でもあって、それがないとプロにはなれないでしょうし、そういう指標になるリーグかなとは思いますね」
「この間のヴィッセル戦にしても、おそらく今日の試合もフィードバックできることがたくさんあるので、それは選手にとっても良いことですし、僕らも指導者として勉強になります。言いたいことも言いやすくなるというか、相手チームがそういう現象をいっぱい出してくれるので、仕事のしがいはありますね。プレミアは本当に面白いです」
選手たちも同様に、プレミアに在籍する意義を着実に知り始めている。先制点をマークした中村の言葉が印象深い。「毎週ワクワクしますし、楽しみですし、そこで勝ちたいという想いが一番あります」。メチャメチャ強い相手と、全力を尽くして、100パーセントで戦う。そんな試合が毎週のようにやってくるのだから、それはワクワクするはずだ。
気合いあふれるチームリーダーの樺島は、力強く言い切った。「どっちも逆転負けという形なんですけど、まだプレミアに上がってきて2試合なので、下を向くことなく、自分たちと向き合って、やれるところをしっかりこだわっていきたいと思います。今日はかなりお客さんも来てくれたので、勝ちたかったですけど、1試合勝ったらいろいろなことが変わると思うので、勝利に向けたディテールも突き詰めていきたいです」
このステージで一度勝ってしまったら、もう引き返すことなんてできるわけもない。プレミアに帰ってきた若蜂の躍動は、後に続く者たちの意識も確実に変えていく。福岡U-18の選手たちは、悩みながら、迷いながら、足を踏み入れてしまった「楽しいいばらの道」を、このまま師走まで一直線に突き進む。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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