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有言実行を続けてきた高校年代最高級のストライカー。大津高校・山下景司は「3つ目の目標」に向かってひたすらゴールを奪い続ける 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史プレミアリーグファイナルでゴールを決める大津高校・山下景司
おそらく今、日本で一番ゴールに愛されている高校生だろう。年代最高峰のプレミアリーグWESTで怒涛の20ゴールを叩き出し、見事得点王に。さらに全国切符を巡る高校選手権の熊本県予選でも、決勝まで3試合連続ハットトリックを記録するなど、その勢いはシーズンを追うごとに加速し続けている。
「当初思い描いていた以上に結果が出せていますし、本当にでき過ぎかなという印象ですね。なぜか自分のところにボールがこぼれてきたり、自分のイメージしていた以上のところにシュートが飛んでいったりもしましたし、そういう意味ではゴールの感覚が良くなってきているとは思います」
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その得点パターンは多岐にわたる。クロスに飛び込んでのワンタッチゴール。ディフェンスラインの裏に絶妙のタイミングで飛び出し、GKとの1対1を冷静に制するゴール。ミドルレンジから狙いを定めて四隅へ確実に蹴り分けるゴール。対峙するディフェンダーが揺らされたネットを眺め、思わず天を仰ぐシーンは何度繰り返されたことだろうか。
ストライカーナンバーの9番は2年時から背負っている番号。「自分の前が俊瑛さん(小林俊瑛/筑波大)で、その前が半代さん(半代将都/筑波大)で、どちらも2年生から9番を付けて活躍していたので、そういう意味では自分も活躍しないといけないなと意識はしていました」と語る山下だが、昨シーズンまでは納得の行くような結果を残してきたわけではない。
1年時は6月にいきなりスタメンでプレミアデビューを飾ったものの、シーズンを通じたリーグ戦の成績は5試合出場でノーゴール。2年に進級するとプレミア開幕戦から3戦連発と最高のスタートを切りながら、後半戦に入ると先発を外れる試合も増え、最終的には4ゴールにとどまった。
迎えた最高学年となる今シーズン。印象的だったのはプレミア開幕直前の3月に開催された、サニックス杯の柏レイソルU-18戦。山下は試合開始から30分あまりでハットトリックを成し遂げてしまう。
「去年は決め切る力が足りなくて、巡ってきたチャンスを掴めなかったのが課題だったので、今年は練習でもフィニッシュに多く取り組んでいる分、迷いなく足を振れているのかなと思います」。ドリブル、裏への抜け出し、PK。異なるパターンから重ねた3ゴールは、今から考えれば大ブレイクの狼煙だったように思う。
実はその試合後、山下は今季の目標を問われ、こんな答えを返していた。「チームとしては冬の選手権の全国制覇が目標で、もちろんプレミアも優勝を目指したいですし、個人としては去年の(碇)明日麻さんが獲ったように、プレミア得点王を目指してやっていきたいです。20点は獲りたいですね」
12月8日。米子北高校をホームに迎えたプレミア最終節。昨季のプレミアリーグWESTで20得点を積み上げ、得点王に輝いた碇明日麻(水戸ホーリーホック)が会場を訪れていたという。山下が試合前に交わした会話の内容を笑いながら教えてくれる。「自分はその時まで18点だったので、明日麻さんからは『1点は獲っていいけど、2点は獲るなよ』と言われました(笑)」
結果的にこの試合でも山下は2ゴールを奪い、シーズン通算でも20得点に到達。碇に続いてプレミアWEST得点王も手繰り寄せる。「最終節もあと1点ぐらい決められるチャンスがあったんですけど、決められない部分も自分の今の時点の実力かなと思っています。でも、明日麻さんに並ぶことはできたので良かったです」。有言実行。9か月前に口にした目標を、鮮やかに達成してみせた。
12月15日。プレミアリーグファイナル。EAST王者の横浜FCユースと激突した一戦でも、9番の嗅覚は研ぎ澄まされていた。1点をリードしていた76分。右サイドから野口悠真の完璧なクロスが届くと、山下は完璧な動き出しでマーカーを外し、完璧なヘディングをゴールへと流し込む。
「あんなヘディングはサッカー人生で決めたことはなかったので、よくこの試合で出たなという感じです」。プレミアでも頭で決めたのはわずかに2点のみ。普段は決して多くなかったパターンからでも、大舞台で得点を決め切ってしまうあたりに、ストライカーとしての潜在能力が垣間見える。
スーペルゴラッソが生まれたのは終了間際の90+4分。センターサークル付近でこぼれ球を拾った山下は、ゴールまで45メートル近い距離からのロングシュートを選択。美しい軌道を描いたボールは、前に出ていたGKの頭上を越えて、ネットへ吸い込まれていく。
「少しキーパーが出ているのが一瞬見えたので、もう1点決めたこともあって、迷いなくキーパーの頭上を越すようなシュートをイメージして打ちました。ああいうシュートはもともと好きなプレーというか、練習でもたまにやるんですけど、入らないことがほとんどで、山城(朋大)先生からもチームメイトからも『打つな』と言われることが多いので、そこを裏切って打てたのが良かったのかなと思います(笑)」
圧巻のドッピエッタでストライカーの仕事、完遂。試合後にはスタンドから声援を送り続けてくれたチームメイトと、笑顔でタイトル獲得を喜び合う。有言実行。ここでも9か月前に口にした目標を、鮮やかに達成してみせた。
プレミアの頂点に立った大津には、最後にもう1つ大きなタイトル獲得へのチャレンジが待っている。「プレミアでも日本一を獲ることができて、歴史を変えることができたので、相当自信になっていますし、このファイナルに勝った勢いのまま、今まで勝てなかった選手権も勝てるような自信はみんな持っています」と山下も話したように、小さくない自信を携えて挑むのは、高校選手権での日本一だ。
「大事な試合の、大事な場面で点が獲れるようになってきたという自信はあります」という背番号9に、改めて選手権の目標を尋ねてみる。「個人的な数字の目標は10点です。それも軽々しくは言えない数字だと思うんですけど、まずは大会記録の10点を目指しながら、謙虚にやっていきたいと思います」
9か月前に口にした目標のうち、2つは既に実現させた。最後に残された1つに、付け加えられた新たな目標。だが、彼らがこの1年で積み重ねてきた成果を考えれば、それも決して大それたものではない。大津の9番を託された、有言実行のストライカー。山下景司はひたすらゴールを奪い続けることで、まだ見ぬ新たな歴史を切り拓く。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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