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あと一歩で届かなかったタイトル。それでも柏レイソルU-18の3年生たちがサッカーと生きる旅はこれからも続いていく 高円宮杯プレミアリーグEAST 川崎フロンターレU-18×柏レイソルU-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史決戦に挑む柏レイソルU-18
明らかに動きは硬かった。
「やっぱり優勝争いというところで、なかなか経験できないチャンスなので、それはもうやっていてもそうですし、見ている方もわかったと思うんですけど、チーム全体が緊張していたのかなと思います」(栗栖汰志)
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プレミアリーグEAST第22節。1シーズンの集大成とも言うべき最後の1試合を、柏レイソルU-18は首位に立って迎えていた。3チームが勝点38で並ぶという大混戦の中で、得失点差がプラス13の柏U-18に対して、2位の横浜FCユースはプラス8で、3位の鹿島ユースはプラス6。現実的な数字を考えても、勝利すればタイトルは転がり込んでくる状況だ。
今年の3年生たちは、結果に恵まれない世代だった。U-15時代は最高学年となった中学3年時に、関東リーグ1部からの降格を経験。U-18になってからも、1年時には多くの選手が出場していた千葉県リーグ1部からの降格も味わっている。
「自分たちの代はずっとリーグ戦も下のカテゴリーに落としてきたんですけど、今年の最後に優勝できれば、何を言われようとも一番強い代だと言われるので、それを目標に1年間頑張ってきました」と話すのは、U-12からレイソルでプレーしてきた藤谷温大。絶対にこの代でタイトルを手にしてみせる。全員でその想いを共有して、ここまで戦ってきた。
チームを率いる藤田優人監督の中には、明確に思い描いている数字があったという。「ラスト5試合を残した時点で首位と勝点が6以内、ラスト3試合を残した時点で勝点が3以内なら行けるという話を選手にもしていましたし、それはシーズン当初からイメージしていた数字のそのままでしたね」。実際にラスト3試合を残した第19節終了時点で、上を行く鹿島ユースと横浜FCユースとは勝点3差。そこから連勝したことで、最終節を前に勝点で並び、得失点差で上回って、首位を奪い取ったのだ。
優勝を意識して立ち上がった最後の1週間。「週の頭は良くも悪くも感情を出す選手がいたりとか、やっぱり硬いところがありましたね」と藤田監督。「セットプレーの練習でみんなに緩いところがあって、GKコーチの堀江(健太)さんから『そんなんじゃ絶対優勝できないぞ』と言われました」と藤谷も明かしたように、どうしてもプレッシャーは隠せない。
「今までずっとこの年代は追い掛ける立場が多かった中で、自分たちが追われる立場となった時でも、やることは変えずに、自分たちを信じてやっていこうということは意識して、この1週間は練習に取り組んでいました」と語ったのは栗栖。少しずつ、少しずつ、“いつも通り”を取り戻しながら、彼らはこの日の決戦に向かってきた。
だが、明らかに動きは硬かった。
「いつも通りではなさ過ぎて……。いつもだったら絶対にミスにならないようなパスミスも多くて、それは雑になっていたというよりは、緊張してしまっていたことで、いつもみたいにちゃんと考えることなく、パスを出してしまうところがありました」(藤谷)
37分には先制点を献上し、1点のビハインドを負っていたハーフタイム。指揮官は選手たちに具体的な数字のイメージを提示して、語りかける。「藤田さんがハーフタイムに『優勝したいという気持ちが先に行って、120パーセントのパワーを全員が出そうとしてしまっていて、それで逆に難しい方向に行っているんじゃないか?』と。『自分たちがやってきたことに間違いはないから、80パーセントや90パーセントでやれれば必ず結果は付いてくる』というふうに言っていたんですけど、本当にその通りだなと感じました」(栗栖)
いつもより“20パーセント”近く入ってしまっている余計な力を抜き、今までやってきたことを過不足なくピッチで表現する。選手たちも頭ではわかっていた。実際にそう振る舞おうとした。だが、一度軋んだ歯車はなかなか噛み合わない。後半に入ってもゴールを予感させるようなアタックは、ほとんど繰り出せない。
84分。長南開史、戸田晶斗と繋いだ流れから、ようやくストライカーのワッド・モハメッド・サディキに決定機が訪れたものの、渾身のシュートはクロスバーの上へ消えていく。「プレーできなかったです。まあ……、今日は勇気を持たせてあげられなかったというところ、普段できていたことができなかったというところですね。彼らは追い掛けられる経験がなかったと思うので、技術というよりはメンタリティのところが理由なんじゃないかなと思います」(藤田監督)
ファイナルスコアは0-1。他会場では横浜FCユースも鹿島ユースも勝利を収め、得失点差で横浜FCユースが初優勝を達成。柏U-18の最終順位は3位。掴みかけていたタイトルは、その手からするりと零れ落ちた。
「最後に優勝争いできたのは、間違いなく自分たちが全力でやってきたからなので、そこは自信を持ちながらも、やっぱり最後の最後の甘さが、ラスト1試合を勝ち切れないというのがこの年代の課題でもあり、レイソルの課題でもあると思うので、まだまだ足りないものがあったなという悔しい想いでいっぱいです」
栗栖はそう言葉を振り絞る。この代で勝ちたかった。この代で優勝したかった。「藤田さんとこのチームで絶対に日本一を獲ると決めていたので、本当に良いチームでしたけど、優勝しないといけないチームでしたし、優勝するって決めていましたし……、そう考えると、本当に悔しい想いが一番です」。滲みかけた涙をこらえ、キャプテンは必死に前を向いた。
「厳しいかもしれないですけど、ここで優しい言葉を掛けるつもりもないですし、『甘いよ』という一言を掛けようかなと思いますね。そんな簡単にチャンピオンが獲れるわけではないですし、今日も試合のある決め事に対して1つのミスがあったので、今日の試合前に『勝負の神は細部に宿る』という話をしましたけど、まさにそんな試合だったかなと思います」
そう話した藤田監督が、あるいは誰よりもこの代の成長を認め、この代の力を信じていた人かもしれない。「私も彼らの成長を見て学んだこともありますし、努力は裏切らないとかよく言いますけど、それは彼ら自身が一番身に染みて感じているんじゃないですかね」。優勝の懸かった大一番でもいつも通り、選手たちに委ね、選手たちに任せ、ベンチに座り、テクニカルエリアには出てこなかった。
ここからはそれぞれの道を進んでいく3年生に、指揮官はこんなエールを贈る。「今後何かを成し遂げた時に、この経験があったからだと言えるような日がくれば、人生をトータルで見た時にそれは成功だと思うので、ここから巣立っても、彼らにはそういった時間を過ごしてほしいなと思います」。濃厚な3年間を通じて固く結ばれた師との絆は、ここからの人生でも一歩を踏み出す時の、小さくない勇気になってくれるはずだ。
この代を逞しく束ねてきたキャプテンの栗栖が、最後に話してくれた決意が心に響く。「本当に優勝を目の前にして届かなかった悔しさというのは絶対に忘れないと思いますし、忘れてはいけないものですし、この経験をみんなが本当に生かすか生かさないかは、次のステージでどれだけやれるか、日本一を、世界一を獲るために、どれだけ行動できるか次第だと思うので、みなさんにはそれをここからのキャリアの結果で見せたいなと思います」
いつか、この日の経験が、この日の涙が、今の自分にとって必要だったと言える日を迎えるために、彼らは堂々と、前に向かって歩き出す。あと一歩で届かなかったタイトル。それでも柏レイソルU-18の3年生たちがサッカーと生きる旅は、これからもずっと、ずっと、続いていく。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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