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恩師と共闘する若き指揮官は「丁寧な人」。大津高校・山城朋大監督が「4年目の終わり」と「5年目の始まり」に書き記したい未来予想図 高円宮杯プレミアリーグWEST 東福岡高校×大津高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史大津高校を率いる若き指揮官・山城朋大監督
丁寧な人だなあ、と思う。明瞭な声のトーンに、はっきりとした口調と、選び取っていく言葉のチョイスが、非常に心地良い。名門の大津高校を率いる35歳の若き指揮官、山城朋大監督のことだ。
本人は高校時代の恩師であり、今はともにチームを作り上げている平岡和徳テクニカルアドバイザーの影響をこう話す。「僕は小学生の頃から平岡先生のインタビューを見ながら育ってきていて、今は真横でお話をずっと聞いていますので、やっぱり常に僕らのお手本ですね。たとえばランニングシューズ1つとっても“ランシュー”と略して言ったら、『略さずにちゃんと言いなさい』と言われますし、『「ありがとう」とか「おかげさまで」とか“1秒の言葉”を大事にしなさい』とも言われているので、自然とそういうところが身に付いているのかもしれないです」。こぼれ出た“1秒の言葉”というフレーズも印象に強く残る。
周囲から学ぼうとする意欲も旺盛だ。とりわけ多くのチームが集まるフェスティバルのような機会には、他チームの指導者の一挙手一投足を眺めつつ、参考になる部分を自身の中に取り入れていく。
「サニックス杯の会場はチームのテントの後ろにネットが引いてあるので、外から見えないんですよ。だから、前育が来たら山田(耕介)先生のお話だったり、青森山田の正木(昌宣)さんのお話をテントの後ろに隠れて聞いたりして、『ああ、そういう視点なんだ』とかいろいろ勉強させてもらっています(笑)。それで試合後に改めてお話を聞いたりすると、正木さんは選手のことを凄くリスペクトしているんです。だから、『ああ言っていても、こういうふうに考えているんだな』ということも勉強になりますよね」
同校のOBでもある山城監督にとって、今の選手たちは“後輩”ということになる。「どうしても今の彼らが気付いていないことに対して、『自分はやってたよ』って言いたくなるんですよね。そういう意味では良くも悪くも“後輩”として見てしまっているところはあると思います」。そこで考えるのは、ここでも平岡先生のかつての姿だ。
「最近やっと考えられるようになったのは、平岡先生は僕らをどういうふうに見ていたのかなと考えた時に、やっぱり先生はすべてが見えていても、意外と“遊びの部分”は作ってくれていたのかなと思うので、今でも部室が汚かったら『オレらの時はちゃんとやってたぞ。オマエらの部室じゃないぞ』とか言っちゃいますけど(笑)、OBだからこそ気付ける部分も持ちながら、どこにラインを引くかというところは考えながらやれるようになってきましたね」。言うところと、言わないところ。経験を重ねる中でその精査は進んでいるという。
真夏の気配が近付く7月。リーグ戦8連勝を懸けて、東福岡高校と対峙した一戦のハーフタイム。指揮官は前半の出来に納得が行っていなかった。「僕も最初は『今日はバーッと言ってやろうかな』と思ったんです。大勝した後でしたしね」。その前の試合で静岡学園高校に8-1で勝っていただけに、気の緩みを感じ取った山城監督は、改めて喝を入れるタイミングを窺っていた。
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だが、ロッカールームに帰ってきた選手たちを見て、考えが変わる。「ボランチの嶋本(悠大)と畑(拓海)が『セカンド拾えんくてゴメン』と言っていたんです。話を聞いていても意外とみんながそういう感じで、自分のできていないところがわかっていたので、『それならもういいや』って」
気になった点だけをシンプルに伝えて後半のピッチに送り出すと、チームは終盤に力強く2ゴールを奪って、勝利を引き寄せる。言うところと、言わないところ。指導者にとって肝になるようなこの2つも、より効果的な形で使い分ける術を実戦の中で的確に駆使しながら、結果に結び付けてきた。
東福岡とアウェイで対戦したこの日のゲームは、前半の早い段階で兼松将と嶋本悠大が得点を重ねたものの、徐々にホームチームが勢いを取り戻し、ボールキープの時間も長く作ったことで、大津は我慢する時間帯が続いていくが、山城監督は思考を巡らせながら『言わないところ』のメリットを優先する。
「ちょっともどかしさはありましたけど、崩れているわけではなかったですし、僕も言いたいことは少し抑えながら、彼らが今やれているメンタリティを優先して、時間を進めていった感じですね」。残り15分で1点を返されるも、ピッチの選手たちは必要以上に焦ることなく、時計の針を進めていく。
「『あと1点獲ってゲームを決定づけよう』という想いもあったんですけど、ラスト10分ぐらいからは『もう1点は厳しいかな』と思ったので、失点しないことしか考えていなかったです」(村上慶)「今までの自分たちだったら、失点して慌てて、完全に相手に流れを持っていかれる印象も自分の中にはあったんですけど、今日はそういうこともなく、最後の方は落ち着いてボールを持てたので、ここ数試合で苦しい試合を勝ってきたことが経験になっているのかなと思います」(五嶋夏生)
ファイナルスコアは2-1。これで3試合連続での1点差勝利と、痺れるような戦いが続いている過程で、大津の選手たちは間違いなく自分たちで流れを感じ取り、その状況での最適解を探り当て、遂行していく力を身に付けている。やはりプレミアリーグという年代最高峰のステージで、首位を走り続けているチームの成長度は伊達ではない。
2020年に教員採用試験に合格。学校での立場は非常勤講師から教諭に変わり、サッカー部での立場もコーチから監督へと変わったタイミングで、山城監督は同僚の先生からある“日記”の存在を教えてもらったという。
「その年に大津高校へ赴任された先生から、もう3冊目だという『5年日記』というものを拝見させてもらったんです。僕も選手時代からサッカーノートという形で日記を付けていたんですけど、何年前の何月何日に何があったかというのを5年分一気に見られるというところに魅力を感じたのが書き始めたきっかけですね」
『山城版・5年日記』のスタートは2021年1月1日。この年の高校選手権は県予選で敗れていたため、実家で過ごした1日のことが記されている。「僕が大津高校に赴任した年度から始めたんですけど、1月1日を東京で迎える年もあれば、熊本で実家に帰っている年もあるんです。だから、5年目はまた『熊本で実家に……』とならないようにしたいですね(笑)」
終盤戦に差し掛かりつつあるプレミアリーグも、残りは4試合。次戦で2位・ヴィッセル神戸U-18と激突する大一番を終えると、すぐに選手権予選が始まり、そこで思うような結果を手繰り寄せることができれば、そこからは2つの日本一を目指す戦いへと突入していく。山城監督は携える確かな覚悟を、明瞭な声のトーンと、はっきりとした口調で語る。
「たとえば中間考査がある次の日に受験があるとか、プレミアの試合があるとか、そういうふうになっても『全部やれ』ということは常に言っています。だからプレミアと選手権を考えた時に、どっちが大事かとは比べられないもので、『全部獲りたい』『全試合勝ちたい』と考えていますし、もしその2つを獲れなくても、それはそれで選手の成長には繋がると思います」
「今のチームでは試合に出ている選手だけではなくて、出られていない選手も含めて1年間積み上がってきているものがあるので、最後の最後で一伸びする選手を僕らも見極めたいなと思っていますし、この10月から12月の選手が一番いろいろな経験をしながら伸びる期間を足止めしないように、最後の最後で伸び悩むことがないように、どうにか加速させていきたいなと。プレミアリーグでは恵まれた環境で優勝争いができているので、彼らの高いモチベーションをどうにか利用しながら、この2か月間でも頑張りどころを選ばずに、すべてのことを全力でブレずにやっていけたらなと思っています」
“丁寧な人”が記し続けてきた『5年日記』。その「4年目の終わり」に当たる今年の12月と、「5年目の始まり」となる来年の1月には、果たしてどんな日々が書き加えられていくのだろうか。情熱の指揮官と経験豊富な名伯楽に率いられ、全国二冠を堂々と目指す2024年の大津が繰り広げてきた冒険は、いよいよここからが今まで以上にシビアで、今まで以上に面白い。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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