思考と試行のストライカー。ファジアーノ岡山U-18・石井秀幸は自らのゴールでチームに大きなエネルギーと勝利をもたらしていく【NEXT TEENS FILE.】

ファジアーノ岡山U-18・石井秀幸

初めて足を踏み入れたこのステージで、チームが着実に成長できていることは間違いない。それをさらに加速させる上で求められるのは、はっきりとした結果。だからこそ自分も結果を、つまりはゴールを奪い続ける必要があることは、自分が一番よくわかっている。

「プレミアでとても成長できているというか、毎試合成長を感じています。でも、やっぱり勝つことで成長はもっと大きいものになると思うので、今は連続して負けが続いていますけど、一戦必勝で、勝った時に跳ね上がれるように、1試合1試合無駄にすることなくやっていきたいです」

常に思考を巡らせながら、次にやるべきことを試行していく、ファジアーノ岡山U-18の11番を背負ったストライカー。石井秀幸はプレミアリーグという高校年代最高峰の舞台で、新たな自分に出会うためのチャレンジを繰り返している。

「少し長いボールが増えていて、それを拾う状況が多かったんですけど、その中で自分たちがボールを落ち着かせられなくて、押し込む時間帯を多く作れなかった印象があります」。

石井は残留争いの大一番をそう振り返る。プレミアリーグWEST第16節。10位の岡山U-18はアウェイで最下位の鹿児島城西高校と対戦。勝点差は8離れているとはいえ、残留に向けてもこの試合の勝利はマスト。いつも以上に気持ちを入れてピッチへと足を踏み入れたが、思ったような展開は引き寄せ切れない。

その中でも11番は幅広い動きで、攻撃を活性化させようと奔走する。「今日はフォワードに作田(航輝)が入ったので、自分はインサイドハーフのポジションで、いつもよりは一列後ろでしたけど、ボールを引き出す動きと、自分の良さの動き出しやフィニッシュのところは出せた部分もあったかなと思います」。1点をリードしていた44分には、左サイドで反転しながらフィニッシュまで。シュートは相手GKのファインセーブに阻まれたものの、際どいシーンを創出する。

だが、チームは後半に入って2点を献上し、まさかの逆転負け。「最後の2失点目の跳ね返りは自分のマークだったので、日頃の甘さが出ましたね。あとはもっとゴール前でのクオリティを出して、圧倒的な存在にならないといけないと思います」。石井は敗戦のベクトルを自分に向けながらも、視線は既にその先を見据えていた。

チームも個人も初めて挑んでいるプレミアリーグの舞台。「去年のプリンスより強度が高い中で、その部分への慣れはありますし、プレースピードは成長していると思うんですけど、そこからもう1個成長しないと他の人との違いは出せないと思うので、日々の練習や試合でも細かいところにこだわって、やるしかないと思います」。経験を重ねていく中で、石井も確実に携える基準が上がっている。

プレミア初ゴールを挙げたのは第3節の神村学園高校戦。その試合で岡山U-18もプレミア初勝利を収め、さらにアクセルを踏み込もうと意気込んだ矢先に、無念の負傷。そこから2か月近い戦線離脱を強いられてしまう。ただ、この男はそんな時間も無為に過ごすようなタイプではない。

「チームのサポートはしながら、自分の身体を作ることは意識していたので、今はそこまで当たり負けするようなことは感じなくなりましたね。でも、そこももっと上げていかないと将来困ると思うので、プレーする中でフィジカルの部分は意識しています」。復帰してからの6試合では3ゴールを重ねるなど、コンスタントに結果を残しつつある。

　

「タイミングを図って背後に抜けるとか、手前でビルドアップに参加するとか、そこを使い分けながら、ゴール前に入っていくところは自分の得意なプレーかなと思っています。いろいろと自分にできることを探しながらやっていますね」と語るように、もともと考えながらプレーするタイプ。ボックス内で待ち受けるというよりは、いろいろな場所へ顔を出しながら、得点の匂いを嗅ぎ分けていく。

重要なゲームで結果を出しているイメージも強い。優勝を飾った昨年のイギョラ杯決勝や、昇格へ向けての重要な勝利を手繰り寄せた昨季のプレミアプレーオフ1回戦。どちらも石井は大事なゴールを沈め、派手なガッツポーズも。「昔から自分は勝負強いと思っていて、ビッグマッチになればなるほどできるというのは、自分に言い聞かせているところです」という言葉にも、ストライカー感が滲んで頼もしい。

また、本人も「ムードメーカーかどうかはわからないですけど、イジられたりすることが多いキャラではあると思います（笑）」と口にするように、得難いキャラクターも印象的。一際目立つ坊主頭についても「中学校ぐらいからこの髪型です。親に剃ってもらう時もありますし、自分でやる時もありますね」と笑顔で語っており、不思議な魅力を兼ね備えている。

小学校1年生でファジアーノのスクールへ通い始め、4年生からはジュニアでプレー。「自分の置かれた状況で、置かれた立場で最善を尽くすというのは、ファジアーノのDNAだと思っています」。このエンブレムの付いたウエアに袖を通し、このチームでプレーすることの意味は、誰よりもよく理解している。

プレミアリーグで戦うことが加速度的な成長を促すことを実感しているからこそ、後輩たちにこのステージを残すためにも、石井がここから果たすべき仕事は、明確過ぎるぐらい明確だ。

「常に得点へのこだわりは忘れたくないなと思いますね。今はチームとしてもゴールが少ないですけど、自分が決めたらチームが乗るというのはわかっていますし、それこそ帝京長岡戦は負けてしまいましたけど、自分のゴールで良い流れには持っていけたので、自分が決めるしかないと思います」

スクールから数えればファジアーノ12年目の集大成。思考と試行のストライカー。石井秀幸は自らが奪うゴールで、チームに大きなエネルギーと勝利という結果をもたらすため、立ち止まることなく、たゆまぬ努力を続けていく。

　

文：土屋雅史