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夏の全国ベスト4同士が激突した“3位決定戦”に快勝!帝京長岡の3年生が繋いでいく歴史のバトン 高円宮杯プレミアリーグWEST 帝京長岡高校×米子北高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史帝京長岡は米子北との”3位決定戦”に快勝を収める
「『今年の代だけ良ければいいというのは、もうやめよう』というのは3年生と共有しています。自分も今はAチームを見させてもらっている中で、谷口(哲朗)先生からもらってきたバトンを繋ぐ途中で、この3年生もチームとして初めての夏のベスト4を成し遂げたけれども、自分たちの代だけで完結させるのではなくて、『さらに新しい1,2年生を入れながらバトンを繋いでいこう』と言っているんです」
チームを率いる古沢徹監督は、そう言って小さく笑う。自分たちの経験を、自分たちだけで終わらせるのではなく、ちゃんと次の世代へと“歴史のバトン”を繋いでいく。夏の全国4強という新たな記録を刻んだ帝京長岡の3年生たちは、さらなる鮮やかな景色を切り拓くため、再び前を向いて歩き出している。
9月21日。冷たい雨が降りしきる長岡市ニュータウン運動公園サッカー場。帝京長岡はホームに米子北高校を迎えていた。「インターハイでも上まで上がってきたチームですし、弱いチームではないと思っていました」と今季の14番を背負う安野匠が話したように、この夏のインターハイで両チームはともにベスト4まで勝ち上がっており、帝京長岡は昌平高校に、米子北は神村学園高等部にそれぞれ行く手を阻まれたが、一定の成果を得ることに成功する。
「ベスト4まで勝ち上がれたことは、チームにとってもやってきたことが間違ってなかったという自信にはなっています。でも、自分たちの目標だった優勝はできなかったので、そこで足りないという事実もわかって、さらにチームが成長できる良い材料になったかなと思います」(池田遼)「日本一を目標に毎日練習していたので悔しかったですけど、その悔しさをこれからのプレミアリーグや選手権で生かせるように、もう1回全員で前を向いて、とにかくポジティブに練習しています」(香西大河)
真夏の福島から自信と悔しさを持ち返ってきた彼らは、再開したプレミアリーグの初戦でファジアーノ岡山U-18相手に5-3と逆転勝ちを収めたものの、続く神村学園戦に1-3で敗戦。インターハイの“3位決定戦”とも捉えられる今節の米子北戦は、今後の浮沈を懸ける重要な位置付けのゲームになっていた。
高いモチベーションは、立ち上がりのラッシュに現れる。2分。左サイドをスムーズな連携で崩すと、池田のクロスが相手のオウンゴールを誘発。7分にも桑原脩斗のフィードに抜け出した安野が、相手GKの位置を冷静に見極めたループシュートで追加点。さらにその1分後にも、柳田夢輝が放ったシュートをGKが弾いたこぼれ球へ、鋭く反応した安野がプッシュ。ホームチームはいきなり3点のアドバンテージを奪ってしまう。
試合中に会話を交わす古沢徹監督と安野匠
「立ち上がりの10分で複数得点できたところは今日のゲームの1つのカギだったかなと思います」(古沢監督)。18分にも安野のポストプレーから、2年生アタッカーの渡邉颯が自身プレミア初ゴールとなるチーム4点目をゲット。意外な大差が付く格好で、最初の45分間は終了する。
守備陣に目を向けると、キャプテンの山本圭晋と前節で退場処分を受けた下田蒼太朗という2人のセンターバックが欠場する中、最終ラインはいずれもボランチが本職の桑原、遠藤琉晟、香西が並ぶ3バックを採用。GKもここまで全試合にフル出場していた正守護神の小林脩晃ではなく、プレミアデビュー戦となる1年生の仲七璃を起用するなど、この日はいつもと異なる組み合わせにトライしていた。
後半は4点のリードもあって、攻撃はやや停滞した感も否めなかったが、守備はおおむね安定したパフォーマンスを継続。「少し点差が離れている後半は展開的にもこういうふうになってしまうかなとは思いましたけど、ゼロで終われたというのは凄く良かったですね」(古沢監督)。終わってみれば4-0というスコアでの快勝。帝京長岡にとって“3位決定戦”が実りある90分間になったことは間違いないだろう。
インターハイを経た彼らは、新たな試みに取り組んでいるという。「朝の6時からシュートとかヘディングとかクロスとか、“ポテンシャルトレーニング”と呼ぶ30分の自主練習をやってから、普段の6時半からのトレーニングに入る形にしました。プレミアの監督フォーラムで聞いて、『これはいいな』と思って採り入れたんですけど、“自主練”ではなくて自分のポテンシャルを上げようと。ネガティブな部分よりは、ポジティブな部分を伸ばそうというイメージですね」(古沢監督)。言葉が持つニュアンスへこだわるスタンスに、選手と繊細に向き合うこの指揮官の真摯さが滲む。
そんな古沢監督がとりわけ3年生の選手たちに意識させているのは、このチームが紡いできた歴史の一端を、自分たちも担っているという自覚だ。「5年後や10年後、この帝京長岡が絶対的な存在になれるようにという、大きなビジョンを持って今を捉えようというのは彼らと話をしていますね。僕らの視野が狭くなってしまうと選手も同じになってしまうので、1年生を使ってみたりしていますし、この3年間で彼らが作った新しい歴史をさらに広げていくために、夏以降は『バトンを繋ごう』という話をしています」
昨年の代はチームにとって6度目の挑戦でとうとうプレーオフを勝ち抜き、プレミアリーグという“置き土産”を残してくれた。今年の代も既にチーム初となるインターハイ4強を成し遂げてはいるが、もちろんそれだけで満足しているわけがない。香西が3年生全員の想いを代弁する。
「大津が負けない限りは、プレミアのチャンピオンになる可能性はないんですけど、少しでもその可能性を信じているからには、ここから負けられないというか、1敗もできないので、そこに向けてやっていくことと、残り3か月のこのチームで戦える時間を大切にして、最後の選手権で日本一を獲れるように、毎日の練習から自分たちで求め合って、声を掛け合っていきたいなと思います」
長岡の地で育まれてきた緑の伝統は、今を戦う選手たちの中にも、はっきりと刻み込まれている。そして、バトンは渡される。次代へと繋ぐ歴史をより大きく、濃いものにするために、2024年の帝京長岡が志すチャレンジは、ここからがさらに面白くなっていくはずだ。
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文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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