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1人のプレーヤーとしての、1人のキャプテンとしての進化。柏レイソル・栗栖汰志が実感してきた“11分の1”が成長する意味 高円宮杯プレミアリーグEAST 柏レイソルU-18×大宮アルディージャU18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史柏レイソルU-18を束ねるキャプテン・栗栖汰志
1人のプレーヤーとしての感情と、チームを牽引するキャプテンという立場が、心の中でせめぎ合う。ミスをしたらもちろん悔しい。それが失点に直結したのなら、なおさらだ。でも、懸命に上を向く。前を見据える。声を出す。勝利にとって最も必要なことを、その時々で選び取っていく。
「まだまだもっと自分自身も伸ばしていかないといけないものがありますし、自分の成長やプレーがチームに与える影響は大きい立場でもあるので、そこはちゃんと見つめながら、自分だけになり過ぎず、しっかりとチームの勝利を一番に考えて行動していきたいと思います」
柏レイソルU-18の守護神を任されている、エネルギッシュな背番号1。栗栖汰志はゴールキーパーとしての“11分の1”と、キャプテンとしての“11分の1”の成長を同時に追い求めながら、自分の中での最適解へとたどり着くために、思考を巡らせ続けている。
「「特に2日前のセットプレーの練習から、明らかに鹿島戦の週とは雰囲気が違って、『みんなやってやるぞ』という感じが出てきたんです」。1か月半の中断を挟み、後半戦に突入したプレミアリーグの再開初戦。鹿島アントラーズユースに2-3で競り負けた試合を受け、連敗回避を誓って立ち上げた1週間で、キャプテンはチームの変化を敏感に察していた。
確かな勝利の予感を携えつつ、迎えた今節のホームゲーム。大宮アルディージャU18との一戦は前半から攻勢を強める中で、33分には直前にPKを外していた澤井烈士の積極的な守備を起点に、吉原楓人が先制ゴールを記録。1点をリードして後半へと折り返す。
だが、54分に同点弾を決められてしまう。きっかけになったのは栗栖のボールロスト。味方に繋ごうと出したフィードをかっさらわれると、そこからサイドに展開され、クロスをヘディングでゴールへと流し込まれる。実は前節もチームは先制しながら、やはり栗栖のパスミスから追い付かれ、逆転負けを喫していたのだ。
1週間前の記憶が脳裏に蘇らなかったはずはない。でも、懸命に上を向く。前を見据える。声を出す。「自分がミスをしたことで悪い雰囲気を作ってしまったら、それがチームに影響してしまう立場なので、自分のプレーができなかった苛立ちとか悔しさはみんなの前では出さずに、自分の中にしまってやっていくしかないのかなと思います」。気持ちを切り替えて、それまでと変わることなく、ディフェンスラインに指示を送り、チーム全体を鼓舞し、ポジティブな空気感を纏い続ける。
62分。柏U-18に決定的なピンチが訪れる。右サイドを崩された形から、相手の放ったシュートはきっちり枠内へ飛んできたが、栗栖は素早い反応で的確にボールを弾き出す。そこから3分後。吉原が再び沈めたゴールは、そのまま決勝点に。チームは勝点3を奪い取り、サポーターと『勝利のロレンソ』を日立台に響かせた。
「1人1人がチームのために、勝利のために走って、やるべきことをやってくれたことが本当に大きかったと思いますし、それが勝利に繋がったと思います」。そう話したキャプテンは、この日の“後輩”から小さくない学びを得たという。
「今日も自分のパスミスから失点してしまった中で、その後のメンタルのところで言ったら、前半にあったPKを外した烈士が、その直後に切り替えてプレスに行って奪って、そこから得点に繋がったというところで、そういうリバウンドメンタリティはもっと磨いていかないといけないなと、今日のゲームで烈士から学びました」。吸収できることは、どこからでも吸収しようというスタンスに、元来持ち合わせている素直な人間性も垣間見える。
レギュラーを掴んだ昨シーズンの後半戦も、最後方から常に大声を張り上げ、リーダーシップを発揮しようとする姿勢は際立っていた。今年の3月。就任したキャプテンという役割について問われた際にも、「去年からチームに対してポジティブになれるような声を掛けていましたし、試合に出ていない時も自分は声を出して、チームを引っ張ることを意識していて、そういう部分を評価してもらった中でキャプテンに選んでもらったので、特にやることを変えることはないのかなと思います」と語っていた言葉も印象深い。
だからこそ、よりフォーカスすべきは自身のプレーヤーとしての、人としての成長だ。「プレーも言動も、1つ1つの行動にしっかり責任を持ってやっていこうと思っていた中で、そこのところは自分だけではなくて副キャプテンの(藤谷)温大だったり(福島)大雅も引っ張ってくれて、とてもやりやすさはあるんですけど、そこでより一層チームを勝たせるキーパーにならないといけないかなって。そういうところでもっとチームを引っ張っていかないとなと思いますね」
「それこそピッチ外で荷物を運ぶような細かいところまで、自分が徹底してやることがチームの好影響に繋がると思うので、もう一度そういうところも見つめ直したいです。今年のチームもみんなが良いものを持っているので、まずは自分が良い影響を与えられるようにすることで、しっかりみんながやってくれることを信じていきたいです」
気付けば、陽の落ちる時間もすっかり早くなった。このチームで活動できるのもあと3か月あまり。アカデミーで過ごしてきた濃厚な時間の集大成に向けて、キャプテンとしての、先輩としての決意が、逞しく口を衝く。
「もうとにかく悔いが残らないように、やり残したことはないように、後輩に自分たちの良いものを残していきたいですね。レイソルのアカデミーには歴史があって、偉大な先輩たちのプレーも自分たちは見てきて、それを吸収してプレミアの舞台で戦っているので、自分たちもユースの1,2年生だけではなくて、ジュニアユースの選手や、ジュニアの選手にも良いものをもっと見せたいですし、今後もレイソルのアカデミーが良い方向に進んでいけるように、しっかり結果を出していきたいなと思います」
言うまでもなく“11分の1”の成長が重なり合えば、“11分の11”の総和もより大きなものになる。このグループをより輝かせるための自覚と覚悟。ゴールキーパーとしての“11分の1”と、キャプテンとしての“11分の1”をチームに還元する意味を実感してきた栗栖汰志の進化は、きっとまだまだ止まらない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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