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伝統の背番号5を継承するのは頼れるキャプテン。大津高校・五嶋夏生が纏い始めた絶対的存在感 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史大津高校の5番を背負うキャプテン・五嶋夏生
名門校のキャプテンを務めるのであれば、のしかかる重圧が大きくないはずがない。それでも、そのすべてを背負い、力に変えて、前へと進んでいく。自分ならできると信じて、自分にしかできないと信じて、左腕に腕章を巻き続ける。
「1年生の時は(小林)俊瑛さん、2年生の時は(碇)明日麻さんというキャプテンの元でやってきて、2人は背中でも引っ張れますし、苦しい時に頼りになる存在で、今はあの人たちが目標ですけど、いつか追い越さないと全国制覇はできないと思うので、2人を超えられるキャプテンになりたいなと思います」
プレミアリーグWESTの前半戦を首位で折り返した大津高校が誇る、背番号5のキャプテン。最終ラインに堂々とそびえ立つ、190センチの体躯に恵まれた五嶋夏生の存在感、今や絶対的。
9勝1分け1敗という驚異的な成績で、2位のサンフレッチェ広島F.Cユースに6ポイント差を付けて、順位表の一番上に名前を記されている大津。「去年のプレミアを経験できた選手が多いというのは大きいですし、今年は本当にみんなの仲が良くて、自分自身もそこが一番の強みだと思っているので、それぞれが高め合いながら取り組めているのかなと思います」と五嶋もチームの成長に手応えを掴んでいる。
13得点の山下景司、7得点の嶋本悠大、6得点の兼松将と、得点ランキングの上位10傑に3人が入っているように、リーグ最多の40得点を叩き出している破壊的な攻撃力に注目が集まる一方で、実は11失点という数字もリーグ最少。その守備陣を束ねるのがセンターバックのキャプテンだ。
地元のブレイズ熊本から大津の門を叩くと、1年時の開幕戦でいきなりプレミアリーグデビューをスタメンで飾るなど、入学直後から大きな期待を掛けられてきたが、昨年までの2年間は本人にしてみれば、試練の時間だったと捉えているようだ。
「1年生の時からサニックス杯に関わらせてもらったり、プレミアの開幕戦にも出させてもらいましたけど、山城(朋大)先生や平岡(和徳)先生の期待に応えられるようなプレーは全然できていなかったと思いますし、ミスをして先輩たちに迷惑を掛けてしまって、苦しい日々もあったんですけど、そこでいろいろなことを経験できたからこそ、今の自分があるのだと思います」
迎えた2024年。最高学年になった五嶋は、チームのキャプテンに指名される。「ビックリはしましたけど、去年から試合に出させてもらっていましたし、多少は『自分がやるのかな』とは思っていました。いざやるとなると不安もありましたけど、みんなが助けてくれるので、『自分らしく引っ張っていければな』と思いながらやってきました」。真摯に、ひたむきに、自分らしく。できることに100パーセントで向き合っていく。
携えるマインドにも変化の兆しを感じているという。「今年はキャプテンという立場になったことで、前向きにやるところは意識していて、もちろん技術的にうまく行かなかったり、1対1で負けてしまうところもあるんですけど、そこはもう割り切りながら、『前向きに、前向きに』ということを意識してやれているから、それが自信に繋がっているのかなと思います」
少しでも会話を交わしてみれば、その真面目な性格はすぐにわかる。それゆえに、自身のミスやチームとしての課題はどうしても気になってしまうが、キャプテンがネガティブな思考に陥るわけにはいかない。だからこそ、『前向きに、前向きに』という“魔法の言葉”を自分に掛けて、このグループを逞しく牽引している。
確かな自信の背景にあるのは、着実に遂げている成長の実感だ。以前は高身長ゆえに身体操作に苦労していた印象もあったが、「だんだん動けるようにもなってきて、個の部分で負けることはだんだん少なくなってきていると思います」と自ら話す通り、今ではフィジカル面での優位性をプレーに反映させられていることも、今季のプレーを見れば一目瞭然だと言っていいだろう。
とはいえ、「今年は全然違いますね。去年と比べたら良くなっているとは自分自身も感じているので、そこはポジティブにやれているかなと思います」と珍しくハッキリと口にしながら、「自分で言うのもなんですけど(笑)」と付け加えるあたりに、本来の控えめな人間性が滲むのも面白い。
大津にとっての5番は、植田直通を筆頭に歴代の好センターバックへ与えられてきた特別な番号。それを託されることがどういう意味を持つかを、五嶋が知らないはずもない。
「大津高校の5番を付けられるのは自分にとっても誇りですし、嬉しいです。以前からビルドアップの部分では谷口彰悟選手を、守備の部分では植田直通選手のプレーを見てきましたし、大津高校にも横断幕が貼っているので、自分の憧れの選手です」
そんな先輩たちも成し遂げられなかったのが、日本一のタイトル。あと一歩まで迫ったことはあるものの、まだ大津は全国王者という称号に手が届いていない。今季のチームの完成度を考えれば、悲願達成は現実的な目標。それは選手たちが一番よくわかっている。五嶋の言葉が力強く響く。
「今年のチームは全国制覇を目標としています。自分たちはプレミアリーグも『残留しよう』という目標でやっているわけではないので、もちろん優勝を目指してやっていますし、インターハイでも選手権でもどの大会でも優勝を目指して頑張っていきたいなと思っています」
獲れるタイトルは、全部獲り尽くす。2024年の高校サッカー界を席巻し始めている大津の、背番号5を任されたキャプテン。まずは一冠目となるインターハイの頂点へと駆け上がるため、五嶋は自身とチームにベクトルを向け続けながら、福島の夏を全力で走り切る。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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