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試練は乗り越えられる者だけに与えられる。前橋育英高校・石井陽が背負う14番とキャプテンの覚悟【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史前橋育英高校・石井陽
ただでさえ、全国的な強豪として知られるタイガー軍団のキャプテンを任された上に、このチームにとって特別な背番号も託されているのだ。大きな重圧が掛かっていないはずがないだろう。それでも、やるしかない。前を向くしかない。だって、もうそのどっちも全力で背負うと決めたのだから。
「キャプテンになればもちろん責任も発生すると思うので、プレー面でもピッチ外でもちゃんとやるべきことはやらないといけないですし、今年は最終学年なので、自分が育英の14番を付けて、『日本一の14番』だと言われたいと思っています」。
個性派集団を束ねるキャプテンであり、伝統の14番を渡されたチームの“心臓”。石井陽が発揮するリーダーシップと、ピッチの中央で逞しく放つ存在感は、日本一という目標を掲げる前橋育英高校にとって、絶対に欠かせない。
2年生ながら不動のボランチとして、プレミアリーグでも21試合に出場した昨シーズンは、石井にとっても大きな手応えを得た1年だった。「たぶん今までサッカーをやってきた中で、一番成長できた年だと思っています。もともと守備は得意だったんですけど、その守備の強度やスピードの部分は一段階レベルアップできましたし、攻撃の面でボールによく関わって縦パスを入れたり、リズムを作ることは、本当にシーズンを通して成長できたところかなと思っています」。
本来のキャプテンだった雨野颯真(現・早稲田大)の負傷離脱を受け、シーズン最後のリーグ戦3試合では、先輩たちを差し置いてキャプテンマークを巻くことに。「雨野さんがケガをしていた期間に、『誰がやるんだろうな?』と思って監督に聞いたら、自分が指名されました。最初の方はちょっと緊張したんですけど、やっていく中で慣れていきましたし、『ちゃんと自分のやるべきことをやっていければ大丈夫だな』というのは自分でもわかっていきました」。
既に周囲からそのリーダーシップを認められていた石井が、チーム内の投票で新チームのキャプテンに選ばれたことは、ある意味で必然の流れだったと言ってもいいだろう。だが、本人は「自分だろうなというのは薄々気付いていました」と笑うものの、「肩書きが変わったぐらいで、やることは今まで通りでいいかなとは思っているので、そんなに硬くなってはいないです」と続けたように、必要以上に気負うつもりはない。
入学してからの石井は、2人のキャプテンの背中を見つめてきた。1人は雨野で、もう1人は2年前の14番であり、インターハイで日本一にも輝いている徳永涼(現・筑波大)。尊敬すべき両者の振る舞いを近くで見てきたからこそ、その役割にとって求められるさまざまなことを感じ取ってきた。
「涼さんも雨野さんも本当にチームのことをよく考えていたキャプテンで、それを2年間見ていたのは良い経験として自分の中で積み重ねられたので、自信を持って自分なりのやり方も通しつつ、2人から学んだこともしっかりチームに影響させられたらなと思っています」。
実際に話してみると、どんなことを聞かれても自分の言葉で考えを伝えられる明晰さを持ち合わせており、大人ともしっかり会話ができるパーソナリティも印象に残る。合間に覗かせる笑顔のかわいさも、実に魅力的だ。
今シーズンの前橋育英は“5つの原則”を掲げている。これは高校選手権で初めて日本一に輝いた代のチームで共有されていたもの。改めてその重要性を再確認し、2024年のチームもそれを踏襲することになったという。
「『ハードワーク』『声』『トランジション』『ファーストとセカンドの徹底』『デュエル』が5つの原則で、これはどんな試合でも発生する5つの場面で、そこを徹底できればどんなに相手に力があっても僕たちが圧倒できるはずですし、外せない大事なことなので、チームとして徹底していきたいと思います」(石井)。
昨年からのレギュラーも多数残っており、周囲からも高い評価を得ながら迎えた今シーズン。ここまでプレミアリーグは開幕から3試合を終えているが、前橋育英はまさかの3連敗。なかなか勝利を手にするまでに至っていない。
プレシーズンの頃に「自分たちでも去年から多くの選手が出ていたからというプレッシャーはちょっとあって、変に過信しすぎてしまうと足元をすくわれると思うので、そこは謙虚にやっていきたいです」と話していた石井も、今の状況に頭を悩ませているであろうことは想像に難くない。
ただ、兆しはある。今季も優勝候補の一角と評されている川崎フロンターレU-18と対峙した前節は、結果こそ1-2で敗れたものの、難敵相手に攻守で十分に対抗し得る展開を作り出していた。同じ川崎U-18に叩きのめされた、昨シーズンの開幕戦とほとんど同時期の試合にもかかわらず、1年前とは内容も異なる90分間には確かな希望の光が見えたのではないだろうか。
『前橋育英の14番でキャプテン』という小さくない重責を担っているからこそ、見えてくるものが、感じられるものが、必ずある。試練は乗り越えられる者だけに与えられる。上州のタイガー軍団が誇る小さな巨人。石井陽が真摯に課された役割と向き合い続けるのであれば、その表情に最高の笑顔が灯る日は、そう遠い日のことではないはずだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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