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鹿島の名の下に集った若武者たちの奮戦。「常に勝利する」という唯一無二のスタイル。『高円宮杯プレミアリーグEAST流通経済大柏高校×鹿島アントラーズユースマッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史鹿島アントラーズユースは1年生ストライカー・吉田湊海が執念の同点弾
かの世界的ファッションブランドの創始者、イヴ・サン・ローランはこんな名言を残したという。「ファッションは一瞬。スタイルは永遠」。Jリーグにもそのクラブ名を耳にすれば、すぐにその“スタイル”が思い浮かぶ名門がある。鹿島アントラーズだ。
それはサッカーの内容というよりは、マインドに近いかもしれない。今シーズンの鹿島アントラーズユースのキャプテンを任されている佐藤海宏の言葉は象徴的だ。「自分たちは5年ぶりのプレミアリーグとはいえ、アントラーズというクラブは常に勝利を、優勝を目指してやっていかなければいけないというのは常々言われていますし、みんなもそういう意識があると思います」。ピッチ上のすべては常に勝利から逆算されている。それはユースチームであっても、例外ではない。
開幕戦は敗れ、前節は引き分け。まだ勝利のない状況で迎えたプレミアEASTの3試合目は、アウェイで流通経済大柏高校と対峙。「立ち上がりは集中しようと言って入ったんですけど、1つのセットプレーから失点して、なかなかうまく行かない中で、追加点を与えてしまったところは一番大きかったかなと思います」と柳澤敦監督も言及したように、鹿島ユースは前半だけで2点のビハインドを背負ってしまう。
「前半を振り返ってみても、切り替えの部分や局面で負けるシーンが多かったので、ハーフタイムにヤナさん(柳澤監督)からも『2点差なので、勝ちに行くとなったらもっとエネルギーを使わないといけない』と言われました」と明かしたのは佐藤。喝を入れた指揮官は、さらに強いエネルギーを打ち出すための交代策も講じていた。
後半開始から投入されたのは、強さに特徴を持つフォワードの島田ビクトルゆうぞ。すると、前線でコンビを組んだ1年生アタッカーの吉田湊海も「ビクトル選手にボールを集めて、そこから攻撃の起点になって、後半の立ち上がりは流れも良かったのかなと思います」と話した通り、島田が効果的にボールを収めたことで、アウェイチームの攻撃にリズムが生まれ出す。
追撃の1点は完璧なコンビネーションから。60分。左サイドで前を向いた佐藤は、前にいた小笠原聖真にボールを預け、そのまま内側をインナーラップ。「相手のサイドバックも結構食いつくような特徴があったので、そこの背後を狙っていた部分はあったし、あそこを取りに行くプレーは今年に入って増えてきたかなと思います」という左サイドバックはリターンを受けると、ライン際まで運んでマイナスの折り返し。ここに走り込んだ1年生ボランチの福岡勇和のシュートが、ゴールネットを確実に揺らす。
同点弾を決めたのもスタメン起用されている1年生だった。63分。土橋竜之介がシンプルに入れたロングボールを、マーカーと競り合いながら自分のものにした吉田は力強くフィニッシュ。いったんは相手GKに阻まれたボールを、今度は執念でゴールネットへ流し込む。
「まだプレミアで勝てていない状況で、この試合は絶対に負けられないという中で、福岡選手が1点目を獲ってくれて、その流れで自分も『絶対に点を獲ってやる』という気持ちではいたので、点を獲れて良かったと思います」。これで2試合連続ゴールとなった15歳のストライカーが発した言葉も頼もしい。
ただ、勝利を手繰り寄せる次の1点までは届かず。「五分五分の試合で自分たちは勝ち切れなくて、この前の試合もギリギリで追い付かれたので、そういう勝負強さというのは必要になってくるのかなと思います」と佐藤。今季初白星は次節以降へお預けとなった。
この日のスタメンには4人の1年生が名前を連ねていた。とりわけ中盤は右サイドに平島大悟を、ドイスボランチに大貫琉偉と福岡を配置。左サイドに入った3年生の小笠原聖真以外は全員がルーキーという顔ぶれだ。もちろんいずれもチーム内の競争を繰り広げて勝ち獲った座席。柳澤監督も評価の理由をこう口にする。
「今はスタメンの中に1年生も多く出場している中で、少しフィジカル的な部分では目をつぶりながら、アントラーズらしい良い守備から良い攻撃は継続してやっているので、そこを体現できる選手だと思って使っていますし、もう少し身体ができてくれば、もっと強度の高いゲームができるかなと思っています」
ゴールの感想を問われ、「何であそこにいたのかわからなかったですけど、ラッキーでした。ゴールは素直に嬉しいですけど、試合に勝てなかったので、次は勝てるようにまた練習から頑張っていきたいと思います」と話す福岡の、続けた率直な心情が初々しい。「『プレミアの試合に出たい』とは思っていましたけど、こんな早く出られるとは思っていなかったので、これからもずっと出続けられるように頑張らなきゃなと思っています」
殊勲の同点ゴールを挙げた吉田は、FC多摩ジュニアユースから鹿島へとやってきたばかりだが、もうその発言はこのクラブに長年在籍している選手のそれと何ら変わらない。「鹿島アントラーズというチームは常に勝利を求めてやっているチームで、まだプレミアで勝利がなくて、アウェイでもホームでも勝ちにこだわってやっている部分はあったので、勝ちたかったです」。タイムアップの瞬間、この1年生がピッチに倒れ込み、誰よりも悔しそうな表情を浮かべる姿が強く印象に残った。
着実にステップは踏んでいる。あとは明確な結果を引き寄せるのみだ。「初戦は負けて、2試合目は最後に追い付かれて引き分けたゲームでしたけど、今日は0-2から同点に追い付いたわけで、それはなかなかできることではないですし、逆転となればなおさらパワーがいるので、そういう意味ではよく頑張ってくれたとは思います。これを継続しながら、次こそは勝ち点3を獲ろうという話はしようと思っています」(柳澤監督)
鹿島アントラーズユースを率いる柳澤敦監督
勝っても、負けても、それこそ引き分けても次の試合はやってくる。それならば勝って、そのあとの1週間でみんながまた激しいトレーニングと向き合い、健全にポジションを争うに越したことはない。その先にはまたプレミアリーグで、強豪と肌を合わせる90分間が待っている。
「プレミアは楽しいですね。やっぱり相手が強いというのは自分も成長できますし、その相手が強い中で良いプレーができたら楽しいですし、気持ちが良いです」(小笠原)「プレミアは相手のレベルも高くて、マッチアップする選手もいろいろな特徴があって、自分にとっても良い経験になっています。そういう中で結果を残したり、失点をしない、1対1で負けないということはもっともっと意識しないといけないと思います」(佐藤)。
最後に語り落とせないのは、太鼓を叩き、フラッグを振り、スタンドから大声を張り上げ続けたベンチ外のメンバーたちだ。間違いなく悔しさを抱えているはずの彼らは、それでも明るく、前向きに、ピッチの選手たちへ声援を送り続けた。今いる場所で最善を尽くそうとポジティブに発したエネルギーは、きっといつの日か必ず自分たちに良い形で返ってくることだろう。
ベンチには柳澤監督を筆頭に、里内猛コーチ、小笠原満男コーチ、曽ケ端準GKコーチと、クラブの歴史を知るスタッフ陣が顔を揃えている。アントラーズの未来を担い得る若武者たちの奮戦と、それを温かく見守るレジェンドたち。常に希求するのは何よりも勝利の歓喜。ファッションに左右されないスタイルを掲げる鹿島ユースが、ようやくプレミアリーグに帰ってきた。
スタンドから声援を送る鹿島アントラーズユースの選手たち
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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