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1月14日に第45回皇后杯全日本女子選手権大会の準々決勝が行われ、栃木県のカンセキスタジアムとちぎで行われた第1試合では日テレ・東京ヴェルディベレーザが延長戦の末に、ちふれASエルフェン埼玉(EL埼玉)に敗れるという波乱があった。
ベレーザといえば、読売サッカークラブの女子部門として誕生して以来、数々の名選手を輩出した日本の女子サッカー界を代表するチームであり、昨年度の皇后杯でも優勝を遂げている。
一方、EL埼玉はWEリーグ初年度(2021/22シーズン)から2年連続で最下位(11位)に終わったチーム。今シーズンから池谷孝監督を迎えたが、やはり現在リーグ戦では10位に留まっている(WEリーグは今シーズンから12クラブに拡張)。
そのEL埼玉が“女王”ベレーザを破ったのだから、まさにカップ戦ならではのジャイアントキリングというべきだ。
試合は、立ち上がりからベレーザがゲームを支配して多彩に攻めた。前半のシュート数はベレーザの12本に対してEL埼玉は4本という試合だった。
EL埼玉も前半の序盤戦こそ何度か攻撃のチャンスを作って、左サイドのアタッカー吉田莉胡が面白いところに顔を出してシュートを放ったが、その後は専守防衛。両ウィングバックも下がって5人で守る時間が長くなった。
引いて守る相手に対しての攻めとしては、ベレーザも悪くはなかった。
サイドに開いてピッチの幅をいっぱいに使い、クロスに対してトップで起用された山本柚月が飛び込んだり、日本代表(なでしこジャパン)の主力の1人でもある藤野あおばが鋭いドリブルで切れ込んでシュートしたり、サイドバックが攻撃参加したりと様々な形で攻撃を繰り広げた。
だが、分厚く守るEL埼玉の守備を崩しきる場面は少なく、「決定機」は作れなかった。
後半に入ると、ベレーザの松田岳夫監督はトップにいた山本を右サイドに置き、右サイドにいた土方麻耶をトップに入れ、ポジションを変えて攻撃を活性化させようとしたが、最後まで打開には至らず、ベレーザの後半のシュート数は5本と前半からかなり減ってしまった。
74分、EL埼玉は前線に祐村ひかるを投入した。そして、それまでワントップを務めていた瀬野有希をトップ下に下げて、祐村と吉田のツートップに変更したのだ。
これが攻撃開始のスイッチだった。ツートップに入ったともに2人は足も速く、ダイナミックに動くことのできる選手だ。
ボールを握りながらもなかなかゴールが奪えないベレーザが攻撃に人数を割いたため、当然、ベレーザ陣内には大きなスペースができてくる。そこを使おうというのがEL埼玉の意図だった。
そして、80分以降、カウンターからビッグチャンスを作ることに成功すると、延長前半の95分に吉田のパスを受けた左ウィングバックの金平莉紗が祐村と大きなワンツーを使って抜け出して先制ゴールを決めたのだ。
実は、この両チーム、12月10日にはWEリーグ第5節で対戦していた。そして、ベレーザ・ホームのこの試合でもEL埼玉はベレーザの攻撃を零封して引き分けに持ち込んでいた。
さらに、この時の試合でもトップの吉田を生かして、何度かベレーザ・ゴールを脅かす形は作っていた。ただ、せっかくのチャンスでパスを選択してしまったり、攻撃が中途半端でスコアレスドローに終わってしまったのだ。
「もっと思い切って攻めればいいのに」というのは池谷監督の思いでもあったようで、試合後の会見では「うちの選手たちはサッカーを知らない」とボヤいていたものだが、皇后杯でのジャイアントキリングは、このリーグ戦での引き分けからの教訓を生かしてカウンターからのチャンスで思い切って攻め切ったことで勝ち取ったものだ。
一方、ベレーザの方はやはり若さが出たようだ。
今シーズン、松田監督を迎えたベレーザは、従来のテクニックを生かして徹底的にパスをつないで相手を崩すサッカーから方針を転換。アグレッシブな守備でボールを奪って速く、シンプルに攻める攻撃にも取り組んでいる。
そして、メンバーも大幅に若返った。
皇后杯準々決勝の先発11人の平均年齢はなんと20.7歳。DFラインも右SBの柏村菜那が19歳、CBの坂部幸菜と池上聖七がそれぞれ20歳と18歳、左SBの松田紫野が22歳という顔ぶれだった。攻撃の中心だった藤野も、まだ19歳である。
やはり、若いメンバーだと点が取れない中で焦りが生じ、パスが流れてしまうような場面も増え、時間とともに手詰まり感が出てきてしまった。
同日の夜、日本代表はアジアカップのグループリーグでベトナムと対戦。セットプレーからベトナムに2点を奪われて逆転されてしまったが、それでもまったく慌てることなく落ち着いてプレーしてしっかりと逆転して見せた。もちろん、2失点はいただけないが、あの状況で落ち着いてプレーして悠々と逆転につなべたことによって、かえって彼らの強さが際立った。
カンセキスタジアムでの準々決勝第2試合では、三菱重工浦和レッズ・レディースがジェフユナイテッド市原・千葉レディースに対して、まさに「ベテランの力」で勝利した。
浦和は昨年度のWEリーグ・チャンピオン。現在はリーグ戦で2位に付けているが、おそらく現在の日本の女子サッカー界の最強チームだ。
女子版ACLの戦いがあったため日程が窮屈になったせいか、新シーズンに入ってからなかなか調子が上がらなかったが、12月に入ってからパスもスムースにつながるようになり、前への意識が非常に高くなってきていた。
そして、大ベテランの安藤梢がアタッカー(左のサイドハーフ)に戻ってきた。
かつて、FWとして日本代表のエースの1人であり、またドイツでも活躍した安藤だが、浦和のチーム事情で昨季はCBとしてプレーしてチームの優勝に貢献し、MVPを受賞していた。だが、ようやく本職のDFがそろったことによって、安藤を再び前で使うことができるようになったのだ。
DFとしてプレーしていた時も攻撃参加してはゴールを決めていた安藤の決定力は折り紙付き。1月7日のWEリーグ第7節の大宮アルディージャVENTUS戦で2得点を決めて、見事にアタッカーとしての復活を宣言していたが、なんと皇后杯準々決勝の千葉戦でも再び2ゴールを決めて見せた。
浦和が主導権を握った前半、なかなか点が入らず嫌な流れになりかけた42分に決めた先制ゴールは、GKが蹴ったロングキックがFWとDFの競り合いから裏に抜けてくるところに走り込んで決めたもの。ボールがこぼれてくる位置を予測する嗅覚が鋭いのだろう。前線を動き回るわけでもなく、必ずボールのこぼれてくるところに顔を出して、簡単にゴールを決めてしまうのだ。
調子が上向いてきた浦和に安藤梢というゴールゲッターも“加わって”、皇后杯制覇に向けて盤石の態勢が整いつつあるようだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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