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青森山田高校が滋賀県代表の近江高校を3-1で破り優勝を決めた
1月8日に東京・国立競技場で行われた第102回全国高校サッカー選手権大会決勝で、青森山田高校が滋賀県代表の近江高校を破って2大会ぶり4度目の優勝を遂げた。
青森山田はプレミアリーグ・イーストでも優勝。プレミアリーグ・ファイナルでサンフレッチェ広島F.C.ユースを破って優勝しており、いわばU-18年代のリーグとカップのダブルチャンピオン。青森山田が2023年度のU-18年代最強チームなのは間違いない。
その強さのベースは前線からのハードワーク。フィジカル能力を生かして高い位置からプレスをかけて相手の攻撃を寸断し、ボールを奪ったらすぐに前線にボールを供給してショートカウンターで仕留めるサッカーだ。
2023年のJ1リーグではヴィッセル神戸がプレッシング・サッカーで初優勝しており、カウンタープレッシングは、まさに2020年代の世界のサッカーのトレンドである。
今大会、青森山田は初戦(2回戦、対飯塚=福岡県)こそPK戦勝ちと冷や汗をかいたが、3回戦では広島国際学院を7対0、準々決勝では昌平(埼玉県)を4対0と圧倒した。激しいプレッシングで相手の攻撃を分断してしまった結果だ。ともに大量得点を奪っての大勝だったが、内容的には相手の攻撃を分断するとセットプレーやロングスローで得点を重ねるという、きわめて手堅い試合運びだった。
セットプレーでは190センチの小泉佳絃、182センチの山本虎という両CBの高さが生きたし、青森山田の伝統とも言えるロングスローを担ったのは小沼蒼珠。圧倒的な身体能力を持った左SBだった。
激しいプレッシングで相手の攻撃をシャットアウトして慎重に戦い、セットプレーで得点を奪って勝ち進む、勝負に徹した戦いぶりだった。
また、昌平戦ではキックオフから相手陣内に押し込んで、4分までに2ゴールを決めるという試合巧者ぶりも見せつけた。
決勝戦でも、後半開始早々、近江に同点とされたが、その後、相手のオフサイドで得た間接FKをGKの鈴木将永がロングキックし、それを縦につないで相手が帰陣する前に決め、さらにロングカウンターでダメ押しの3点目と、試合巧者ぶりが目についた。
もっとも、準決勝の市立船橋戦では慎重すぎた結果1対1の引き分けに終わり、辛うじてPK戦での勝ち抜きとなってしまった。この試合は、両者ともにシュート数が1桁だった(市立船橋が7本、青森山田が5本)。両者が勝利にこだわりすぎて慎重な試合運びを選択した結果だった。
青森山田は準決勝の市立船橋戦、PK 戦で勝ち上がった
その点で、「結果」だけにこだわらず、真っ向からの勝負を挑んで決勝に進出してきたのが近江高校だった。
今大会で3度目の全国大会出場という近江だったが、前回は1回戦敗退。初出場の第99回大会では2回戦に進出したものの、1回戦はPK勝ち。つまり、全国選手権では未勝利の無名校だった。
2023年の全国高校総体でも1回戦敗退に終わっており、プリンスリーグ関西で2位に入ってプレミアリーグ参入戦に挑んだものの、鹿児島城西にプレミアリーグ昇格を阻まれたチームだった。
だが、全国選手権に入ると、確かな個人技を生かして勝ち上がってきた。
2回戦、3回戦ともにPK勝ち。ともに、前半は1点リードを許すものの、後半追いついてPK戦に持ち込んでの勝利。神村学園(鹿児島)との準々決勝では前1対2でリードされたものの逆転勝利。「前半は眠っている」とも言われたが、いずれも後半の強さが目立つ勝ち上がりだった。
10番を付けた金山耀太を前半は3バックの一角で起用し、後半から2列目(左のウィングバック)に上げて攻撃のギアを上げるというのが戦い方のパターンだったが、準決勝の堀越(東京A)戦ではスタートから金山を2列目で起用。前半のうちに3点を奪って勝利をもぎ取った。
準決勝近江対堀越、近江10番キャプテン金山耀太が3点目を決めゴールパフォーマンス
無名校が、戦いを重ねるとともに結束力を強め、自信をつけてくるというのは、こうしたノックアウト・トーナメントではよく見られるパターンだ。
その裏打ちとなったのは、ボールテクニックだった。
強豪校ですら圧倒された青森山田のプレッシングだったが、近江の選手たちはそのプレッシングを恐がることなく、うまくかわしてボールをつないで見せた。
多くの高校が、青森山田のプレッシングを前にボールを下げる選択をしたのに対して、近江の選手たちは相手がプレスをかけてくる勢いを逆に利用して、相手をギリギリまで引き付けてからパスをつないだり、ターンしてドリブルに移ることでプレッシングをはがしていったのだ。
ドリブルをまじえながら大きな展開を見せた西飛勇吾や右サイドでのドリブルでボールを運んだ鵜戸瑛士など、ボールテクニックは確かなものだった。
相手を引き付けてプレーするのは、かなり勇気の必要なプレーだったはずだが、相手が怯まずにつないできたことで青森山田の選手たちもタジタジになる場面もあった。
後半ポジションチェンジで攻撃にギアを入れた近江が金山耀太のクロスから同点に持ち込む
最終的には青森山田のフィジカル能力が上回り、また分厚い守備組織を前にシュートまでは持ち込めなかったものの(決勝戦での近江のシュートは前後半1本ずつ)、テクニックを前面に出して強豪に立ち向かった戦いぶりは多くの観客に感銘を与えるものだった。
全国選手権での滋賀県勢の優勝は18大会前の野洲高校まで遡る。
当時の野洲は個人技を生かしたサッカーで「セクシー・フットボール」と謳われたものだったが、今回の近江も“セクシーさ”ではけっして見劣りしていなかったかもしれない。
なにしろ、相手の運動量やプレッシングの激しさは18年前とは格段に上がっていたからである。
第102回大会で記録に残るのは、当然、優勝してプレミアリーグとの「2冠」を達成した青森山田なのだろうが、近江の健闘も記憶として残しておくべきものだ。
第102 回全国高校サッカー決勝、近江がスタイルを貫き強豪青森山田からゴールを奪う
青森山田はとにかく、勝負に徹した戦い方だった。
全国大会で3度の優勝を置き土産に退任した黒田剛監督(J2リーグ、FC町田ゼルビア監督に就任して、チームをJ1昇格に導いた)の跡を継いだ正木昌宣監督としては「結果を出すしかない」状況だったろうし、青森山田という高校の監督として結果を出すことは至上命令だったのだろう。
しかし、あれだけの好選手を集めたチームなのであれば、慎重なだけでなく、もっとチャレンジングな戦いを挑んでほしかった。
あるいは、青森山田を追うべき全国の強豪高校も青森山田をテクニックやアグレッシブさで上回るようなチームを作って挑戦してほしかった。
高校サッカーで結果(=全国区選手権優勝)が重要なのだということは重々承知の上で言うのだが、もっともっと攻撃的なサッカーに挑んでほしいのである。
サッカーというのは、エンターテインメントなのだ。また、選手の育成という観点からも、能力の高い選手たちにはもっとチャレンジをさせてほしい。
11月にインドネシアで開かれたU-17ワールドカップでは、日本代表が誇る攻撃陣はスピードでもフィジカルでも世界の強豪のDFに歯が立たなかった。日本のサッカーの育成の一翼を担うのが高校サッカーなのだ。もっと上を目指して、もっと志を高く持って戦ってほしいのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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