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緑のスタンドが作り出した圧倒的ホーム感。部員全員で引き寄せた青森山田のプレミア制覇! 高円宮杯プレミアリーグファイナル 青森山田高校×サンフレッチェ広島ユースマッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史ファイナルのスタンドを彩った青森山田の応援団
土壇場で追い付いた青森山田高校のベンチは、前線に上がっていたセンターバックの小泉佳絃を元の位置に戻さない。「このまま試合を決めに行く」という覚悟を感じ取ったスタンドの応援団が、声援のボルテージを二段階は上げる。さながらホームのような雰囲気の中、シーズンを通じて苦しみ続けたストライカーの津島巧が、DFラインの裏へ抜け出していく……
青森山田高校グラウンドは、プレミアリーグの中でも屈指の“ホーム感”を打ち出せる会場だ。ピッチの周りをぐるりと取り囲んだ観衆の中には、少なくない数の中学校と高校のサッカー部員が陣取り、ようやく声を出せる環境が帰ってきただけに、ワンプレーワンプレーに対するリアクションで、相手を圧倒する雰囲気を作り出す。
首位攻防戦となったプレミアEAST第17節の川崎フロンターレU‐18戦。アウェイチームがエンドを入れ替えたことで、前半のホームチームは応援の部員たちが陣取る側のゴールに攻めることとなる。試合は4分にキャプテンの山本虎が先制点を奪えば、25分にも菅澤凱が追加点をゲット。2人ともゴール裏で見守っていたチームメイトたちのすぐ近くまで駆け寄って、歓喜を共有する。
後半は1点を返されたものの、相手の攻撃を凌ぎ切って、重要な一戦に2-1と勝利を収める。試合後に「相手がエンドを変えてくれたので、前半はみんながゴールの後ろにいて、攻撃も凄く良い形で2点入りましたし、後半も仲間の後ろからの応援があって、この青森山田ファミリー全員で勝てたのが凄く良かったと思います」と話したのは山本。この日の勝利に、多くの部員が発していたエネルギーが影響を及ぼしたことは、キャプテンの言葉を聞くまでもなく明らかだった。
川崎U-18戦で自らのゴールをチームメイトと喜ぶ青森山田・山本虎
彼らにとって、その人工芝のグラウンドは特別だ。普段からトレーニングを積み重ねている練習場でもあり、公式戦を戦う晴れの舞台でもある。冬はその緑の地面なんて見えないぐらい雪が積もり、その中でいわゆる“雪中サッカー”を行うことで、1年間を戦うベースが養われていく。夏はうだるような暑さの中で厳しい練習を繰り返し、シーズン後半を駆け抜けるための体力を補強する。高校で過ごした3年分の、中学校から在籍してきた選手は6年分の、一言では言い表せない思い出が、そのグラウンドには詰まっている。
もちろん誰もがプレミアリーグの試合に出たい。だが、200人近い部員の中からその権利を手にするのは、言うまでもなく容易なことではない。冬も、夏も、等しく苦しいトレーニングをこなしても、あるいはその努力がトップチームでのプレーに繋がらない選手が大半かもしれない。それでも、ピッチに立っているチームメイトを応援する。勝利のために。仲間のために。青森山田のために。
試合前に撮影されたプレミアリーグファイナルの集合写真では、この試合のメンバーに入っていない2人の緑のユニフォームが、チームメイトによって掲げられていた。1つは22番で、もう1つは7番。前者は3年生の関口豪のもので、後者は2年生の谷川勇獅のものだ。
ファイナルに臨む青森山田の集合写真。7番と22番のユニフォームも
関口は9月に左ひざの大ケガを負ったため、在学中の戦線復帰は困難に。中学校から6年間を過ごしてきた青森山田での集大成の時期に、その状況を強いられた本人の無念は察して余りある。それから試合前の“集合写真”には22番のユニフォームとともに収まるのが定番になり、仲間たちは『豪の分まで戦う』という意志を示してきた。
谷川も今季は不動のボランチとしてリーグ戦にスタメン出場を続けてきたが、選手権予選の前に負傷離脱。ようやく松葉杖こそ取れたものの、メンバー入りは叶わず、この日のファイナルでは関口同様にサポートメンバーとして、試合に臨む選手たちのサポートに回っていた。
それは前半の中頃のこと。山本のユニフォームが破れるアクシデントが発生し、ベンチに戻って着替える一幕があった。4番が着ていたそれをいったん脱ぐと、その下から現れたのは22番のユニフォーム。キャプテンは同じポジションで中学時代から切磋琢磨してきた同級生の想いを纏って、決戦の舞台に挑んでいたのだ。
90分。1点ビハインドの状態から執念で追い付くと、スタンドの応援団が声援のボルテージを二段階は上げる。90+4分。みんなの願いを託された津島が、1対1で向かい合ったGKの位置を冷静に見極め、右足で流し込んだボールは、ゴールネットへゆっくりと転がっていく。
9番を背負ったストライカーは、なかなか結果に恵まれないシーズンを送っていた。番号が表すようにエースとしての役割を期待されながら、ケガに見舞われることも少なくなく、気付けばベンチから出場を窺う立ち位置に。プレミアでは1ゴールしか挙げられず、悔しい感情を抱えながら、それでもメンタルを何とか保って、ここまで前を向き続けてきた。
そんな男が決めた超劇的な決勝ゴール。歓喜のダッシュを見せた津島の辿った“ルート”に、彼の想いが凝縮されている。「ベンチのみんなが駆け寄ってくれたので、まずは喜びを分かち合って、あとは昨日の夜からバスで遠い中を来てくれたスタンドの仲間たちがいたので、そこに行って喜びました」。
決勝ゴールを挙げた青森山田・津島巧
試合に出られない悔しさは、嫌というほど味わった。だからこそ、夜中に出発したバスに乗り込み、青森から10時間近い時間を掛けて埼玉まで駆け付け、必死に声援を送り続けてくれたチームメイトたちの心の内は、誰よりも自分がよくわかっている。緑の大応援団から発せられた喜びの咆哮が、スタンドに走り寄ってきた9番の頭上に心地良く降り注いだ。
アップエリアにいた関口は、試合が終わってしばらくしても涙が止まらない。優勝の瞬間にピッチへと飛び出していった谷川の表情には、笑顔があふれている。試合の登録メンバー18人での記念撮影がいったん終わると、彼らも含めた5人のサポートメンバーも呼び込まれ、その数は23人にまで増える。
「かなり苦しいゲームでしたけれども、我慢していればいいことがあるということで、失点した後も決して諦めることなく頑張ってくれた選手たちの、逞しさと諦めない気持ちには私自身も本当に感謝していますし、その結果が優勝ということで、本当に良かったと思います」。就任1年目でプレミア制覇を達成した正木昌宣監督が胸を張る。
ピッチの選手も、ベンチの選手も、スタンドの選手も、それこそコーチングスタッフも、全員で築き上げてきた一体感を信じ、最後まで勝利を諦めなかった青森山田は、やはりどのチームよりも強かった。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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