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国立競技場
東京・国立競技場に6万1683人の観衆を集めて行われたJリーグYBCルヴァンカップ決勝では、アビスパ福岡が2対1で浦和レッズを破って、クラブ史上初めてのタイトルを獲得した。
試合は2対1の最小得点差だった。そして、後半の途中からは浦和が一方的にボールを握って猛攻を続けた。しかし、内容的には「福岡の完勝」といってよかった。
戦力的には、日本代表経験者を並べる浦和の方が明らかに上だった。控え選手の層でも、浦和に一日の長があった。
しかも、決勝戦の舞台は東京・国立競技場。およそ3対1の比率で浦和サポーターの数が多く、浦和は国立決戦を何度も経験している。明らかに浦和の“準ホーム”といった状況だった。
気温が25度を超える季節外れの暖かさ(暑さ)の中で始まった決勝戦(公式記録では気温は24.1度)。先手を取ったのは福岡だった。4分に右サイドを崩し、ワントップの山岸祐也からのボールをボランチの森山公弥がシュートして最初のCKを獲得。紺野和也が蹴ったボールをニアで森山が頭で合わせる。
そして、そのまま攻勢を続けた福岡は中盤でボールを拾った前寛之が右サイドに開き、紺野がショートドリブルで切れ込んでから入れたグラウンダーのクロスに前が合わせて、早くも福岡が先制した。
本来はボランチならがシャドーで起用された前と、右サイドのドリブラーであり、福岡に加入してからプレーの幅を大きく広げた紺野のツーシャドーが本当に効果的な働きをした。
攻撃面では、先制点の場面でもそうだったが、紺野と前が浦和の守備陣を切り裂いた。
浦和は、いつもと同じ4バックだった。中央をアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンの強力センターバックが固め、左右のサイドバック(右が酒井宏樹、左が荻原拓也)はかなり攻撃的だ。
福岡が狙ったのは、CBとSBの間の間隙だった。タッチラインいっぱいに開くのではなく、一つ中のレーンを前と紺野が狙い続けた。そして、ウィングバックの湯澤聖人(右)と前嶋洋太(左)がそれをフォローする。
浦和の守り方を分析したうえで、徹底してCBとSBの間のスペースを狙わせたのだ。
これで、前と紺野の動き方がはっきりした。前が先制点を決め、紺野はツーアシスト。2人が勝利の立役者となった。
守備でも、福岡はとても戦略的に考えた守備をした。
前線からプレッシャーをかけるのは当然だ。しかし、けっして、そこで無理にボールを奪いにいくことはない。
そこで、無理してボールに対してアタックをかけると、それをかわされたり、パスをつなげられると、ひっくり返されて一気にピンチを招いてしまう。
だから、無理にボールを奪いに行くのではなく、浦和のパスコースを消して攻撃を遅らせルことに徹したのだ。スリーバック(右からドウグラス・グローリ、奈良竜樹、宮大樹)も相手の中盤でのパス回しに食いつくことなく、最後までスペースを埋め続けた。
こうすることで、浦和はボールを握った場面でも攻撃のテンポを上げることができなくなってしまった。
前線にパスをつけたくてもスペースがない。ドリブルで運びたくても、相手選手がコースを切ってしまう。
テンポが上がらず、苛立ちが募る浦和の攻撃陣。スペースを消されてボールを下げてしまったり、パスが乱れて相手にボールを渡してしまったり、ラインを割ってしまう場面も増えた。
こうして、前半は、浦和は攻撃の糸口を見つけられないままに終わった。
それでも、1点のビハインドであれば、ハーフタイムを挟んで立て直すことは難しくなかったかもしれない。だが、前半のアディショナルタイムに、福岡は大きな2点目をゲットする。
左サイドのCKを紺野が蹴り、そのボールを跳ね返された場面からつないで、CKのキッカーとして左にいた紺野がドリブル。1点目と同じように、低いグラウンダーのクロスを入れると、DFの宮が合わせて貴重な追加点を奪った。
こうして、攻守ともに具体的な狙いを持って戦った福岡が支配して前半が終わった。
後半も、試合のリズムは変わらなかった。
50分には浦和がチャンスの芽をつかみかけた場面があった。右サイドから安居海渡を経由して、左サイドバックの荻原にボールが渡ると、福岡のスライドが遅れたように見えた。荻原が一気にドリブルで崩せばチャンスにつながる場面だった。
だが、前方にスペースが見つからなかったのだろう。荻原は突破を諦めてスローダウン。上がってきた安居に渡したものの、安居もすぐに展開できず、浦和はチャンスの芽を摘み取られてしまった。
55分には、右サイドで紺野が上がってきたドウグラス・グローリを使い、D・グローリが強引に突破を図ったところでファウルを受けて福岡にPKが与えられた。
これが決まって入れば、福岡が勝利に大きく近づくはずだったが、山岸が蹴ったPKは浦和の守護神、西川周作がストップ。これで、ゲームの流れが大きく変わった。
浦和のマチェイ・スコルジャ監督はハーフタイムに安居と大久保智明を投入したのに続いて、福岡がPKを失敗した直後の61分にはブライアン・リンセンと明本考浩を起用。ホセ・カンテとリンセンのツートップにして、両ウィングには右に大久保、左に明本を置く4-2-4。そこに、SBの酒井もトップまで上がって、ターゲットとしてその高さを生かした。
こうして、60分以降は浦和がボールを握り続け、それまで足りなかった強引さも加わって、猛攻を続けることになった。
浦和は攻撃を続けた。そして、67分には酒井のクロスボールをうまくコントロールした明本がGKの股下を抜くシュートを決めて1点を返し、なおも福岡ゴールを脅かし続けた。アディショナルタイムにはホセ・カンテのシュートが左のゴールポストに当たる場面もあった。
だが、一方的にボールを握って攻勢をかけるものの、浦和はなかなか決定機を作ることができなかった。攻撃の効率性と言う意味では、福岡がはるかに上回っていたのだ。
浦和レッズというビッグクラブ相手に真っ向から戦いを挑み、相手の分析に基づいて好守の狙いをはっきりさせた福岡。後半はピンチの連続だったとしても、内容的には「完勝」と言っていいものだった。
今シーズンの福岡は、J1リーグでは現在8位という好位置につけ、カップ戦ではルヴァンカップで優勝し、天皇杯でも準決勝敗退という見事な成績を残した。戦力的にはけっして恵まれたクラブではない福岡というチームを率いて、これだけの成績を収めた長谷部茂利監督の手腕は高く称えられるべきだろう。
「これからは分析される側になる」という長谷部監督の言葉が誇らしげだった。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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