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プレミアを戦う選手の幸せと指揮官の苦悩。米子北高校の勇敢な挑戦はまだまだ終わらない 高円宮杯プレミアリーグWEST ヴィッセル神戸U-18×米子北高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史後半戦に入って好調の続く米子北高校
「僕のストレスがまず違いますよ。いつも勝っても、負けても、次があるなと(笑)。これが楽しかったと思えるのは、何年か経った後かもしれないですよね。彼らが卒業して、あの時に成長したのはプレミアのおかげだなと思ってくれたりしたら、ね」。
5年ぶりにプレミアリーグへ帰ってきた米子北高校を率いる中村真吾監督は、そう苦笑ながらも、一方で楽しそうでもある。後半戦は4連勝を達成するなど結果も付いてきており、現時点でまだ優勝の可能性を残す4位に付けているのだ。一定の充実感を覚えていないはずがない。
キャプテンの上原颯太は、今季のプレミアで好調を続けているカギは開幕戦にあったと見ている。「プレミアでは技術面も絶対に相手の方が上手いと思っていたので、不安もいっぱいあって、『ウチらで勝てるのかな』という想いはあったんですけど、開幕戦のジュビロ戦で格上だと思っていた相手にあれだけの試合ができたことが1人1人の自信にも繋がったので、それは大きかったのかなと思います」。
そのジュビロ磐田U-18戦は前半で先制。終盤に同点弾を許し、結果は1‐1のドローだったが、選手たちは勝利を掴みかけた一戦に小さくない勇気を得ていたという。ちなみにその試合は71分に退場者を出しており、そこから追い付かれた経緯はあったのだが、誰が退場したかはあえて伏せておこう。
昨年から右サイドバックのレギュラーを張ってきた梶磨佐志は、後半戦に入ってセンターバック起用が続いている。「サイドバックをしていた時よりは、自分のところでやられたらそのまま失点にも繋がるので、気持ち的には凄くキツいんですけど、ずっとセンターバックを積み重ねてきたことで、自分でも自信が付いてきましたね」。
第13節からはなんと5試合連続でのクリーンシートも記録。その素晴らしい成果に“新米センターバック”が大きく貢献していたことは言うまでもない。本人も今は新たなポジションへ前向きに取り組んでいるようだ。
米子北高校・梶磨佐志(2番)
「チームによって全然プレースタイルも違って、フォワードの動きも毎試合違うので、どの場面でどういう動きをするのかというのは凄く勉強になりますし、負けた試合でフォワードにやられたら、次はそこを修正しようと考えますし、毎週成長できる試合が続いていると思います。勝っていたら『どんな相手が来ても負けない』という気持ちでやれますし、そういう時はゴールを守ることも楽しいと感じています」(梶)。
選手たちから聞いたポジティブな発言を伝えると、「たぶん選手はやる気満々でやっているので、監督だけがストレスを抱えているんです(笑)。どこと戦う時も前向きにやってくれているので、そこは彼らのメンタルが強いというか、もともと持っているものかもしれないですね」と話した中村監督だが、どうやら前節の試合には納得が行っていなかった。
6戦無敗で迎えたホームの横浜FCユース戦。首位と4ポイント差の3位という状況に、選手たちはどこか守りに入ってしまう。結果は1‐2で敗戦。「現状をキープしようとしてやられた感じがあったんです」(中村監督)。久々の黒星を経て、チームは改めて自分たちのやるべきことを見つめ直す。
この日のヴィッセル神戸U-18戦は、前半のうちに2点を先行される苦しい展開を強いられたが、「先週よりはみんなやる気も出せていて、『絶対に負けない』という気持ちもあったと思います」と梶も言及したように、後半は米子北が押し込む時間帯も。試合自体は0‐2で敗れ、今季2度目の連敗を喫したものの、指揮官は確かな手応えを感じていた。
「負けていても『自分たちはできるんだ』『追い付けるんだ』という気持ちもあって、前向きな声も凄くありましたし、前期は目の前のプレーで精一杯みたいな感じでしたけど、今はただ頑張るだけじゃなくて、その1つ先のプレーを選択しようとしていて、上手くは行かなかったですけど、今日はチャレンジャーの気持ちで戦えたなと。結局勝っていた時はそういう気持ちでやっていたので、この間の負けで良い勉強をさせてもらった中で、凄く前向きに捉えられる負け方だったと思います」。同じ負けでも、質の違う2つの負けを経験できたことが、これから突入していくシーズンの最終盤に向けて、大きな糧になることは約束されていると言っていいだろう。
プレミアという舞台で戦うことの意義を、中村監督は米子北を取り巻く周囲の環境からも実感している。「本当に身内以外のサッカーが好きな方にも『神村が見たい』『静学が見たい』と試合に来ていただけたり、高校のチーム、中学のチーム、小学校のチームも来てくれますし、鳥取県のサッカー協会を巻き込んで、試合の日に幼稚園のサッカー教室をやったりしているんです。それこそエスコートキッズもいろいろな小学校に声を掛けた中で来てくれて、その親も来てくれて、という感じで、地域に還元できることが少しでもあればと考えていますし、チームを応援してもらえる環境もプレミアだと作りやすいので、それは選手たちの大きな力になっていると思います。僕の同級生も島根から4,5人で見に来てくれましたよ(笑)」。
「やっぱり子どもたちの応援が相当力になりますね。あれは自分が負けそうになった時に奮い立たせてくれるものですよ。そう簡単には負けられない感じもあって、その中で1試合1試合一生懸命やった結果として今の位置にいるわけです。それでちょっと上が見えてきたら2連敗すると(笑)。でも、上位にいるってこういうことかなと思いますし、あと3試合はせっかく与えられた成長のチャンスなので、気負わずに、思い切ってやろうと思っていますけどね。まあ、死ぬ気でやりますよ」。
米子北高校・上原颯太
上原の決意が力強く響く。「久しぶりのプレミア参戦ということで、前よりも良い結果を残すことはもちろん、自分たちは残留というよりはファイナルを目指してやってきたので、目標を高く掲げたからこそ、こういう結果が出ているのかなと思います。もともと僕は中学生の頃もプレミアを見ていて、『米子北なら出られる可能性があるな』と思ってここに来たところもあったので、そこでやれているのは嬉しいですし、去年の先輩たちが頑張って残してくれたものがあるので、今年は後輩たちにファイナルの経験を残してあげたいなと。まだ可能性はあるので、そこを目指して頑張りたいなと思っています」。
ここから戦う3試合の中には、ここまで7勝1分け2敗と圧倒的な勝率を誇るホームで、現在首位を走るサンフレッチェ広島ユースを迎え撃つビッグマッチも残されている。チームのために。自分たちのために。そして、応援してくれる地域の方々のために。国内最高峰のステージを逞しく戦い抜いてきた米子北が、真剣に頂点を狙うラストスパートからも目が離せない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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