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先発出場の久保建英
チュニジアは5人のDFを並べて守備を固めてきた。前回のワールドカップに出場したチュニジアは現在のFIFAランキングが29位(日本は19位)。「個の力」も高い。それだけの強豪国が守備を固めてきたのだから、そう簡単に攻め崩せなかったのは当然だろう。
昨年6月のキリンカップでは、日本代表はチュニジアに攻撃を封じられ、カウンターから失点して完敗を喫している。
しかし、今の日本代表の対応力は素晴らしい。ボール・ポゼッションで圧倒的に上回って攻撃を続けるものの、なかなか得点が生まれない……。そんな状況でも、けっして焦ることなく、たえず相手のカウンターに気を配りながら、丁寧にパスをつないで攻撃を繰り返したのである。
ボールを奪われてもすぐに回収して、チュニジアに攻撃の機会を与えなかった。
そして、実際に前半が終了する前に、ゴールを取り切ってしまったのだ。
森保一監督は10月シリーズで堂安律や鎌田大地の招集を見送り、さらに三笘薫や前田大然らが招集を辞退するなど、日本代表は主力級の何人かが抜けた状態だった。従って、新潟でのカナダ戦も、神戸でのチュニジア戦も最強メンバーというわけでもなかった。
また、ヨーロッパからの長距離移動のせいで、選手たちのコンディションも万全ではなかった(少なくとも、9月のドイツ戦やトルコ戦に比べると明らかに今回の方がコンディションは劣っていた)。
だが、チーム状態が万全でなくても、相手が守備を固めてきても、それでも慌てずに戦って、しっかりと勝利を手にする……。日本代表は本当に強くなった。
森保監督が語ったように、チュニジアが守備的な戦いを選択してくれたおかげで、11月から始まるアジアとの長い戦い(ワールドカップ予選およびアジアカップ)に向けてのよいシミュレーションとなった。
戦術的対応力も柔軟だった。
チュニジア戦では久保建英が先発した。トップ下のポジションである。レアル・ソシエダードでは右サイドを主戦場としている久保だが、日本代表では伊東純也という存在があるため、トップ下で起用されることが多い。
そこで、伊東が中に入って、久保がサイドに開いてみたり、久保が下がり気味で前線の伊東を走らせたりと、2人の間でポジショニングに関してさまざまな工夫をしていた。
だが、それでも久保が右サイドでプレーする事が多いため、どうしても左サイドの攻撃が手薄になってしまう。三笘や前田が不在のため、チュニジア戦で左サイドを任されたのは旗手玲央だったが、旗手は代表でこのポジションを務めるのは初めてだった。
こうして、左サイドの攻撃はなかなか活性化しなかった。
すると、後半開始と同時に遠藤航とともにボランチを務めていた守田英正がポジションを上げて、久保と並んで左のインサイドハーフとなったのだ。これで、左右のバランスも取れるようになった。
ガンバ大阪でもプレーするI・ジェバリの攻撃を阻む守田
ところが、63分に旗手に代わって浅野拓磨が起用され、同時に左サイドバックも中山雄太が町田浩樹に代わった。すると、守田は再びポジションを下げたのだ。
森保監督によれば、このポジションチェンジは「選手の判断によるもの」だったそうだ。
チュニジアが後半から右サイドバックにヤン・バレリーを入れて、日本側から見て左サイドの攻撃力を強めたこともあって、ピッチ上の選手たちは守備強化の必要性を感じたのだろう。
現在の日本代表の主力選手は、各国リーグのビッグクラブでプレーしており、ハイレベルな試合を日常的に体験している。
それだけに、ピッチレベルで彼らが感じ取る“感覚”は貴重なものだ。そして、そのことを承知している森保監督は、極力彼らの意見を取り入れようとしている。選手の感覚。コーチ陣の構想。森保監督が、そうした様々な意見をうまく集約することによって、今の日本代表は非常に風通しがよくなっているようだ。
そして、それが結束を生む。
圧倒的なフィジカルを持つ鈴木彩艶
この試合、試合展開とは別に僕はGKとして起用された鈴木彩艶に注目していた。
かつて、GKというポジションは日本の弱点と言われていたが、最近はつぎつぎと若いGKが育ってきている。しかし、そんな中でも21歳の鈴木のフィジカル能力は圧倒的なものがある。
体のサイズ、ジャンプ力、あるいはキック力。鈴木が本気でパントキックを蹴ると、あまりに伸びすぎて相手陣のゴールラインを割ってしまうことも珍しくない。
鈴木が、国際経験を積んで成長していけば、GKというポジションは日本の弱点どころか、ストロングポイントにすらなりうるのだ。
その鈴木が本格的に日本代表にデビューした。
ところが、チュニジアは防戦一方でシュートは後半のアディショナルタイムまで1本も飛んでこなかった。前半は、27分に(日本側から見て)右サイドからのハイクロスをジャンプしてキャッチしただけ。あとは、鈴木の仕事はバックパスされたボールの処理だけだった。後半も同じような展開だったが、試合の最終盤にヒヤッとする場面が生まれ、アディショナルタイムにはハイセム・ジュイニにヘディングシュートを許し、シュートがゴールポストに当たる場面もあった。一方的な試合におけるGKの難しさだ。
しかし、それでもゴール前での鈴木のプレーのスケールの大きさは十分にみることができた。将来が、とても楽しみなGKである。
一段と“凄み”を増した遠藤航
もう一つ、目についたのが遠藤航の進化だった。
もちろん、遠藤は素晴らしい守備能力を誇るボランチで、カタール・ワールドカップ終了後、森保監督からキャプテンを任されてきた。だが、10月の2試合でのプレーを見ると、一段と“凄み”を増していた。
つまり、ボールを奪ってからの展開が速くなったのだ。奪って、前を向いて、前線の味方に正確なパスを付ける一連の動きである。
ブンデスリーガで毎年のように残留争いに巻き込まれていた遠藤は、今や世界最強クラブの一つのリバプールに移籍して、厳しいポジション争いの渦中に身を置いている。それが、彼をさらに一段と飛躍させたのだろう。
守田と組んだボランチは非常にハイレベルなものだった。ただ、遠藤が“替えのきかない”選手になってしまった。遠藤のバックアップ探しも、これからの課題の一つになるだろう。
相手がどんなスタイルであっても、あるいはどんな戦い方を選択してきても、しっかりと対応できる日本代表。アジア予選に向けて、死角はないように見える。唯一の懸念は長距離移動などピッチ外での問題をどう克服するか、だ。森保監督のマネージメント能力が試される。
伊東純也の追加点で 2-0 の完封勝利
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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