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サッカー フットサル コラム 2023年10月5日

J2甲府のACLでの勝利の意味 緻密な戦術サッカーが“個の力”を封じる

後藤健生コラム by 後藤 健生
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新国立競技場

国立競技場

10月3日、4日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージ第2節が行われ、日本から参加した4クラブすべてが勝利した。9月に行われた第1節では昨年のJ1リーグ覇者、横浜F・マリノスがホームゲームで韓国の仁川ユナイテッドに敗れるなど日本勢の成績は1勝2分1敗に終わっていた。だが、第2節では“黒星スタート”の横浜FMが中国・済南に遠征して山東魯能泰山に勝利するなど、参加4クラブがすべて勝利したのだ。

もちろん、第2節は横浜FM以外の3クラブはすべてホームゲームだったのだが……。

今シーズンのACLで僕が注目しているのはJ2リーグ所属のヴァンフォーレ甲府の戦いぶりだ。J2リーグが東アジア各国のトップリーグ相手にどれだけ戦えるのか……。その戦いからは、日本サッカーの“現在地”を知ることができるだろう。

日本代表は、今では間違いなくアジア最強の地位にある。

東アジアのライバル韓国に対しては、ここ数年各カテゴリーの代表チームがほとんど勝利しているし(それも、なぜか3対0というスコアでの勝利だ)、中国のサッカーは低迷を続け、台頭してきた東南アジア勢も日本とは実力差が大きい。

西アジアに目を向けても、長らくアジア最強の地位にあったイランでは政府の干渉が原因でサッカー界が大混乱に陥っているという。

では、日本はクラブレベルでもアジアをリードする存在となれるのだろうか?

それが難しいのは、日本では代表クラスの選手のほとんどがヨーロッパのクラブでプレーしているからだ。

日本代表がドイツに連勝するほど強化できたのは、多くの選手がヨーロッパでハイレベルの試合を経験したからだ。だが、クラブチームの大会では、選手の海外流出は不利な材料となる。そのうえ、かつての中国や現在のサウジアラビアのように各国代表クラスの外国人選手が加わっているクラブも多い。ACLでもかつては外国人選手の数に制限があったが、その制限も撤廃され、外国人選手の質が勝負を分けることになりかねない。

日本とは違って、アジアの多くの国では海外でプレーする選手はほとんどいない。韓国やイランではかつては多くの選手がヨーロッパでプレーしていたが、最近では海外組はめっきり減っている。サウジアラビアに至っては、代表選手のほとんどが国内クラブ所属である。

昨シーズンのACL決勝では、浦和レッズが強力な守備とカウンターを武器にサウジアラビアのアル・ヒラルに勝利したが、個人能力としてはアル・ヒラルの方が間違いなく上だった。

だから、代表チームがアジア最強といっても、日本のクラブがACLを制覇するのはそれほど簡単なことではないのである。

そんな中で日本のクラブは何を武器に戦っていくべきなのか。武器となりそうなのは、日本のサッカーの戦術能力しかない。

情報化が進み、世界最高峰レベルの試合を映像で簡単にチェックスすることができる時代では、ヨーロッパでの最新戦術はアジア各国にもすぐに流入する。

たとえば、「サイドバックがインナーラップを使って攻撃参加する」であったり、「GKがロングキックを蹴らず、DFとパス交換を使うビルドアップをする」。

そんな最新のトレンドをどのクラブも取り入れている。

しかし、戦術的な洗練度という意味では、Jリーグはアジアで最も優れている。

「サイドバックの攻撃参加」を本格的に取り入れたのは、アンジェ・ポステコグルー監督の横浜FMだった。タッチライン沿いにオーバーラップするだけでなく、中のレーンを使ってのインナーラップ。サイドバックは、相手陣内のバイタルエリアまで進出して、フィニッシュ段階でのパス出しも担う。

最初に、横浜FMがこうした動きを取り入れた時には目を見張らせられたものだが、今では多くのチームがサイドバックの攻撃参加を取り入れている。J1リーグだけではない。J2リーグでも、J3リーグでも、さらにJFLなど下部リーグでも今ではサイドバックの攻撃参加は当たり前の戦術となっている。女子のU-15クラスでも普通にそうした動きをこなすチームがある。

日本のチームの戦術的な緻密さがアジアでは最高レベルにあることは間違いない。それを、J2リーグの甲府に証明してもらいたいのである。

そういう意味で、甲府が第2節で戦ったブリーラムFCは恰好の相手だった。

ブリーラムはタイ北東部のブリーラム市を本拠地としたチームで、地元の有力政治家がスポンサーとなって資金を投入して強化。現在、タイ・リーグ2連覇中という強豪だ。かつて横浜FMでプレーしていたティーラトンをはじめ、タイを代表するような選手やヨーロッパで年代別代表経験のある選手を何人も擁している。

J2リーグの甲府が、こうした個人能力の高い選手たちとどう戦うのかに注目したが、甲府は期待通りに戦術能力で相手の攻撃を封じ込めた。

相手陣内の高い位置から中盤でのプレスのかけ方で上回って、相手に思ったようなプレーをさせずに狙った位置でボールを奪う。それによって、甲府はポゼッションで相手を上回った。ブリーラムはワントップのロンサナ・ドゥンブヤの突破力や左サイドラミル・シェイダエフのドリブル。中盤でのティーラトンのパス回しやミドルシュートなど、いわゆる「個の力」を使って決定機を作ったが、試合全体としては甲府が上回っていた。

しかし、アタッキングサードでの精度を欠いたため甲府もなかなか得点機を作れないまま時間が経過した。ワントップで先発したピーター・ウタカもすでに39歳。かつてのような破壊力は影をひそめてしまっていた。

後半も攻勢は続き、スコアレスドローも見えてきた中で、甲府は時間の経過とともに着実に攻撃力を高めていった。ブリーラムの選手たちの足が止まったのを見極めて、甲府はクリスティアーノや長谷川元希といった攻撃力のある選手と投入してギアを上げていった。

そして、ついに終了間際にクリスティアーノのクロスを長谷川がヘディングで決めて、劇的な勝利を収めた。

90分間のゲームプランを考え、試合中にディテールを修正しながら、交代を使って相手を追い詰めて勝利をつかみ取ったのだ。「選手層」も含めて、J2リーグの甲府はタイ最強クラブを上回った。甲府の勝利は、日本サッカー全体の勝利ということができる。

甲府は初戦でオーストラリアに遠征してメルボルン・シティと引き分けており、第2戦を終えてメルボルンと勝点で並び、総得点数でメルボルンが首位に立ち、甲府は2位となっている。最強の相手メルボルンとはすでにアウェーゲームを済ませているので、グループステージ突破の可能性も大いにある。何しろ、甲府が所属するグループHには、東アジアでの日本の最大のライバルである韓国のクラブが不在なのだ。

これからも、甲府の試合には注目していきたい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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