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サッカー フットサル コラム 2023年9月19日

とうとう帰ってきた『左の翼』。川崎フロンターレU-18・岡野一恭平が携える感謝とさらなる成長欲 高円宮杯プレミアリーグEAST 前橋育英高校×川崎フロンターレU-18マッチレビュー』

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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川崎フロンターレU-18・岡野一恭平はボールを持ったらドリブル勝負

左サイドで仕掛け続けるその姿は、以前と何も変わらないように映る。ボールを持ったら、まずはドリブル勝負。爽快感すら覚えるようなプレースタイルが、チームに圧倒的な推進力を加えていく。

「ケガをしていた期間はいろいろな人に支えてもらいましたし、そういう人たちには感謝しかないですね。もう自分は結果で恩返しするしかないので、もっとゴールを決めて勝利に貢献できるようにしたいです」。

1年近い戦線離脱を経て、とうとう帰ってきた川崎フロンターレU-18が誇る『左の翼』。岡野一恭平は多くの人への感謝と、さらなる成長へのあふれるような意欲を携えて、プレミアのピッチを駆け回っている。

前橋育英高校と対峙するアウェイゲーム。川崎U-18のスタメンリストには岡野一の名前が書き込まれる。9月のウインドーでメンバー登録されてから、これで3試合続けての先発出場。前節の流通経済大柏高校戦ではゴールも記録するなど、好調を維持した状況でこの日の試合に挑む。

1点をリードした前半43分。左サイドのCKをショートで始めると、名賀海月の正確なクロスに岡野一が飛び込む。「ショートコーナーの用意はしていたんですけど、海月から本当に素晴らしいボールが来たので、オフサイドに掛からないように流し込むだけでした。ヘディングは珍しいです(笑)。まあ、たまたまですね」とは本人だが、これで2戦連発。チームに貴重な追加点をもたらしてみせる。

ただ、後半には2度の決定機を迎えながら、1つはゴールポスト、1つは相手GKのファインセーブに阻まれ、自身の2点目は生まれず。「守備陣は本当に身体を張ってゼロに抑えてくれていたので、自分が決め切れれば、もっと楽な展開になったと思いますし、あまりに外しすぎたので、ゴールよりもそっちの印象しかないですね」と反省しきり。チームの勝利は喜びつつ、個人のパフォーマンスには納得の行かない表情を浮かべていたものの、そもそもこうしてピッチに立っていること自体が、彼の苦しい時間を見守ってきた周囲にしてみれば、何より嬉しいことなのだ。

プレミアリーグ初昇格のシーズンを送っていた、昨季の川崎U-18。開幕からスタメン起用されていた岡野一だったが、「1年生の頃はちょっとだけ手応えがあったので、『2年生が勝負だな』と思ってやっていたんですけど、良い日と良くない日の波があって、メンタル的にも自信も掴み切れないような時期がありました」と振り返るように、なかなか自らの出来に手応えを得られない。

そんな矢先に抱えていた腰痛が悪化し、戦線離脱。1か月ぶりにメンバー入りしたアウェイのFC東京U-18戦では後半の途中から登場するも、10分あまりの出場で腰の痛みが再発し、無念の交代。「あの試合に懸ける想いは強かったので、悔しかったですね」という岡野一は、ベンチで顔を覆って涙を流した。

それでも9月にはリーグ戦に復帰すると、等々力で開催された横浜FCユース戦では半年ぶりとなるゴールも叩き出し、さらなる活躍が期待された矢先に、その悲劇は起こる。翌週にアウェイへ乗り込んだ桐生第一高校戦。前半15分過ぎに相手との接触で倒れた岡野一は、そのまま交代での退場を余儀なくされる。

「接触した時にとんでもない痛みが来たので、『これはヤバいな。終わったな』と思いました。もう痛すぎて動けなかったですし、それから2、3日はケガの診断名がわかるまで時間があって、『ただごとではないな』と思っていたので、半年ぐらい掛かるかなと思っていたんですけど、ヒザの前十字靭帯断裂で全治も8か月ぐらいということを聞いて、かなり落ち込みました」。

だが、悩んでいても仕方がない。「もう『リハビリを一生懸命やるしかない』と思いました。ケガをしてから手術までに1か月ぐらいあったので、すぐに朝と夜に1日2回のリハビリをして、しっかり治すことだけを考えてやっていました」。懸命に気持ちを切り替え、約束のピッチへと戻るための地道な道のりを歩み出す。

とりわけその時期に感じたのは、無償の愛を注いでくれる家族への強い感謝だったという。「両親とお兄ちゃんには本当に感謝しています。ケガをした時は一歩も動けなかったですし、朝早く起きて学校の送り迎えもしてくれましたし、普通の生活すら自分で1人ではできなかったので、何から何までやってもらったことへの感謝の気持ちが一番強いですね」。

2022年シーズンでプレミアEAST制覇を果たしたチームは、今季も開幕から上位をキープ。こつこつとリハビリを重ねてきた岡野一は、走ることも、ボールを蹴ることも、段階を踏んで許される。「やっぱりボールを蹴るの、楽しいですね。リハビリしながらみんなのプレーを外から見るより、実際に自分がプレーする方が全然楽しいです」。以前なら何も考えずにできていたような1つ1つのことも、それが当たり前ではないことを実感していく。

「正直ケガした時に一番恐れていたのが、自分のドリブルが元に戻らずに、活躍できなくなって、そこで終わってしまうことだったんですけど、リハビリもとにかくやれることをしっかりやったので、復帰して最初の方はブランクを感じたんですけど、特徴を見失うようなことはなかったです」。その繊細な感覚は失われていなかった。前橋育英戦でも再三に渡って左サイドでドリブル勝負を挑み、相手に鋭い脅威を突き付け続けるアグレッシブさが印象的だった。

今は大きなケガをした自分だから、できることがあると思っている。「自分の特徴のドリブルはケガする前よりもっとどんどんやりたいんです。きっと僕より難しい状況にあったり、同じようなケガをしている人も少なくないはずなので、そういう人たちにも自分のプレーで勇気を与えたいなと思っています」。背負った責任は小さくないが、それを果たす覚悟は定まっている。

次節の舞台は等々力陸上競技場。去年は2試合でゴールを記録しており、相性の良さは自分でも感じている。「たくさんの人が来てくれると思うので、見ていて面白いサッカーをとにかくしたいですし、その中でしっかり勝って、ユースは強いということを証明して、優勝に繋げていきたいなと思います。個人としては自分の特徴を出して、『ボールを持ったら面白いな』と思ってもらいたいですね。あとはやっぱりいろいろな人の支えがあって、楽しくサッカーができているので、だからこそ活躍して恩返ししたいなという気持ちが一番強いです」。

携えるのは多くの人への感謝と、さらなる成長へのあふれるような意欲。川崎U-18に帰ってきた『左の翼』。岡野一恭平が期す周囲への“恩返し”は、まだまだこんなものでは終わらない。

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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