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上州のタイガー軍団を束ねる不動の守護神。前橋育英高校・雨野颯真が信じている2つの“成長の余地” 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史前橋育英高校・雨野颯真
昨年は夏の日本一もレギュラーで味わった。最近では年代別代表にも選出され始めている。その経験値は群を抜いているからこそ、自分がこのグループの中で果たすべき役割についても、十分過ぎるほどに自覚的だ。
「キーパーのワンプレーはチームにとっても大事だと思っていて、失点したら悪い流れになってしまいますし、自分が止められればゲームも変わっていくはずなので、自分が流れを変える選手にならないといけないと思います。去年は3年生主体で頼っていた部分もありましたし、自分しか去年を知っている選手がいないので、自分がチームを引っ張っていこうと思っています」。
上州のタイガー軍団、前橋育英のゴールマウスを託された不動のGK。雨野颯真はキャプテンとしても、守護神としても、チームを最後方から牽引していく覚悟を常に携えている。
それは5月のことだ。「自分たちが弱いことはわかっていたので、弱いなりに戦うことは決めていて、去年のようにうまくはいかないですけど、もっと泥臭くやるとチーム的にもそう決めているので、逆に弱いところが自分たちの良いところかなって。そこは伸びしろに繋がりますし、良い意味で注目も浴びられていないので(笑)、それでリラックスしてやれている部分もあると思います」。雨野は少し笑顔を交えて、こう語った。
苦しいシーズンスタートだった。新人戦の準決勝では、県内最大のライバル・桐生第一に1-2で敗退を突き付けられる。スタメンリストを眺めても、昨シーズンの公式戦で見た名前は雨野ぐらい。あとの選手はほとんどがAチームの公式戦は未経験であり、率直に言って自信のなさそうな空気感が記憶に残った。
「前半は少し耐えられた部分もあったんですけど、後半は運動量がチーム全体で落ちて、その中で失点してしまったのが大きかったです」。4月2日。プレミア開幕戦を終えたばかりの雨野は、そう話して肩を落とした。昨年度王者の川崎フロンターレU-18との一戦は0-3の完敗。チームの完成度の違いをまざまざと見せつけられた選手たちは、顔色も声も失って会場を後にしていった。
だが、前橋育英はここから反転攻勢に打って出る。第2節の旭川実業高校戦で3-0と快勝を収めると、第3節の流通経済大柏高校戦も1対21という圧倒的なシュート数の差を付けられながら、開始1分にオウンゴールで先制すると、後半に迎えたPKのピンチも雨野が完璧なショットストップを披露し、1-0で辛勝。さらに、第4節の横浜F・マリノスユース戦にも2-0で勝利し、3試合連続完封で3連勝を飾ってみせる。
次節の尚志高校戦には敗れたものの、連敗回避を誓って臨んだ柏レイソルU-18戦では1点をリードされる展開の中、さらに献上したPKを雨野は気合のビッグセーブ。チームはそこから2点を奪い、鮮やかな逆転勝利。「たまたまな部分もあるんですけど、『ここは絶対に止めてやる』という気持ちでPKに挑んでいるので、それが良かったかなと思います」と笑った守護神は、自身が勝ち点を引き寄せられる存在であることを強く印象付けた。
去年のチームを中心で見てきたからこそ、今年のチームの確実な成長も感じている。「フロンターレ戦が終わってから、シュートブロックの部分は徹底していて、それが速いプレースピードの中でやれてきている部分もあると思いますし、去年も試合を通してどんどん成長していった中で、今年はその“伸びしろ”が去年より大きいと思うので、試合を積み重ねていくうちにどんどん成長していると思います」。プレミアリーグでは第9節終了時点で4位。ここからの結果次第では、さらなる上位進出も十分に期待できると言っていいだろう。
個人としては3月に初めてU-17日本代表候補に選出され、アルジェリア遠征を経験。「『パントキックで裏を狙え』と言われたんですけど、自分がサッカーをやってきてそういうことは一度も言われたことがなかったので、自分のサッカー観が覆ったというか、自分も攻撃参加しないといけないですし、代表合宿が終わってから、飛距離を出すためのキック力を上げるように筋トレもしてきて、ちょっとずつですけど飛ぶようになってきたので、それは良い成果が出たかなと思います」と新たな視点も得た。
また、チームメイトたちの見据える高い目線も、小さくない刺激になったようだ。「U-17の代表の中でも、もうJリーグに出ている人も何人かいて、そういう意味では自分は結構出遅れていると思うので、危機感を持ちながらも、そこで焦り過ぎないように、自分のペースでやっていかないといけないと思います」。
インターハイ群馬県予選の決勝。健大高崎高校を下し、県内制覇を達成したキャプテンは、優勝カップを掲げてチームメイトたちと栄冠を喜び合ったが、彼も含めてそういうシーンに何とも慣れていない感じが微笑ましかった。
「それもまた自分たちの良さというか(笑)、まだまだ全然満足している人はいないと思いますし、ここからは全国で優勝することが目標で、まだまだシーズンを通してやることがいっぱいあるので、いったんここは優勝の喜びを噛み締めて、また明日からやっていこうかなと思います」。
気を引き締めつつも笑顔を見せた雨野は、信じている。自分たちの代がまだまだここから強くなっていくための、チームとしての“成長の余地”も、U-17ワールドカップで世界と遭遇するためのメンバー選考を勝ち抜いていくための、自分の“成長の余地”も。前橋育英の、そして雨野の2023年は、まだまだここからが間違いなく面白い。
インターハイ県予選を制したチームは雨野を中心に歓喜のジャンプ!
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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