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タイのバンコクを中心に開かれているAFC U-17アジアカップの準々決勝で、U-17日本代表がオーストラリア相手に3対1で完勝。ベスト4進出を決めるとともに、11月にインドネシアで開催されるU-17ワールドカップ出場権を獲得した。
今では、アジアカップでベスト4に入って世界大会への切符を手にすることは各カテゴリーの代表にとって最低のノルマとなっている。オーストラリア戦で終了のホイッスルが鳴ると、選手たちはピッチ上に崩れ落ちたが、ベンチ前では森山佳郎監督以下スタッフたちが輪になって飛び跳びはねるように喜びを表していた。重圧はあったのだろう。
6月26日に行われたオーストラリア戦は「完勝」だった。
開始直後に攻め込まれる場面はあったが、危な気なく守りきると日本はすぐにチャンスを作り、5分にはツートップの一角の道脇豊(ロアッソ熊本)に深いくさびのパスが入り、相手GKが跳ね返すボールをもう1人のトップの名和田我空(神村学園高)がシュート。シュートは道脇に当たってしまったが、効果的な攻撃だった。
そして、10分には最終ラインから右サイドに出たパスを佐藤龍之介(FC東京)が粘ってスローインを獲得。そのスローインからのボールをオーストラリアのDFがクリアできないでいると、詰めた名和田が決めてあっさりと先制。
さらに、その後も攻め手を緩めなかった日本は23分に追加点を決める。
やはり最終ラインからの深いボールを追った左サイドの吉永夢希が正確なグラウンダーのクロスを入れると、走り込んだ道脇がGKの位置を見てコントロール・ショットを決めた。
組織的な守備でボールを奪うと相手のプレスをかいくぐって素早く正確にパスを展開する日本。一方、オーストラリアはプレスをかけられるとボールを下げる場面が多く、前半は日本のシュート8本に対して、オーストラリアは1本もシュートを打てなかった。
後半に入るとオーストラリアが攻め込む場面も増えた。そして、62分にはアバウトな浮き球をオーストラリアの選手がヘディングでつなぐと、ネストリー・イランクンダにつながり、イランクンダのパワフルな突進を止めきれずに日本は1点を失った。
しかし、この失点にも慌てなかった日本は74分に決定的な3点目を決める。
中盤でパスをカットした矢田龍之介(清水エスパルス)から佐藤に正確なパスが渡り、佐藤が数歩持ち運んでからボックス内に進入した高岡怜颯(日章学園高)の足元にパスを送り、高岡が鋭い切り返しでDFとGKのマークをはずしてネットを揺らした。
その後、終盤にかけてはオーストラリアに押し込まれる場面があったが、日本はカウンターからチャンスを作り続けて逃げ切った。
早い時間い先制して、その後攻め手を緩めずに追加点を奪って2点をリードして折り返し。後半は危ない場面も作られたもののしっかり守り切って、さらに追加点を決める素晴らしい試合運びだった。
最後の時間帯には足が止まって攻め込まれたが、グループリーグ最終戦から中3日のオーストラリア相手に中2日で戦っているので仕方ないところだろう。
それでも勝ち切れたのは、グループリーグ3試合目のインド戦でメンバーをかなり変更して戦えたことの成果。メンバーを変えても戦えることが、最近の年代別日本代表の良さであり、また2015年にU-15日本代表監督に就任してからずっとこの年代の代表を率い続けている森山監督の経験値というものだろう。
今回の大会も、日本代表の戦いぶりは万全とは言い難かった。
初戦のウズベキスタン戦では、前半の8分に左サイドでつなぎ、吉永のクロスを道脇がヘディングで決めて幸先良い立ち上がりで、その後も日本が優勢に試合を展開した。しかし、その後も何度かあったチャンスを決めきれないまま後半に入る。
1点をリードした日本は過度に慎重になってしまった。そして、“2点目”を奪えなかったことのツケを支払うことになる。1点リードのまま迎えた83分に、中盤からのアバウトなパスを負い切れず、個人能力の高いアミルベク・サイドフに決められたのだ。
早い時間帯に“2点目”を決めていれば、間違いなく勝利できた試合だった。もちろん、サッカーというゲームは不確定性が高く、いくら攻めてもゴールを奪うことができないことはある。だが、日本代表は“2点目”を奪いに行く積極性に欠けていた。
ただ、ウズベキスタンは最近は各年代別代表の強化に力を入れている国で、グループD最強の相手だった。たとえばアルゼンチンで開催されたU-20ワールドカップではグループリーグを勝ち抜いてラウンド16に進出している(日本はグループリーグ敗退)。そのウズベキスタンと引き分けたことは、勝点計算としては悪い結果ではなかった。
日本は2戦目ではベトナム相手に4対0。最終インド戦では8対4という乱戦に持ち込まれてしまったものの、様々なパターンからゴールを積み重ねた。ウズベキスタン戦からの反省と相まって、日本代表には得点に向けての積極性が高まっていった。
インド相手に4失点というのは「大失態」だった。大量失点の原因は、“格下”のインド相手に前半のうちに3対0とリードしたことで気の緩みが出たこと。どんな相手、どんな状況でも緊張感を持って戦わなければいけないということを再認識する結果だった。
インド戦の大量失点が意図的だったわけはないが、日本の選手たちはグループリーグの3試合を通じて「攻撃への積極性」と「守備での集中」という反省点を胸にオーストラリア戦を戦えたのだ。
こうして、ベスト4に進出した日本代表。6月29日の準決勝ではイランとの対戦が決まり、イランに勝利すれば韓国またはウズベキスタンとの決勝に臨んで、2018年大会に続く大会2連覇を狙うことになる(2020年大会は新型コロナウイルスの感染拡大により開催中止)。「ワールドカップ出場権獲得」という重圧が取れた中で、良い内容でしっかり複数得点を奪っての勝利を目指してほしい。
彼らの本当の目標は11月のU-17ワールドカップだ。当初は南米のペルーで開催される予定だった大会は、ペルーが準備不足のために開催を返上。つい先日、FIFAからインドネシア開催が正式発表された。
インドネシアはU-20ワールドカップのために準備を進めてきたが、イスラエルの参加問題を巡って紛糾。同大会の開催国はアルゼンチンに変更された。その代わりが、U-17ワールドカップなのだ。
開催地がインドネシアに変更になったのは、日本にとってはアドバンテージとなる。
ペルーに比べて移動距離は短く、時差もほとんどない。そして、東南アジアの湿気を含んだ暑さは他の大陸諸国にとっての負担が大きい。U-17アジアカップではサウジアラビアが準々決勝で敗退し、イランも準々決勝ではスコアレスドローの後のPK戦での勝利で勝ち進んだ。中東の強豪国も、東南アジアの気候に苦しめられているのであろう。
その点、日本は東南アジアで戦う機会が多く、また日本の夏も高温多湿。そのうえ、タイでの7試合の経験も生かせるので、インドネシアの気象条件は日本にとって追い風になる。グループリーグ敗退となったU-20日本代表のリベンジを目指してほしいものだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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