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日本代表史上最高の勝利だった。
ペルー代表はFIFAランキングで21位。20位の日本とは同格で、2022年のカタール・ワールドカップにも出場した南米の強豪だ。必ずしもベストメンバーではないとしても、間もなく始まる2026年ワールドカップ南米予選に向けて本気度も高い。
しかも、6月16日には韓国の釜山(プサン)で韓国代表と対戦して1対0で勝利したばかり。時差のない韓国で1試合をすませているだけに調整も進んでいたはずだ。
しかし、日本はそのペルーを一蹴したのである。
もちろん、ペルーは強かった。
開始4分までに2点をゲットし、さらに相手が1人少なくなってしまったエルサルバドル戦とは違って、開始直後はなかなか日本のペースにはならなかった。キャプテンとしてプレーした遠藤航が中盤でボール奪取能力の高さを見せて開始直後から激しい試合となったが、日本は奪ったボールをうまくつなげなかった。
エルサルバドル戦で素晴らしいプレーを見せた旗手玲央もインサイドハーフのポジションで孤立してしまい、なかなかボールに触れない。
すると、旗手はすぐにポジションを1列下げることによってプレーに関与し始めたのだ。
遠藤をアンカーに置いた4-1-4-1が基本なのだが、エルサルバドル戦でもそうだったように臨機応変にMFが配置を変えた。2人のインサイドハーフのうち旗手が下がり気味で遠藤と並び、一方、鎌田大地はトップ下もしくはツートップ気味のポジションをとる。
こうして、旗手がプレーに関われるようになると、10分を過ぎたころから次第に日本のパスがつながり始める。
この段階では、旗手がポジションを下げたのは奪った中盤を厚くして奪ったボールをつなぐためだったが、その後も、相手の出方や試合の流れによって選手たちは臨機応変にポジションを変えた。後半は、旗手に代わって守田英正がインサイドハーフのポジションに入ったが、守田もやはりポジションを上げたり下げたりしてバランスを保った。
こうした微調整を、ベンチからの指示を待つことなくできるようになったところも、6月シリーズの大きな収穫だった。
日本がボールをつなげるようになれば、現在の日本のストロングポイントである2列目の攻撃力が生きる。
三笘薫が、旗手やサイドバックの伊藤洋樹のサポートを受けてドリブル突破を見せる。
三笘はキレキレという状態ではなく、イージーミスもあったが、やはり相手にとっては大きな脅威。22分の伊藤の先制ゴールの場面でも、三笘が外側を伺う姿勢を見せたことで相手DFが引き付けられて伊藤に対するプレッシャーがかけられなくなった。
ペルー戦では左サイドには伊東純也が入った。
伊東は、カタール・ワールドカップ最終予選で日本のエース格として活躍したが、その頃のレベルを完全に維持していた。エルサルバドル戦で右サイドを担当した堂安律と久保建英が思ったように機能しなかったのに対して、伊東とサイドバックの菅原由勢の崩しは破壊力があった。
菅原は、酒井宏樹が代表から離れてから右サイドバックのポジションに定着しつつあるが、ペルー戦でも素晴らしいパフォーマンスを見せた。
縦へのオーバーラップで伊東とのコンビネーションも良かったし、回数は少なかったが、中盤のボランチに位置に入ってパスを出す役割もこなした。
13分に、ボランチの位置に入った菅原が谷口彰悟からのパスを受けて、やや無理な体勢から右の伊東につなぎ、伊東のクロスに古橋亨梧が合わせたのが日本の最初のビッグチャンスとなった。
日本代表は、カタール・ワールドカップの時点と比べて明らかに強くなった。
最大の原因は、選手たちの個人能力がの向上。ドイツ、スペインに勝利して自信を付けた日本の選手たちは、ワールドカップ終了後所属クラブで存在感を増した。
三笘はブライトンの攻撃の主力としてプレミアリーグで上位争いを経験。レアル・ソシエダの久保は、まるで水を得た魚のようにプレーを楽しんだ(代表ではポジションを確保できておらず、ラ・リーガでのように余裕をもってプレーできていないが……)。その他の選手も所属クラブでのプレーぶりはワールドカップ前より間違いなくレベルアップしていた。
移籍問題を巡ってフランクフルトでのパフォーマンスが落ちていた鎌田も、移籍のめどが立ったことでシーズンの終盤では輝きを取り戻しており、代表でも久しぶりに良い働きをした。
また、6月シリーズはヨーロッパのシーズンが終了していたので選手たちは早めに帰国しており、長距離移動の直後に集まってコンデション調整をしてすぐに試合といういつもの国際試合と比べてコンディションも良かったし、チームとしてのすり合わせを行ってから試合に臨むことができた。
負傷者続出だった昨年11月のワールドカップ本大会や、厳しい日程だった3月シリーズに比べて選手たちのコンディションははるかに良く、それが好結果につながった。
もちろん、前半終了間際にペルーのラパドゥーラが抜け出して決めたゴールがぎりぎりでオフサイドとなるなど、エルサルバドル戦に続いてペルー戦でも日本にとってラッキーな展開ではあった。
あのオフサイドになったゴールが決まって1点差に追い上げられていたとしたら、選手たちはどのような反応を示したのか。それを見たかった……。そんな贅沢な感想すら抱かせるほどの完勝だった。
ゼドヴラコ・ゼムノヴィッチという名前を覚えておられるだろうか? 1995年に来日したセルビア出身の指導者で、清水エスパルスの監督を務めるなど日本のさまざまなレベルでの指導経験が長い人物だ。
現在は、兵庫県の相生学院高校の総監督を務めているが、ペルー戦の記者席でそのゼムノヴィッチ氏と久しぶりに話をさせてもらったが、ゼムノヴィッチ氏も「今夜の日本は過去最高だね」と手放しの評価だった。
手薄と見れられていたサイドバックも、ペルー程度の相手なら(!)菅原や森下、伊藤で十分といったプレーを見せたし、谷口と板倉滉のセンターバック・コンビも2試合を通じてハイレベルのプレーを見せ続けた。
次の国際試合は9月9日のドイツ戦。ヨーロッパのクラブに所属する選手にとっては移動なしですむ試合であり、土曜日の試合と言うことでチームとしての準備期間も長いだけにさらにハイレベルの試合が期待できる。
ワールドカップの時のようにやはり押し込まれる展開になってしまうのか、それとも互角の打ち合いを展開できるのか。注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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