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『自分たちの弱さを受け入れたタイガー軍団が信じる“伸びしろ”の可能性 高円宮杯プレミアリーグEAST 市立船橋高校×前橋育英高校マッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
自分たちのことは、自分たちが一番よくわかっている。きっと強くはないし、上手くもないけれど、できることは必ずある。この黄色と黒のユニフォームに袖を通したら、もうやるしかないのだから。
「自分たちが弱いことはわかっていたので、弱いなりに戦うことは決めていて、去年のようにうまくはいかないですけど、チームとしてもっと泥臭くやるという感じになっているので、逆に弱いところが自分たちの良いところかなって。そこは伸びしろに繋がりますし、良い意味で注目も浴びられていないので(笑)、それでリラックスしてやれている部分もあると思います」(前橋育英高校・雨野颯真)。
インターハイで日本一に輝き、初参戦のプレミアリーグEASTでも6位と奮闘。高校選手権では大会屈指の完成度を誇るサッカーを披露し、全国8強まで勝ち上がった昨シーズンの前橋育英高校。周囲からも大いに称賛を集めたそのチームの中で、下級生でレギュラーを掴んでいたのはGKの雨野颯真のみ。それ以外の1,2年生は公式戦のメンバーに入ることすら困難だった。
新チームで初めて挑んだ群馬県の新人戦は、準決勝でプレミアから降格した桐生第一高校と対峙すると、1-2と敗戦を突き付けられてしまう。プレシーズンも確固たる自信を得られず、迎えたプレミア開幕戦では昨年のEAST王者・川崎フロンターレU-18にアウェイで0-3と完敗。試合後に「力の差が現れましたね。こういう強度とかスピードに慣れていないので、時間が掛かってしまうかなと思います」と山田耕介監督も話したように、今後への大きな不安を抱えた中での2023年シーズンの船出となった。
だが、リーグ戦7試合を終えた段階での順位は4位。第2節から第4節までは3連勝を達成し、現状でも4勝3敗と白星が先行しているのだ。「自分たちよりほとんどが強い相手なので、そういうチームに勝てていることは自信になっていますし、この間のレイソル戦のように、内容が悪い中でも勝ち切れるという部分で、成長しているのかなと思います」と話すのは今季の14番を背負う山崎勇誠。言及した柏レイソルU-18戦も前半に先制を許し、後半にもPKを献上したものの、雨野が気合のセーブで2失点目を回避すると、直後に山崎のPKで追い付き、最後はFKの流れから熊谷康正が決勝ゴール。90分間で記録した4本のシュートのうち、2本を沈める効率の良さで逆転勝利を手繰り寄せた。
「最初のフロンターレ戦でプレミアの基準を思い知らされて、そこからチームとして良い守備から良い攻撃に繋げるところや、1つ1つのプレーを大事にするところで、意識が変わってきたのかなと思います」と右サイドバックを務める青木蓮人が話し、「フロンターレ戦でプレミアはスピード感が全然違うことを学んだので、練習の中の強度やゴール前で身体を張るところは、新人戦の時より成長したと思います」と山崎もきっぱり。やはりプレミアの開幕戦で王者と対峙したことが、良い意味でその後の携えるべき基準を与えてくれたことは間違いない。
第2節の旭川実業高校戦では2ゴールを叩き出し、第4節の横浜F・マリノスユース戦でも先制点を奪取。自身の結果をチームの勝利に結び付けてきた斎藤陽太も「プレミアの開幕前と今を比べてもボールを持てるようになりましたし、ゴール前で身体を張る部分も、2か月前と比べたら断然違うと感じています」と語れば、ボランチで7試合すべてにスタメン出場している石井陽も「チーム全体で守備のところは本当に意識してやっていて、最後まで身体を張るところとか、連続して守備するところは練習からしっかりトレーニングできていて、それが勝利に繋がった試合もありましたね」と認めており、やはり『ゴール前で身体を張る部分』の成長は彼らの共通認識のようだ。
また、センターバックとして守備陣を束ねる熊谷は、チームの雰囲気に変化を感じているという。「たとえ失点したとしても、『まだまだ取り返せるぞ』みたいな気持ちはチームとしても出てきましたね。フロンターレ戦は決められたら、みんな『ああ……』となってしまう感じだったので、そこは良くなっている感じがします」。とりわけその言葉を証明したのが柏U-18戦であり、確実にメンタル面でも成功体験は積み上がっている。
それでも、まだ絶対的な手応えを掴んでいるわけではない。この日の市立船橋高校戦も相手にボールを持たれる中で、先に2点を奪われる苦しい展開に。後半は途中出場のオノノジュ慶吏の推進力で何度かチャンスを作ったものの、それを生かし切れずに0-2で敗戦。「前回も逆転という良い流れで来ていた分、今回のこの負けでゼロに戻ったというか、市船さんの方が1枚上手だったのかなと。チーム的にも安定感がまだまだないと思います」と雨野も口にするなど、継続して結果を出すだけの力はまだ兼ね備えきれていない。
ただ、裏を返せばそれはまだまだ成長の余地が十分に残されているということ。キャプテンも任されている雨野の言葉が頼もしい。「去年のチームも試合を通してどんどん成長していきましたし、今年はその伸びしろが去年より大きいと思うので、試合を積み重ねていくうちに、どんどん成長していると思います」。
2か月前よりグループ全体が進化していることは疑いようがない。自分たちの弱さを受け入れたタイガー軍団は成長の余地、つまりは“伸びしろ”の可能性を信じて、決して歩みを止めることなく、一歩ずつ、一歩ずつ、着実に前へと進み続けている。
前橋育英高校のキャプテンを務める雨野颯真
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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