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サッカー フットサル コラム 2023年5月4日

サッカーにこそ必要なのではないか? MLBで採用された「ピッチクロック」ルール

後藤健生コラム by 後藤 健生
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VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)

モニターでプレーを確認するプレミアリーグの主審

J1リーグの第11節。湘南ベルマーレ対柏レイソルの試合はVAR判定が勝負を分けた。

前半25分に茨田陽生のスルーパスに合わせた平岡大陽が見事なシュートを決めて湘南の先制かと思われたのだが、VARが介入してオフサイドでゴールは取り消された。その直後にスルーパスに合わせて飛び出した柏のマテウス・サヴィオがゴールを決める。すぐにオフサイドの旗が上がったのだが、こちらはVAR判定によってオフサイドは取り消されてゴールが認められたのだ。

どちらの判定も、オフサイド判定としては非常に長い時間がかかった。おそらく、3Dラインで赤と青のラインを引いて判定する非常に微妙なものだったのだろう。おかげで、アディショナルタイムは前半としては長い6分に達した。

VARが導入されてから試合が長時間中断することが多くなり、カタール・ワールドカップでも相だったが、10分近いアディショナルタイムも珍しくなくなっている。

「サッカーというスポーツはプレーが中断しないのが魅力」だったはずなのに、ずいぶん変わってしまったものである。

その他にも、FKやCKに時間をかけたり、リードしているチームが選手交代でたっぷり時間を使ったりする場面もよく見かける(これは、昔からある見慣れた光景だが)。

一方で、中断の時間を短くしようとしてルールを変更したスポーツもある。

そう、アメリカのメジャーリーグ・ベースボール(MLB)である。

MLBでは今シーズンいくつかの重要なルール変更があったが、中でも注目されるのが「ピッチクロック」だ。

ピッチャーは、キャッチャーからの返球を受けてからランナーがいない時には15秒以内、ランナーがいる時には20秒以内に投球動作に入らなければボールが宣告される。一方、バッターの方は残り8秒までに打撃姿勢に入らないとストライクを取られてしまう。

試合のテンポを上げて試合時間を短縮するためのルール変更だ。

かつてはアメリカの“最大の娯楽”と言われたMLBだが、人気は低落傾向にあり、今ではアメリカン・フットボールのNFLやバスケットのNBAの後塵を拝するようになっている。そこで、試合をテンポアップすることで人気回復を図ろうというだ。

一般的にボールゲームでは試合時間が決まっており、その時間内にどれだけ得点するかを競う。サッカーやラグビーがそうだし、野球以外のアメリカのプロ・スポーツもそうだ。

サッカーの試合時間は90分。基本的には時計は止まらず、45分になった瞬間に試合終了となる(VARの介入や選手の負傷などの場合は時計は止まり、アディショナルタイムとして試合時間が延長される)。そのため、試合終了が近づくとリードしているチームはボールを保持するなどしてなんとか時計を進めようとするし、リードされている側は時間を無駄にしないように攻撃する。

だが、野球では「試合時間」は決まっていない。3つのアウトを取られなければ攻撃はいつまででも続くし、何時間かかっても9イニングを終了するまで試合は続く(大会によっては大差の場合にはコールドゲームになる)。日本のプロ野球では延長戦の時間制限があるが、アメリカのMLBでは延長は無限に続く(MLBでは延長戦ではタイブレーク制が導入されている)。

英国や旧英国植民地で盛んなクリケットも時間制限がない。だから、昔のクリケットは2日、3日かかることもあったが、最近のルールは投球数の制限があるので3時間くらいで終了する。

しかし、「ピッチクロック」が取り入れられたことで、ついに野球選手も時計を気にしながらプレーすることになったのだ。満塁の場面で3ボールの後に「ピッチクロック」違反を取られたら押し出しで1点が入って試合が終わってしまうことだってありうるわけだ。

野球というスポーツはワンプレー毎に(ピッチャーが投球してバッターが見逃したり、空振りしたり、ヒットを打ったりすると)いったんプレーが止まって守備側、攻撃側がそれぞれリセットしてからプレーが再開される。プレーは非連続的なのだ。

アメリカのスポーツはプレーが(時計が)止まる機会が多いが、サッカーではプレーは基本的には止まらない。プレーが中断するのはゴールが決まったり、ボールがライン外に出たり、反則があったりする場合などだけ。選手の交代準備が完了しているのにプレーが停まらず、交代選手が何分も待たされることもある。

そんな「プレーが止まらないのが魅力」というサッカーなのに、最近はVARのおかげで中断だらけになってしまった。それなら、試合のテンポアップのためにサッカーにも「ピッチクロック」が必要なのではないか?

たとえばFKやCKの場面でリードしている側の選手がなかなかボールを蹴らずに時間稼ぎをしたり、FKの場面で守備側の“壁”が10ヤード離れずに時間を消費する。あるいは、選手交代の時に退場する選手がタッチラインに向かってゆっくりと歩いて時間を使う……。

そんな遅延行為は禁止すべきなのではないだろうか。

現行ルールでも、極端な時間稼ぎに対してはイエローカードを出ることはあるが、実際にカードが示される光景はあまり見ない。だから、時間稼ぎが横行するのである。

アンジェ・ポステコグルー監督就任以来、横浜F・マリノスはCKやFKの場面で時間をかけずにスタートすることを徹底している。相手が守備を整える前に試合を再開するのだ。

そうしたクイックスタートによってサッカーのエンターテインメント性は明らかに高まるはずだ。だが、残念ながらゆっくりと時間を使うチームがまだまだたくさんあることも事実なのである。

サッカーの「ピッチクロック」……。

たとえば、FKを20秒以内に蹴らなかったら相手ボールになってしまうとか、10秒以内に“壁”が10ヤード離れなかったら、FKの位置をさらに10ヤードだけゴールに近づける。あるいは、交代時に10秒以内にラインの外に出なかったら選手交代を認めない……。スローインでも、10秒以内に投げなかったら相手ボールにしてしまえばいい。

これは、けっしてサッカーに馴染まないルールではないと思う。

今でもサッカーそうしたルールはある。GKの「6秒ルール」だ。違反すると相手ボールの間接FKになる(たいていのGKは6秒が近づくとボールを自ら手から離す)。フットサルには「4秒ルール」というのがあって、キックインやCK、ゴールキーパースローを4秒以内に行わないと、ボールの所有権は相手チームに移ってしまう。

「プレーが止まらないこと」こそがサッカーが魅力的である理由の一つなのだからこそ、サッカーには野球以上に「ピッチクロック」ルールが必要なのではないだろうか。

大谷翔平出場のMLBをテレビで見ながらそんなことを妄想する日々である。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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