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決勝第2戦は埼玉スタジアム2002
サウジアラビアの首都リヤドのキング・ファハド・インターナショナルスタジアムで行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝の第1戦で、浦和レッズは興梠慎三が53分に同点ゴールを決め、貴重なアウェーゴールを持って埼玉スタジアムで行われる第2戦に臨むこととなった。
アル・ヒラルはサウジアラビアを代表する強豪。前身のアジアクラブ選手権時代を含めてACL決勝進出はなんと9回目(うち優勝は4回)。2017年の決勝では浦和に敗れたものの、2019年には浦和を破って雪辱を果たしており、そして、前回の2021年大会でも優勝している(現在行われている大会は「2022年大会」である)。
また、今大会の準決勝ではカタールのアル・ドゥハイルを7対0と一蹴。昨年のカタール・ワールドカップのグループリーグ初戦で最終的に優勝を遂げたアルゼンチン代表相手に逆転勝ちしたサウジアラビア代表の多くの選手を擁し、前線には強力な外国籍人選手を並べるなど、その前評判はすこぶる高かった。
実際、キックオフの笛が吹かれるとアル・ヒラルがボールを持つ時間が長くなり、13分には右サイド(浦和の左サイド)のミシャエウが鋭いターンを見せてSBの明本考浩をはずし、ミシャエウからの高速クロスがDFの足先をかすめて逆サイドまで抜けたところを逆サイドから詰めてきたサレム・アル・ドサリに決められてしまう。
ツートップにはフィジカルの強いマレガとオディオン・イガロが存在感を放つが、両サイド・アタッカーのドリブルも非常に厄介な存在だった。さらに、ピッチ状態の悪さから、浦和の選手に技術的なミスも多発する。
「これから、いったいどうなってしまうんだろう?」と思った方も多いだろう。
しかし、浦和の選手はすぐに対応し、ゲームは落ち着き始めた。
これには2つの要素が絡んでいるように思える。1つ目は、キックオフ直後からフルパワーで攻勢をかけてきたアル・ヒラルの選手たちに疲労が溜まったことで、無酸素運動系のスプリント回数が減ってきたのだ。
そして、2つ目の要素は浦和の選手全員が落ち着いて守備のタスクをこなしたこと。
CBのアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンの2人がしっかりと距離を保ちながらカバーし合い、ボランチの岩尾憲と伊藤敦樹の2人も最終ラインの前でスクリーンをかけ、そして、奪ったボールを前線につなげた。
アル・ヒラルの攻撃にチームの守備網が押し下げられたため、浦和の前線は孤立してしまったが、そんな中でも興梠はしっかりとボールを収めて味方を使ったり、相手のファウルを誘ったりして攻撃の起点を作り、さらにプレスバックして守備にも貢献した。
CBとボランチ、そしてワントップという“チームの中心軸”が安定したことによってアル・ヒラルの攻撃を封じることができたのだ(右サイドバックの酒井宏樹の存在も頼もしかった)。チームが崩れなかったのは、今シーズン新たに就任したマチェイ・スコルジャ監督がある程度メンバーを固定してチームを熟成させてきたことの成果でもある。
その後も、アル・ヒラルがボールを持つ時間は長かったが(ほぼ70%の保持率をキープ)、15分以降は浦和側のミスパスがあった時以外ではアル・ヒラルは決定機を生み出せなかった。そして、次第にボールを奪った浦和がパスをつなぐ場面も見られるようになっていった。
こうして、0対1で迎えた後半。やはり、立ち上がりはアル・ヒラルがフルパワーで攻め込む時間もあったが、すぐにスローダウン。浦和も鋭い反撃の姿勢を見せ始める。
そして、15分には相手のクリアを拾った伊藤から岩尾、大久保智明とつながり、大久保が相手守備ラインの裏を狙って走る興梠の前のスペースを狙って鋭いスルーパスを出すと、興梠と並走していたアリ・アル・ブライヒがクリアしようとしてミスキック。GKの横を通過ししたボールはゴールポストに当たって跳ね返る。そして、足を止めずに走り込んだ興梠がゴール中央に蹴り込んで同点に追いついたのだ。
その後は激しい試合となったが、浦和は交代カードをうまく切りながら守備の強度を落とさずにうまく戦い、アル・ヒラルがロングボールを使って攻撃を仕掛ければ、浦和はカウンターを狙うという攻防が続いた。そして、86分には岩尾と絡んだサレム・アル・ドサリが報復で岩尾を蹴って一発退場。
その後も、アル・ヒラルが迫力ある攻撃を仕掛けてきたものの、浦和はしっかりと守備を固めて1対1のまま試合を終えることに成功した。
決勝の第2戦は1週間後の5月6日。浦和はホームの埼玉スタジアムでアウェーゴールのアドバンテージを持って戦える。浦和有利なのは当然だ。
ただ、浦和の選手たちは長距離移動を経て6時間の時差を調整してリヤドで戦った後、再び長距離移動を強いられる。それに対して、アル・ヒラルの選手たちは長距離移動が1回で済む。浦和の選手たちの方が負担は大きいはずだ。しかし、アル・ヒラルの選手たちは国内や中東諸国を以外で戦うことが少ないので、日本人選手に比べて移動に慣れていないというハンディキャップもある。
このあたりは、東西に大きく広がるアジア大陸で戦うことの難しさである。
第1戦が行われたリヤドは試合開始時間でも気温が29度ほどあり、湿度は10%台だったようだ。
乾燥しきった中での戦いも苦しいものだ。僕はサウジアラビアには3度ほど行ったことがあるが、とくにアラビア砂漠の中央に位置するリヤドの乾燥は異常なものだ。
1997年のフランス・ワールドカップ予選のアラブ首長国連邦(UAE)対日本の試合がアブダビで行われる前週に(日本代表の試合はなかった)、サウジアラビア対クウェートの試合をキング・ファハド・スタジアムで観戦した。9月だったので昼間は50度近い高温になり、夜でも30度を超す暑さだった。そして、空気が乾燥していたためにメモの用紙をめくるたびにパリパリと折れてしまいそうだった(洗濯物がよく乾いて嬉しかった記憶もある)。
ちなみに、アブダビは気温は40度台前半だったが、逆に湿度が高くて大変な蒸し暑さだった。
浦和が2022年度のACLへの出場を決めたのは、2021年の12月に行われた天皇杯決勝で勝利したからである(槙野智章の劇的な決勝ゴールをご記憶だろう)。そこから集中開催で行われたグループリーグと浦和で開催された準決勝までのセカンドラウンドを経て決勝に進出。2月に予定されていた決勝が諸事情あって4月、5月に延期され、天皇杯での勝利から1年半、2度のシーズンオフを経てようやく辿り着いたゴールなのだ。
2月に決勝が行われていたら新監督就任直後でとてもアル・ヒラルと戦うことは不可能だったろう。だが、4月に入って急速にチームがまとまってきたことで優勝が手の届くところまできた。そういう意味では、“神の見えざる手”が浦和を頂点に導こうとしているようにも思えるのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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