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いつだって狙うのはゴール一択。名古屋グランパスU-18・貴田遼河が突き進む「世界一の選手」への道【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史名古屋グランパスU-18・貴田遼河
小さくまとまるつもりなんて毛頭ない。その鋭い視線の先には、誰もが目にしたことのない頂だけを真剣に見据えている。ゴールだけを常に狙っている生粋のストライカーであれば、それぐらいの心意気があって、ちょうどいい。
「言い方は悪いかもしれないですけど、プロに上がるのは正直自分の中では通過点だと思っていて、自分が最終的に目標にしているのは世界一の選手なので、トップチームに上がってから活躍しないと、そこには届かないと思っていますし、トップチームでもどんどん点を獲っていきたいです」。
名古屋グランパスU-18の絶対的エースにして、既にトップチームでの鮮烈な“お披露目”も終えている期待の点取り屋。貴田遼河が突き進んでいるのは、世界一の選手へと続く果てしない道にほかならない。
昨年の7月13日。その2日後に17歳の誕生日を迎える貴田は、天皇杯のセレッソ大阪戦でスタメンに抜擢される。言うまでもなく周りは全員がプロサッカー選手。緊張しない方が難しいようなシチュエーションに、表情も強張っていた高校2年生へある“先輩”が声を掛ける。
「天皇杯に行く前のトレーニングから、今はベルマーレにいる阿部(浩之)さんがずっと自分のことを気に掛けてくれていて、試合前も『緊張する意味がわからない』みたいに言われたんです(笑)。『みんなオマエに期待しているわけでもないし、失うものなんかないんだから、緊張するより楽しんだ方が得だぞ』と言われて、ものすごく良いメンタルで試合に入れました」。阿部のさりげない気遣いが、とにかく嬉しかった。
セレッソで印象に残っているのは西尾隆矢。日本代表にも招集されている若手の有望株相手に、感じたことは少なくなかった。「マッチアップした西尾選手は代表にも入っていて、フィジカルは自分が今までやってきた選手と比べものにならないぐらい強かったです。でも、うまく身体を使うことができれば、やれないことはないなという感覚はありました」。ゴールこそ奪えなかったものの、59分間の出場で一定の手応えを得たことは間違いない。
だからこそ、今年のシーズン前に参加したトップチームのキャンプで、突き付けられた自分の実力不足が、とにかく悔しかった。
「天皇杯に出てからユースに戻った時も、なるべくトップの感覚をなくさないように、自分の基準を落とすのではなくて、ユースの選手の基準を上げるという気持ちでやっていたつもりでしたし、『自分はやれる』と思ってキャンプに行ったんですけど、自分が思っていたような結果は出せなかったですし、トップに定着することもできなかったので、結局は“やっていたつもり”で、『無意識のうちに基準が落ちていたんだな。もっともっと自分の基準を上げる必要があるな』と思いました」。改めてトップチームへと帰ってくることを誓い、高校生ラストイヤーとなる勝負の1年のスタートを切った。
プレミアリーグをピッチで経験した選手も多い今年のU-18のチームメートには、貴田も頼もしさを感じている。「今年のチームは1年生も含めて本当に上手い選手が多くて、ボールをしっかり回せますし、相手が前からハメてきても、パスや個で打開できる選手が例年より多いんじゃないかなと思います」。多くを語らなくてもイメージを共有できる仲間とのプレーが、楽しくないはずがない。
そもそも昨シーズンから、彼らの元気っぷりは際立っていた。ゴールが決まった時に我先にと騒ぐのは、貴田や鈴木陽人を筆頭にした2年生たち。今シーズンもウォーミングアップから楽しげな大声が飛び交っており、そのあふれるエネルギーは見ているこちらにとっても心地良い。
「今年も結構明るいチームですね。試合前からの雰囲気作りも自分たちは大事にしているので、そこから相手に勝とうというところも意識していますし、そういう雰囲気が失点した後の空気感にも繋がるので、それも試合に影響してくるんじゃないかなと思います」(貴田)。ここまでのプレミアWESTでは、4試合を終えた時点で3勝1分けと12チーム中唯一の無敗を続け、首位をきっちりキープ。早くもその強さを証明しつつある。
まだ寒さの残る3月。2023年の目標を問われた貴田は即答した。「Jリーグで点を獲ることを一番に考えています。いろいろなトップの活動に参加させてもらうにつれて、『まだまだだな』と感じることが多いですけど、『ずっとトップでやりたい』という気持ちも増しているので、今年はJリーグで点を獲るということを目標にしています」。
その目標は、早々に達成された。4月19日。ルヴァンカップで2試合続けてスタメン起用された貴田は、横浜FC相手に鮮烈な2ゴールを奪い、勝利の主役をさらってしまう。だが、もちろんそれで満足するようなタマではない。その試合で負ったケガで戦線離脱を強いられたものの、きっともう次のターゲットを見定め、それに向けて力強い一歩を踏み出しているはずだ。
U-18での背番号は、昨シーズン背負っていた10番から、ストライカーナンバーの9番に変わった。その新しい番号には、クラブのレジェンドの想いが乗せられているという。
「もともと10番よりは9番の方が好きで、今年も10番だったらそれはそれで良かったですけど、去年はユースのコーチをされていて、今年からトップチームに行った吉村圭司さんが『点取り屋になってほしい』という想いを込めて9番を渡してくれたので、今年はとにかく点を獲りたいなと思っています」。
その男が希求するものは、いつでも、どこでも、変わらない。その戦うステージがプレミアであっても、Jリーグであっても、あるいは世界の頂であっても、貴田が狙い続けるのは、多くの人を一瞬で笑顔の歓喜に包み込むことのできる、自らのゴール一択だ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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