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1998年フランスでのワールドカップは同じ初出場組のジャマイカにも敗れて3戦全敗に終わったが、当時、それを咎める者は誰もいなかった。それが、今ではグループリーグを突破しても「ラウンド16止まり」などと批判されるようになったのだ。
1960年代以降、高度経済成長を続けた日本は1980年代にはアメリカに次ぐ世界第2の経済大国となったが、その後の経済政策の相次ぐ失敗によって日本経済は停滞を続け、1990年代以降は「失われた30年」と呼ばれることとなった。
しかし、野球とサッカーという日本のメジャースポーツの歴史を顧みれば、どうやらこれまでの30年はスポーツ界に限って言えば「停滞」どころか「発展の30年」だったようだ。
いや、もっと長いスパンで見ても、この半年間にわれわれが味わったサッカーのワールドカップおよびWBCでの成功は、日本のスポーツ史の中で特記すべき事項だった。
今から約150年前、近代化路線を歩み始めた明治新政府は科学技術や軍事、政治、法律、芸術などあらゆる面で欧米化を推し進め、同時に西洋発祥の近代スポーツにも取り組み始めた。
だが、当初は日本人が本場の選手に敵うわけもなく、日本人や同時期に近代スポーツに取り組み始めた東アジアの諸国民は欧米人に対して劣等感を抱かざるをえなかった。
考えてみれば当然のことだ。近代スポーツというのは、欧米人が欧米人のために作ったゲームだった。欧米人とアジア人では体の構造も違ったし、体の動かし方つまり身体文化が違ったのだ。たとえば、武術などで戦ったらアジア人も欧米人に遜色なかったはずだが、筋力やパワーを比べる近代スポーツではなかなか欧米人に太刀打ちできなかった。
欧米のチームに敗れるたびに「フィジカル能力の違い」が語られ、ある意味でそれは日本のスポーツ界にとって都合の良い「言い訳」にもなった。
だが、近代スポーツの導入から1世紀半が経過した今、野球もサッカーも本場の代表チームを相手にタイトルを懸けた真剣勝負で勝利できるようになったのだ。大谷翔平がフィジカル的に欧米人に劣っているなどとは、世界の誰も思わない。
つまり、日本のスポーツ史は新しい時代に突入しつつあるのである。もう、劣等感など抱く必要はないのだ。さあ、次はラグビーの番だ。ラグビー・ワールドカップ・フランス大会開幕まであと半年である。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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