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サッカー フットサル コラム 2023年3月7日

真の技術の応酬、勇敢であり続けた結果のスコアレスドローは楽しめる

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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ベティスのCFボルハ・イグレシアスとレアル・マドリーの右CBミリトン

巨漢同士の激突、ミリトンvsボルハ・イグレシアス

ゴールはサッカーの華だ。だが、スコアレスドローの試合でも楽しめることを証明したのが、昨日(5日)のベティス対レアル・マドリーだった。

楽しめた理由の1つは、撃ち合いだったから。

0-0狙いでどちらも守備を重視して攻撃には力を割かない。10人で守って、攻撃は前線で孤島と化している唯一のFWにロングボールを放り込むだけ──こういう試合が一番面白くない。「引き分けで両者残留」という条件が付いた、シーズン最終節かその一つ前の節では、こんな退屈極まりない予定調和のスコアレスドローが起こることがある。

昨夜は違った。チームの設計思想に忠実に、両方とも点を取りに行き、互いのゴールの前まで迫る。が、そこで小さな選択のミス(シュートすべきところで撃たないとか)があったり、DFのスーパーなカットとかGKのスーパーなセーブがあったりしてゴールを割れない。

「ピンチの後にはチャンスあり」。相手に攻め込まれる=カウンターのチャンス。なので、押し込まれてもひるんではいけない。

残り15分間レアル・マドリーが攻め込む回数が増えたが、ベティスは守備的な交代を行わなかった。押し込まれたらカウンターで押し返すことで傾いたバランスを戻そうとした。優勝争いを続けるレアル・マドリーが攻め続けたのは道理だとして、実力差から考えて「引き分けOK」だったベティスが勇敢であり続けたのは称賛に値する。

「肉を切らして骨を断つ」という両者のプランが、シュート数で8(枠内4)対15(枠内5)、CK数で5対3、という数字に反映されている。

もっとも、一番の見ものはゴール前ではなく、その手前にあった。ボールロストをめぐるバトルである。これが素晴らしかった。

今のサッカーはロスト後に激しいプレスを掛けるのは常識になっている。なぜなら、ボールロスト後に再度ボールを奪い返せば、絶対的なチャンスになるからだ。

攻め込む→ボールロストする→相手がカウンターに出ようとする→その瞬間にプレスを掛けて奪い返す→逆を突かれた相手は戻れず、守備に穴が開く→乱れに乗じて一気に攻め切る。この「カウンターに出ようとする相手へのショートカウンター」が、今のサッカーでは一番成功率の高い得点法だろう。

両チームともそれがわかっているから、奪われたら奪い返すという、ボールの周りでプレスの掛け合い、かわし合いという状態がしばしば発生した。安全にクリアに逃げる手もあったが、どちらもそれをしなかった。密集状態の中で、ボールを持っている方は激しいプレスをかわして何とか繋ごうとした。

「プレスをかわす=相手の守備者を減らす」だから、抜け出せれば大きなチャンスに必ずなるからだ。

「時間とスペースのないところで使えるのが真の技術である」と言ったのはイニエスタだったか。その「真の技術」の応酬が昨夜は見られた。

ミスが命取りになる状況でミスをしないレベルの高さ。プレス対プレス、プレス対キープ、プレス対コンビによる打開などの様々なフェイズで、ボールロストは自分のミスというよりも相手のプレスが的中した結果として起こる。うまい、凄いの連続で退屈する暇がなかった。で、どっちかにボールが出たら直ちにカウンターが始まるのだ。

攻撃に人数を割く。プレスをかわして繋ごうとする。いずれもリスク大である。だが、リスクの大きさはスリリングさに比例する。

見応えのあるバトルを個対個で見せてくれたのが、ベティスのCFボルハ・イグレシアスとレアル・マドリーの右CBミリトンだった。

巨漢同士の激突。体を張ってボールをキープしようとする前者と、体をねじ入れて奪おうとする後者。「ハードなプレー」と「ラフなプレー」は紙一重だが、両者は非常にクリーンなファイトを繰り広げた。交代を告げられるとボルハは好敵手ミリトンに歩み寄り握手を求めた。このスポーツマンシップにあふれたすがすがしいシーンが、この中身の濃い引き分けを象徴していた。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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